第24話 「俺の弟に手を出すんじゃねぇ」



 真心が言うには、本を返却して帰ろうとしていた愛海と図書室で会い、少し話し別れた直後に背後から愛海の抵抗する声が聞こえてきたらしい。急いで戻るとすでに愛海の姿はなく、取り残された鞄だけが置いてあったようだ。生徒会室に行き竜にこのことを話したら海矢たちの居場所を教えてくれ、他の役員に風紀委員に伝えるよう指示した後、役員を数人連れて愛海を探しに行ったのだという。

 海矢と大空は顔を見合わせ、大空は真心の対応、そして海矢は竜たちと情報を共有するため彼らの元へと走り出した。どうか無事でいてくれという思いと共に、犯人への怒りで頭が冷えていくのが感じられた。


「竜っ!」


「先輩っ!!真心から聞きましたか?」


「ああ・・・・・・」


 いつもどっしりと構えている海矢の微妙な態度に、竜は下唇を噛み複雑な表情をする。だがすぐさま自分たちが探した場所を教え、手分けして人気のない場所を効率よく探していくことになった。


「愛海っ!・・・ここもダメか」


 授業後部活動を行っている並びの教室は他の役員に任せ、海矢は人通りの少ない場所をしらみつぶしに探していく。だがどの教室の扉を開けても中は空で、過ぎていく時間に焦りは募っていくばかりだ。いざという時ほど頭を冷静に保たなければならないのに、愛海が関わっているというだけでそれが不可能に近い。汗は全身を流れ、息は上がり、頭の中もぐっちゃぐちゃだった。『頼む。頼むから、いてくれ!!』という思いで開けても、どの教室の中にも愛海はいない。

 人気のないと考えられる教室の最後の扉を神頼みしながら開けるが、そこにも愛海はいなかった。時計を見ると、愛海が連れ去られたという時刻から結構な時間が経っていた。汗はぼたぼたと地面に垂れ、頭が真っ白になる。

 とそのとき海矢のポケットの中に入っている携帯電話が震えた。一体何だと取り出して出ると、相手は生徒会のメンバーの一人で、『相談者が来たので相談室を使おうと思ったところ、扉が開かず鍵も見当たらなかった』という要件だった。


 まさかと思ったが、それが確信に変わり電話を切らずそのまま扉の前に待機することを頼んで海矢は駆け出した。


「愛海っ!愛海!!」


 海矢が着くと、相談室の扉の前には話を聞いた辰巳やいち早く着いた竜、大空、真心、他にも生徒会の役員が代わる代わる扉を開けようと奮闘していた。


「会長!!生徒会室に鍵はありませんでした」


「取られたか」


「全然開かないし、中の音も聞こえないよ!!」


「お前ら、どいてろ」


 走ってきたため汗を流しているが至極落ち着いた様子で静かに言い放った海矢に、皆黙り道を開け扉から離れる。

 竜は海矢を包む雰囲気に思わず息を飲んでしまった。いつも接する、怒ってはいてもどこか根底には優しさや許す心を持つ海矢だが、今はそんなものを持ち合わせている気配が全くしないのだ。その様子を感じ取ったのは皆も同じようで、竜だけでなく辰巳や真心も海矢を見て顔を強ばらせている。 海矢が静かに足を上げるのを見ると、次の瞬間凄い勢いで扉を蹴り飛ばした。

 ばきという鈍い音が聞こえ、扉があちら側へと開く。


「兄ちゃん!!」


「愛海」


 扉の向こう側で見えたのは、椅子に座らされ三人の生徒に囲まれている愛海の姿。一人の生徒が愛海の制服に手を掛けており、今しがた脱がそうとしていたのだろう。それを見た海矢の表情に、その生徒がヒッ!と短い悲鳴を上げる。


「チッ!こいつが話を引っ張るから生徒会の奴らがもう来ちまった・・・。おい生徒会長様よぉ、弟くんの身の安全を守りたいなら、こないだ撮った俺たちの写真を――


 三人の生徒は悪事がバレたにも関わらず嫌な笑みを浮かべ、一人が愛海の髪を掴んでどこから出したのかカッターナイフをその顔に当てながら海矢を脅すと直後その手が掴まれ捻り上げられる。


「イテテテッ!!!」


「クソッお前っ――「「ヒィッッ!!」」


 捻られた拍子に手から落ちたカッターナイフを蹴り遠くへ飛ばすと、大空がすぐさまそれを手に取り確保する。犯人は痛みに叫びながら反対の手で必死に海矢の手を引き剥がそうとするが力が強くて剥がせず、他の仲間が一人は愛海に、もう一人は海矢に飛びかかろうとした瞬間、海矢が彼らを睨み付け低い声でこう言った。


「俺の弟に手を出すんじゃねぇ」


 と。


 海矢の人を殺さんばかりの威圧に完全に気圧された彼らは部屋に突入した風紀委員によって捕まり、愛海は無事救出された。


「愛海っ!!」


「兄ちゃん!!!助けに来てくれてありがとう。大丈夫だよ。僕は大丈夫だから」


 いつもは皆の頼れる生徒会長。そしてさっきは修羅のような恐ろしい顔をしていたのに今愛海の前にいる海矢はまるで泣きそうなほどに眉を下げて愛海の身体を上から下まで探り無事を確認している。その場にいた皆は、本当に愛海が無事でよかったと心から思った。





 





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