第13話 神そのものの存在

真っ白な光が消え、いつの間にか

激しく痙攣しているオクカワを抱きかかえている

痩せた若い男が目の前に居た。

薄茶色のベストと、白いスラックス姿で

背は高くも低くも無く、横分けにした髪は真っ白だ。

男は顔を上げその整った細面を俺に晒してくる。

眉毛まで真っ白で、瞳は茶色だ。

「……ああ、そうか」

気付いた顔で若い男は

「……あなたは、アンデッドなのか。動いてはいるけれど、生きていない。

 だから、ミノリに毒を飲ませるほどに憎んでいるのに

 ブラックハンズの効果が無かった」

その腕の中でオクカワは痙攣している。

俺は若い男の異様な雰囲気にその場に固まったまま動けない。

「ミノリから、毒を取り除く合間に少し、僕たちの話を教えますね」

若い男は、そう言うと

「……ヴィブラツィオーネ」

ボソリと何かを呟いた。同時にその腕に抱きかかえられている

オクカワの身体が細かく振動し始める。

「オーディナメント……」

若い男が続けて呟くと

さらに振動を激しくし始めたオクカワの全身から湯気が立ち始めた。

俺は、若い男の圧倒的な雰囲気に圧倒され一歩も動けない。

「僕は、見た通り、生まれつき色素の弱い身体です。

 それに、内臓に幾つも持病を持っていました。

 週に三度ほど短時間、学校に通う以外は病院と生まれた我が家を行き来しつつ

 本を読んだりして主に室内で過ごしてきました。

 ミノリは、そんな僕に外の世界を精一杯生きて

 その様子を教えてくれる素敵な妹なんですよ」

若い男はそう言いながら、振動して蒸気を立てている

オクカワの身体を愛おしそうに見つめる。

「……残念なことに、妹の友人たちは、一人を除いて

 侵略行為は復讐の繰り返しを呼ぶだけで、まったくの無意味であるという

 僕の意見を聞き入れてはくれませんでした。このミノリもです」

俺は一切動けない。まるで、この男の話が終わるまで

聞かなければいけないように体が動いてはくれない。

意識も強制的に、この若い男の言葉に集中させられている。

若い男は憂い顔でため息を吐くと俺を見て

「……きっと、僕があなたから救ったこの元気のいい妹は

 性懲りもせず、あなたたちに復讐を企むでしょうね。仲間たちと共に」

今すぐに逃げ出したいが身体がそれを許さない。

「僕は分かっています。あなたが、僕たち全員を殺すまで

 決して、戦いを止めないであろうことも」

若い男は、振動と蒸気噴出が収まったオクカワを両腕で抱えて抱き上げ

俺にニコッと微笑むと

「……妹たちと遊んであげてください。その手帳は預けておきます」

オクカワごと、真っ白な光に包まれて消えた。


ようやく、異様なプレッシャーが消えその場にガクリとうな垂れる。

な、なんだあれは……まるで神だ。ちっぽけな蟻になった気分だ。

あの男は、きっと、俺を何のためらいもせずに

一秒かからずにこの地上から完全に消せるだろう。ブラウニーたちもそうだ。

いや、この城だって一分かからず制圧するだろう。

震えが止まらない。

あ、あれが、オクカワ・ミノリの兄なのか……。

あんな神そのものの存在が兄なのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る