第4話 生徒会への思い
最初は気まずかったものの、大空のフレンドリーさからかすぐに愛海とは打ち解けた。海矢にとってそれほど良いことではなかったが。
だが今まで見ることがなかった、愛海が学校で昼食を食べる姿を間近で見ることができてよかったと思う。愛海の知らない、海矢の学校での話をされているときはなんだか恥ずかしくて調子に乗ってぺらぺらと話す大空を肘で小突いてしまったが、大空も特に愛海にそういった目を向けるわけでもなかったため結局海矢の取り越し苦労だった。
授業の始まる十分前に教室へ帰っていった愛海を見送り、『愛海くん、かわいかったわ』と笑顔で言ってきた大空の表情からは、恋に落ちたというような気配は見られなかった。
何というか、拍子抜けしたがとりあえず安堵する。
海矢は愛海がBL小説の主人公だということに気づいた瞬間から、弟に近づく奴らは全員敵であるかのように目を向けていた。しかし、海矢自身彼らのことは全く知らない。
そんな、よく知りもしない相手のことを勝手に悪い奴だと決めつけても良いのだろうかという考えが浮かんだが、授業の開始を知らせるチャイムを機にその考えは一端置いておこうと思った。
少しだけ、竜という奴に酷いことをしたなという罪悪感が胸に残り、なんとなく授業に集中できず時間は過ぎていった。
********
ホームルームが終わり、比較的早く終わったのだろうか、窓の外からは一年生の下校する賑やかな声が聞こえてくる。
何とはなしに覗くとちょうど愛海の後ろ姿が目に入った。少しだけ残っている寝癖がそのまま歩くリズムに合わせてぴょこぴょこと跳ねるのが見ていて楽しい。
ふっと頬を緩ませた次の瞬間、視界に入ってきて愛海の隣に並ぶ竜の姿。一気に表情筋が強ばってしまったが、まだ竜の性格を知らない勝手な考えを抱く自分にストップをかける。とにかく、明日から竜がどんな奴なのかを観察してみようと思った。
愛海からしたら余計なお世話だと思うが、やはり親のような立場では心配も募るものだ。二人が付き合うまでいくのかはわからないが、もし交際することが決まったとしてもちゃんと納得のいく奴ならば笑顔で祝ってやりたい。
そんな優しい気持ちに浸っていると、何を思ったか上を見上げてきた竜と窓越しに目が合う。海矢は思わず一瞬たじろいだが、なんと彼はにやりと笑い、これ見よがしに愛海の肩へと腕を回した。
(やっぱなしだ。あいつはダメというか嫌)
生徒会長という立場であることから中指は立てられないが、思いきり睨んで窓から身体を離す。
「まりあ~生徒会行くぞ~」
眉間がぴくぴくと脈打つのを感じながら、海矢は気のない返事を返し急いで大空を追いかけた。
大空と生徒会室の扉を開けると、そこにはすでに他の生徒会役員達が自分の仕事をこなしており、海矢たちは急いで自分の机に鞄を置くと各自割り振られた仕事に向かった。
「そういえばさぁ、もうすぐだね演説会」
仕事が一段落し書記の子が入れてくれた熱いお茶を皆で飲んでいると、生徒会へと貰った差し入れの菓子を食べていた大空がぼそりと言った。
「そうですね~。早いなぁ・・・生徒会長はまた立候補するんですよね?」
「してほしいです!!新妻くんもまた役員になってください!僕もまた書記に立候補します!!」
「あはは!君生徒会長と副会長好きすぎ!!」
あははははと一年間共に仕事をしてきた仲間たちと笑い合う。気の許せる仲間とももうお別れかと思うと寂しい気持ちがするし、時の流れる速さも感じる。
(ついこないだ生徒会長になったと思ったのにな・・・・・・)
「でも、本当に海野くんには生徒会長でいてほしいなー。だって有言実行だから生徒にも大人気だし、支持率高いし・・・・・・それに、現に海野くんが生徒会長になって学校も変わったし」
「そうそう、演説で言ってたこと実行する人ってなかなかいないんだよね・・・」
「失礼します。美化委員の者ですがよろしいですか?」
「「はーい」」
他の委員が入室してきたことで、休憩を切り上げることにした。
この学校では、一月に全ての委員会の委員長と副委員長が集まり会議が開かれる。そこで各々の委員の意見や一ヶ月間の問題などを報告し合い、議題について話し合ったりするのだ。
海矢が生徒会長になるまでは、この月一の委員会議でしか生徒会と他の委員の接する機会はなかったのだが、海矢が生徒会長に就任した際に委員会議に加えて、問題などが起きた時や聞きたいことがあるときに随時生徒会室に来て貰うようにした。
こうすることで委員会議ではあらかじめ纏められた報告ができ、その分問題解決への時間が取れ会議も早く終えることができるようになったのだ。
書記が対応しているのを聞きながら書類に目を通していると、先ほどの皆の話を思い出す。自分がやりたいこと、やるべきだと思ったことをこなしてきたが、こんな風に評価してくれていることに胸が温かくなる。
正直、生徒たちの意見を取り入れるシステムも委員会との密な連携の仕組みもできていることからもう自分のするべきことはやったかなと思っていたのだが、またやってほしいと思われることが嬉しい。
委員会だけでなく、部活動との意見交換も頻繁に行えるような機会を作るか・・・・・・?と次の目標を考えながら、海矢は部活動からの申請書に印を押した。
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