2.
「いやほんとなんです、本当の話なんですってば…!」
少女はそう言って、薄紅色の頬を膨らませる。春の麗らかな日差しが、フローリングに
「も~その話は何回も聞いたって」
「だって
「そりゃそうだよ、『
少女の目の前でコーヒーを
「ほんとなのに…」
発色の良い橙色の髪が、焦げ茶色の瞳に悲しげな影を落とした。
とある街に
◆
「はぁ…朱音さんなら絶対有力な情報を持ってるって思ってたのに」
モーニングタイムが終了し、洗った食器が乾いた頃。少女は何度目か分からない溜息を溢した。
「
朱音は呆れたように笑って煙草に火を付ける。
「諦めるって…そしたら私がここに来た意味ないじゃないですか」
少女…咲穂はそうむくれて、朱音に視線を送った。彼女は目を逸らして紫煙を曇らせる。
「例え咲穂の言ってる話が幻想じゃなかったとしても、
もう一回はさすがに無理でしょ」
呆れたような声とともに、朱音が吐く息が宙に消えた。しかし言葉が消えることは無く、咲穂の胸を
「にしても。私はたったそれだけの理由で『
朱音はそんな咲穂を見やると、皮肉っぽく笑みを零した。高い位置で一つに結ばれた朱色の髪も、咲穂を
「だって…そしたら会えるかもしれないって思ったんですもん」
少女の反論に、朱音は「またまたぁ~」と茶々を入れる。咲穂は自分をいじってくる上司に腹を立て、つんとそっぽを向いてしまった。少女の視線の先では、カーテンの隙間から溢れ出した青が輝いている。彼女はその青さに、その
「…変わった気がしたんです、あの日彼に出会ってから」
小さな窓から外を見やる。青く澄んだ世界を、白い雲がのんびりと泳いでいた。咲穂は今もその青さの中に、あの青年の姿を探している。彼の琥珀色の瞳には、世界に対する侮蔑と憂いが光っていた。だから咲穂を助けたのだ。
「やっぱり難しいですかね」
咲穂は僅かに朱音を振り返り、困ったように笑った。オレンジ色の髪が巻き上がって青と混ざる。
彼と会いたいと願うことは、もしかしたら自分勝手なことかもしれない。でも初めてだった。初めて、あんなにも美しい瞳を見た。少女はその瞳が見据える先の未来を見てみたかった。それはきっと、少女が望む未来と同じであると、そう感じた。
「ん~でもまぁ依頼は依頼だからね。何でも屋としては叶えなくちゃ」
朱音は咲穂の声を聞いて、そう返事をする。この少女は時々、面白いほどに見境のないことをやってのけた。朱音と初めて出会った時も、「何でも屋なら『
朱音の返事を聞いて、咲穂の顔がぱっと輝いた。
「ま、こんな優秀な部下を連れてきてくれた彼にも、一応恩義があるしね?」
「優秀なんて…そんなことないです」
二人は晴天の下、同時に笑みを溢す。その刹那に響く、乾いたベルの音。
「さ、仕事が始まるわよ」
朱音はそう言って席を立った。その後ろを嬉しそうに追いかける咲穂。
「「いらっしゃいませ」」
ここは『
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