第15話 もう大丈夫



「中郷真心が正式に生徒会に助けを求めてきた。お前ら、いいな?」


「ああ。こちらで犯人の対処と処遇を決める。そっちは証拠と校長への許可をよろしく頼む」


「やぁ~っとオレらも動けるねぇ。腕が鳴るなぁ」


「しっかしよく真心くんも話してくれたね。さっすがまりあ~」


「あれっ、大空もう“海矢”って呼ばないのぉ?」


「もうその話はやめろ」


 生徒会会議室、授業後西日が部屋の中を満たす中椅子に座り言動はふざけながらも真剣な顔で対面する生徒会の役員達と風紀委員の委員長、副委員長。彼らは真心の抱えている問題を解決するため顔を突き合せていた。

 落ち着いた真心に問題を解決することへの許可を貰い、どのくらいまで生徒会や風紀委員の役員に話してもいいかなどを細かく聞いた上で、話してもよいと言われた箇所だけ共有している状態だ。せっかく自分を信頼し辛いことを話してくれた真心に、誠意を持ってその意に従いたい。

 大空と茶介は子どものようなケンカをしており、波は二人の様子を全く気にせずやるべきことをメモしている。竜は一つ年上の役員達の幼い行動に溜息をつき、他のメンバーは呑気に茶を飲んでいる。どこかのどかな空気が流れているが、皆根底には真面目さを持っていることはわかっているため、海矢は心配を欠片も抱かなかった。本当に頼もしい仲間だと思う。


 ********


 放課後の誰も居なくなった教室に佇む生徒が一人。そこにぞろぞろと複数の生徒がにやにやとした笑みを浮かべて入って来る。その無遠慮な足音を聞いた瞬間、青年は肩を撥ねさせた。


「まこちゃ~ん。なになに~、わざわざ誰も居ない教室にいるなんて~」


「もしかして、俺たちに襲ってほしいのかな~?」


「うはっ!超準備いいじゃん!!じゃあ応えてあげないとなぁ」


 そう言って彼らは真心を囲うように近づき、逃げようとする彼の細腕を一人の生徒が掴む。


「イタッ!やめてくださいっ!!」


「まこちゃんが大人しーくしていてくれたら、僕たちも痛いことしないよ?」


「ほらほら、いいのかなぁ~?あの写真、みんなに見られても」


「っ・・・・・・」


「ハハッ大人しくなった。イイ子でちゅね~」


「ハーイ、現行犯~」


 反対側の腕も他の生徒に掴まれ、壁際に身体を押さえつけられる。両腕が塞がったまま抵抗もできず、鼻歌を歌いながら服を脱がされていくのを目を瞑って耐えようとしたその瞬間、その教室に間延びした声が響いた。

 その声に驚き動きを止めた生徒たちの周りを、開いた扉から入ってきた、腕に仰々しい腕章を嵌めた生徒たちが囲み、その身体を拘束する。


「委員長、捕まえました」


「よし、風紀委員室へ連れて行け。後は朝日に任せてある」


「「「承知しました」」」


 波の指令に委員たちが暴れる生徒たちを押さえつけサッサと去って行く。


「おおー!波かっこいい!!」


 それを見届けながら、大空は口笛を吹き撮影していた証拠の確認と保存を行っていた。海矢は彼らが連行されていったのを確認し、少し目尻に涙を滲ませ不安そうに見つめてくる真心に近づき、冷たくなった手を取った。


「真心・・・頑張ったな・・・・・・。もう大丈夫だから」


 安心させるように両手を包み込み優しく握ると、真心の潤んだ瞳から涙が流れ出した。えんえんと泣く真心を宥めるように、大空は『よく頑張った。えらいえらい』と言って頭を、竜は肩を撫で、皆に慰められた真心は泣ききった後、赤くなった目を少しだけ細めて海矢たちに礼を述べた。真心の家まで竜が送ることになり、海矢たちは生徒会室へと戻る。


 大空は先ほど撮影した証拠をさっそくパソコンに転送し、提出できる形にしていく。海矢は数分前に凶悪な笑みを浮かべた茶介から受け取った処罰に対する計画書に目を通し、それを元に校長へと提出する許可申請書をしたためた。計画書はあくまで型にはまったものであり、これから風紀委員によって行われる尋問によっては重くも軽くもなるだろう。波は自分の秤で処遇を決める奴ではないと知っている海矢は、加害者たちの処遇は波に任せようと思っていた。

 普段は証拠を提示した後に対処の許可が与えられてから処罰を執行するのだが、実はまだ校長からの許可をもらっていない。真心が加害者たちの言葉を録音してくれればそれを証拠として正式に彼らを処罰対象とする許可が出るのだが、そうすれば二度も真心を苦しめることになると考えたからだ。今回は現行犯ということで風紀委員によって事実調査をし、その上で事後報告という形となる。


 竜から真心が無事家に着いたことをメールで受け、そのまま竜も帰って良いことを伝える。真心は身長も比較的低く可愛らしい雰囲気を持っているため、愛海という大層可愛らしい弟を持つ兄である海矢にとっては心配してもしきれない存在といえるが、竜も竜で目を引く容姿をしている。真心だけでなく、竜自身も気をつけて帰って欲しいと思った。


「よし・・・・・・っと」


 ペンを置き、誤字脱字がないか目を通し完成した申請書の写しを取る。『う~肩凝ったぁー』と言いながら伸びをしている大空の方を見れば、彼も証拠の提出準備が整ったようだった。海矢は申請書に、加害者に罰を与えること、与える罰、そしてその詳細の決定権と執行権は風紀委員が持つ旨を記した。風紀委員は元々素行の悪い生徒を指導する役目を負っているため、許可は通るだろうと予想される。まぁ、もうすでに行ってしまっていることなのだが。

 自分のやるべきことはやったと海矢は書類を引き出しに入れて鍵を閉めた。校長にアポを取っている明日、校長室で大空と波と共に申請書と証拠の提出を行うのだ。


「お疲れ。後は明日の報告だな!あーあ、茶介の奴、一体どんな処罰にしたのかねぇ」


 帰ろうぜと声をかけてきた大空に返事をし、海矢は鞄を持って立ち上がった。

 その時、目元を真っ赤にしながらも心の底から安心したような真心の自然な笑みが思い出され、海矢は珍しく大きく笑みを浮かべながら、大空の背中をバシリと叩いた。














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