第3話 大空が接近!?
「うわ~ん兄ちゃんネクタイやって!今日僕日直なのに遅刻しちゃう~~!!!」
前世を思い出してから数日後の朝、海矢は勢いよく開けられた扉から飛び出してきた頭が鳥の巣状態の愛海のネクタイを苦笑いしながら結んでいた。
最後に微調節し、よしと言うとすぐさま礼を言って走って家を飛び出していってしまう。
やれやれと思い、鞄に弁当箱を入れようとしたときふと目に入ったのは忘れられた愛海の弁当。おっちょこちょいな奴だなと口元が緩むのを感じながら、海矢は愛海の弁当箱も自身の鞄へと入れたのだった。
********
「ええと、一年五組は・・・と・・・・・・」
昼休み、海矢は薄いピンク色をしたランチバックを手にし、一年生の教室が並ぶ廊下を愛海のクラスを探しながら歩いていた。
つい最近まで自分がいた教室を見て懐かしさを感じるが、他学年のテリトリーに入るという機会に心が落ち着かない。特に、ただ歩いているだけなのに廊下を行き交う生徒たちから視線を向けられる状況というのが、居心地悪く感じられる。
とっとと渡して帰ろう・・・と思ったが、弟のクラスの様子を把握できるチャンスだと思い直し、下に向けていた視線を前に向けた。
『1-5』と書かれた教室のドアを開けた瞬間教室の中にいた生徒たちの視線が一斉に海矢へと向かい中に入るのが躊躇われたが、教室内に愛海の姿を探す。するとすぐに目当ての人物は見つかった・・・のだが、そのすぐ側にあのヤンプリ(ヤンキープリンス)がおり、その距離感はなんだか怪しい雰囲気を醸し出している。
愛しの愛海が自分のことに気がついていないことにも多少傷ついたし、二人の何やら仲睦まじそうな様子に歯ぎしりをしてしまう。
さらに頬を染めて口元をノートで隠す愛海の頭を、向かいに座り優しそうに微笑んだ奴がやんわりと撫でた。
その姿を見た瞬間、海矢は頭に血が上るのを感じながら二人に近づいていく。
先日のように吠えてしまいそうになるのを一ミリ我慢してヤンプリの肩を力を入れて掴み、耳元で恨めしく囁いた。
「何人の弟といちゃこらしてんだあ゛あ゛?」
「イ゛ッ!?」
「兄ちゃんっ!」
嬉しそうな愛海の声に一瞬で肩から手を離し、顔をにこやかなものに変え手に持っていた弁当を掲げた。
「愛海、弁当忘れてたから届けに来たんだ」
「ありがとうっ!!どうしようか困ってたんだ!!あっそうだ!兄ちゃんいっしょに食べよう?」
「おい愛海っ!!」
「そういうことだから、じゃあね竜くん!兄ちゃんっ、僕兄ちゃんの教室行ってみたい!」
「そういうことだ、じゃあな」
自分が声をかけた途端側にいた奴(竜という名前らしい)をほっぽり出した愛海の行動にやや驚いたが、奴よりも自分のことを優先してくれたことに優越感を感じる。ポカンとした彼には申し訳ないが、愛海がせっかく誘ってくれた昼食を誰にも邪魔されたくはない。飛びつくように腕を絡ませてきた弟を可愛らしく思い、海矢たちは生徒たちの視線を浴びながら一年五組の教室を出た。
二年の教室では愛海が目立つだろうし、そもそも他の奴らに可愛い弟の姿を晒したくない。だが牽制するには良い機会か・・・?と考えながら自分の教室に入ると、案の定クラスメイトからの視線が刺さる。
「ぅお~い海矢どこ行ってた・・・って、あれ、弟くん?かわい~・・・・・・」
「ゲッ」
「はじめまして・・・・・・」
自分の席に近づくと、隣に座っていた大空がぐるんとこちらを向き軽い調子で喋りかけてきたが、すぐに愛海の存在に気づき顔を近づけてきた。
そういえばこいつ攻略対象者だったなと冷や汗をかきつつ、大空の勢いに海矢の背後に隠れてしまった愛海の頭をポンポンと撫でる。
「こら大空、怖がってるだろ。離れろ」
隠れる愛海に『ん~?』と笑顔で顔を近づける大空の額を押さえると、ちぇっと舌打ちをし身体を元の位置に戻す。
代わりだというように海矢の肩に腕を回すと『じゃー飯食おうぜっ』と言ってきた。
「いや、今日は愛海と・・・」
「え~?いつも俺と食ってんのに?俺待ってたんだぜ~」
いや・・・いつもお前と食ってねぇよ!!と海矢は心の中で思う。
大空は、昼休みは複数の女子に囲まれどこへやら姿を眩ますか海矢と食べるときがあってもそれは本当に稀なことだ。
しかし今の大空の発言を聞かれたとなると、愛海に薄情者だと思われる可能性がある。ちらと自分の背後にしがみついている愛海を見ると、案の定首を傾げ少し戸惑った様子でこちらを見ているではないか。
これは、仕方がない・・・・・・
「はぁ~・・・わかったよ。愛海、こいつは俺の友達の大空で、今日はこいつも一緒に飯食って良いか・・・・・・?」
「どうも、海矢の親友の新妻大空です。よろしくね」
「よろしく、おねがいします・・・・・・」
まんまと大空にしてやられた・・・と、海矢はまた深い溜息を吐いた。
竜からの接近を回避した途端に今度は同じ攻略対象者の大空と急接近・・・・・・。不味い。これは不味すぎる。
愛海は、海矢が胸を張って言えるほどとんでもなく可愛い。どんな女子にもこの可愛さには敵わないだろう。
そんな愛海と時間を重ねていけば、もしかしたら女たらしの大空だとて愛海のことを好きになってしまうかもしれない。
そして愛海の方も、年上の包容力があって笑顔が輝いていて優しくて余裕があって生徒会役員とかいう完璧な男に心を奪われてしまって・・・・・・
最後には『兄ちゃん、僕、大空先輩と――って、
そんなことは・・・そんなことは・・・・・・
お兄ちゃんは絶対に許しませんからぁああ!!
「どうした?そんな険しい顔してって、ちょ、睨むなよ」
海矢は未来の憎々しい妄想のため目の前の大空を睨みつつ、米を口に運ぶのであった。
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