第14話 真心の告白



 仲間の助言を受け大事なことにも気づくことができ、休み明け海矢は早速真心に気持ちを伝えようと思ったが、どうにも上手く会うことができなかった。といっても、教室で生徒会長が呼び出すのは他の生徒に目立ってしまうと思い、それはしていない。だが昼休みや生徒会の帰りに図書室を尋ねても、いつも仕事をしているはずの真心の姿はなかったのだ。

 次の週入って、自分は避けられているのだということに気づいた。授業や生徒会で一年生の廊下を歩く機会があったとき、向こうの方に真心の姿を見つけあちらもそれに気づくと、明らかに顔を背けてさっさと歩いて行ってしまうのだ。走って逃げられた時には、横に立っていた竜に『アンタ、真心に何かやったのか?』などと眉間にしわを寄せて聞かれた。

 竜に近頃真心に何か変わった様子がないかと尋ねると、彼は最近休み時間に生徒会の仕事で呼ばれることがあったのであまり真心と会話をしていないと答えた。少し拗ねたように口を尖らせながら、『一緒に仕事してんだから、わかってるだろ』と言われてしまい、確かにそうだと苦笑いを浮かべる。家で愛海に聞いても特に気になる内容はなく、海矢の感じた真心の不穏な雰囲気は普段人と接するときは封印されていることがわかった。あえて隠しているのかもしれない。


「はぁ・・・・・・」


 余計なお世話だと思う。しかし、最終的に真心が自分のことを決めるとしても、海矢は真心の味方であることはどうしても伝えたかった。自分が真心にとってどれほど信用に足る人間かはわからない。だが海矢に頼るという選択肢もあるのだということを知っておいて欲しいのだ。

 上手く真心と接触できず、もやもやとした気持ちが溜まり溜息を吐いてしまった。もしものことが起きやしないか恐れる心と焦りとで、海矢は手を力一杯握りしめた。


 ********


 新しく決まった委員会メンバーの名簿全てにやっと目を通し終え、遅くなってしまった帰路につこうと生徒会室の戸締まりをする。鍵は基本的に生徒会長と副生徒会長がそれぞれ一本ずつ持っているため、鍵を鞄の所定の場所にしまい、廊下を歩き出した。靴を履き替えて誰もいない昇降口を通り過ぎたとき、最近その姿を探し回っていた彼が校舎裏へと歩いて行くのが遠目に見えた。

 見失う前に追いつこうと鞄を押さえて小走りで校舎裏へと向かい、角を曲がり声をかけようと口を開けた瞬間、建物の影に隠れるようにして小さくなっている真心の姿が目に飛び込んできた。急に止まったことで地面と靴とが擦れる音が比較的大きく響いてしまったが、周りを気にしている余裕がないのだろう。真心はしゃがみ込んだ状態で小さく小さく震えていた。泣いているのか、嗚咽のような声が聞こえてくる。近づいても腕に埋められていて顔を見ることはできなかったが、まるで外の全てから自分を守るかのように身体を極限まで縮めていた。その様子が痛ましい。


「真心・・・・・・」


 海矢は静かに真心の肩に手を置き優しく名前を呼ぶと、真心はゆっくりと腕から顔を離し海矢を見上げた。目元は真っ赤になっていて、何回も擦ったことを物語っている。一瞬止まっていた涙が再び流れ出し、辛うじて食いしばっていた口元もせき止めていたものが決壊したように開かれ咽せながら泣き始めた。次から次へとあふれ出してくる涙で濡れた目は、確かに助けを求めていた。

 海矢は思わず、愛海にやるように真心の頭を抱えて抱きしめてしまった。驚きに身体を強ばらせた真心に、申し訳ない気持ちと、安心するようにという願いを込めて小さな背中を軽く優しく摩る。海矢は、真心を助けたい、その気持ちで一杯だった。


「真心、お願いだから、一人で抱え込むのは止めてくれないか・・・・・・。無理に話さなくてもいい。

 お前は自分が“一人”だと思ってるかもしれないが、お前には俺がいる。愛海も竜も、辰巳もいる。真心、こないだ家に来たとき言ったよな。『家族みたいで、みんなでご飯を食べるのが楽しかった』って。

 家族だと・・・思ってはくれないか・・・?誰でもいい、兄とかなんでも・・・・・・ただ、家族のように思って欲しいんだ。真心に頼って欲しいんだ。真心が暗い顔をしていると・・・すごく、心配だから。だから今は、その・・・、お前の側に、いてもいいだろうか・・・・・・?」


 真心は何度も、何度も声を出さずに頷いた後、ひっくひっくと上手く喋ることができず言葉を途切れさせながらも最近真心自身に起きていることを話し出した。

 それはとても許せないことだった。入学した当初から同じクラスの数人の生徒に目を付けられており、ことあるごとに顔など身体の一部を触られることがあったらしい。それが嫌で、毎回『やめて』と言い逃げていたが相手はしつこく、最近はトイレなど誰も目のつかない場所で囲まれて好き勝手に触られ危機を感じたのだとか。あるときは制服を半ばまで無理矢理脱がされかけ、その時に撮られた写真で脅されていて誰にも言えずに泣いていたのだ。


「つらかったな・・・・・・。真心、話してくれて、ありがとう」


 そう言うと、真心は再びわっと泣き出し海矢の胸を温かく濡らした。

 左手で背中を一定のリズムでさすりながら、右手で胸の中の真心の頭を撫でる。柔らかだが芯のある髪の毛は、弱々しいが芯の強い真心のようだと思わせた。


 落ち着いた真心を家まで送り届け、帰りが遅くなったことを愛海にメールで詫びてから海矢は歩き出した。

 真心を守るために動き出すことを心に決めて。























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る