第4話
佐藤4
佳緒からのメールを読むようになって、もう半年が経つ。
窓の外に目を向けると雪の中、高校生位の男女が手を繋いで歩いている。雪に残っていく足跡を見ながら好きな人と歩いていけるって、なんて幸せな事なんだろうと、夏から捲っていないカレンダーをふと目にして、そんな風に考える。
クリスマスイブの今日、僕は一人部屋に閉じこもり、何十回と繰り返し緒緒からのメールを見ている。
『あっちゃん、いつも佳緒が、私達が同じ日に生まれたのは運命なんだよって言うと、笑ってばっかりいて、あんまり真面目に聞いてくれなかったのに、二人で過ごす初めてのクリスマスの夜、佳緒の大好きなアイスをいつものように2つに割って半分こして食べながら話してくれた事、今でも覚えてくれているかなあ?
生まれる前に天国で結ばれていた二人は、神様からアイスを一個貰って、それを二つに割って、お互いが半分づつ持ち合ってこの世界に生まれてくるんだけど、広い世界で約束の相手にもう一度出遭うのは本当に難しくて、なんとかアイスの割れ目の形を削って他の人と一緒になったりするんだけど、僕はこんなにも早く運命の相手に出遭えた事を、神様に感謝しなくちゃねって言ってくれたよね。佳緒はあっちゃんがそんな風に思ってくれている事、涙が出る位、嬉しかったんだよ。
クリスマスの夜に食べたアイス、棒のところに大当たりもう一本って書いてあって、っ二人で凄いねって笑いあったっけ、あっちゃんと付き合うまでは、世の中ってくだらなくて、佳緒もくだらない世の中に、負けない位に本当に最低で…でもあっちゃんと一緒にいると、まるで自分が映画の主人公になったみたいにキラキラした事でいっぱいだったよ。
あっちゃんは佳緒との約束一度だって破った事ないのに、佳緒は守れない約束がたくさんあるね。
毎年一緒に海の家の焼きそば食べに行こうって約束守れなくてごめん。
二人でお金貯めて初めての海外旅行は絶対にフランスの砂糖とチョコレート博物館行こうって約束守れなくてごめん。
誕生日とクリスマスは何があっても絶対に一緒に過ごすって約束守れなくてごめん。
絶対元気になるって約束を守れなくて、あっちゃんを残して先に死んじゃって本当にごめんね』
僕の手の届かない携帯の画面の中で、佳緒が大事そうに、アイスの当たりの棒を持って肩を震わせて泣いている。
僕が今まで見てきた沢山の本や、先生達の言葉では、人生に取り返しのつかない事なんかないってのが良くでてきたけど、取り返しのつかない事はある。どうしようもないほどに…
今画面の中の佳緒を泣かせているのは佳緒が死んだら自分も死ぬなんて本当に最低な事を言った自分なのだと気づきながら、運命の相手にめぐり逢い、あまりにも早く、その相手を失ってしまった時、残された方は、いったいどうすればいいのだろうかと考える。
何かにとり憑かれたように、繰り返し、繰り返し携帯だけをみる毎日。佳緒と出遭ってからは喜びも怒りも、悲しさも楽しさも、喜怒哀楽の全ての感情が彼女と共にあった。亡くなってもなお、キラキラした佳緒の存在に僕は生かされている。
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