気持が大事

今日はいよいよランチ会である。そんな僕が起きて最初にしたのは、ライソチェック。

 昨日の織田君は完全に不機嫌だった。

理由は何となく分かる。幼馴染みのあきよしさんの子が、カラオケの誘いを断った。その原因が僕。

ラブコメだと、幼馴染みへの気持ちに気付くパターンだ。ここから怒涛の攻めを見せて、お互いの気持ちに気付き……モブは退場の流れである。

 何より織田君の取り巻きからの苦情が殺到している危険性がある。それと念の為に、織田君のブロックは解除しておいた。

(良かった。荒れていない……来ているのが徹と竜也からか)

徹『信吾、おっす。今日は八時から入れるぞ。飯、楽しみしているぜ』


竜也『信吾君、おはよう。今日はよろしくね。出来たらだけど、一人分多く作ってくれたら、嬉しいな。材料費とかは僕がだすし』

 二人共、ランチ会の時間を作る為に、随分頑張ったそうだ。それなのに、わざわざライソをくれた。

(今は織田君や秋吉さんの事は、忘れよう)

僕は器用な性格じゃない。むしろ不器用な方だと思う。

 今回の食事会は、僕なりのけじめだ。

 徹は夏空さんに振られるかも知れないのに、駆け付けてきてくれた。それなのに、馬鹿信吾って、笑ってくれたんだ。

 竜也は、芸能人生命が終わるかも知れないのに、駆け付けてきてくれた。それなのに、僕の為に本気で怒ってくれたんだ。

 夏空さん、探、照山さん……そして秋吉さん、皆僕の事を心から心配してくれていた。

 だから、今日は謝罪のランチ会じゃない。皆に感謝の心を示す為の料理ななんだ。


「よし、行くか」

 頬を叩いて、気合を入れ直す。義斗兄ちゃんの包丁を入れた鞄を持って僕は家を出た。


 駅に着くと同時にライソの通知が鳴った。

実『コンビニに注目―♪』

 コンビニに何があるんだろうと思い、駅のコンビニに目を向けてみる。


「秋吉さん、夏空さんおはよう。随分早いね」

 ランチ会だから、文字通り昼まで来れば良いのに。


「信吾君、おはよう。今日も手伝わせて」

 その為にわざわざ来てくれたのか。でも、それじゃお礼の意味がないんですけど。


「実、良里が見つけてくれるまで待つんじゃなかったの?……良里、おはよう。実がパックご飯と空き瓶を持ってきて言っていたけど、何に使うの?」

 どうやら、夏空さんは付き合わされたらしい……パックご飯と空き瓶か。わざわざ買わなくても準備しておいたのに。

(待てなくてライソしたのか。秋月さんらしいな)

 それは鮭の副産物。この時期にしか手に入らない物だ。


「……なんで、そんな事をばらすの?自分だって『徹に何か作ってやりたいから、あたいも早めに行くよ』って言っていたじゃん」

 だから夏空さんは、早く来たのか。徹め、羨ましいぞ。僕はあれに負けたのに。


「そりゃ、あたいは徹と付き合っているんだし。あいつ、昨日も遅くまで仕事していたから、元気をつけてやりたいじゃないか」

あたいはか……もし、秋吉さんが織田君と付き合ったら、ランチ会どうしよう。男だけのランチ会か。

(竜也、桃瀬さんと話すの楽しみにしているんだよな……ぼっちになるかもだけど、覚悟しておくか)

 初期メンバーでって言いたいけど、照山さんを誘ったのは僕だ。

 でも、流石に織田君加入は勘弁して欲しい。そこは徹と竜也も分かってくれる筈。


「それじゃ、行こうか。夏空さん何を作りたいか考えておいて」

 余計な事は考えずに、今は料理に集中しよう。


 昨日も来たんだけど、相変わらずの豪勢さに圧倒されてしまう。


「……ここ本当に使って良いのか?徹の奴、なんでこんな所にしたんだよ」

 流石の夏空さんも圧倒されている様だ。原因は竜也アイドルだと思います。


「二人共、朝ご飯まだでしょ?ご飯も炊けているから食べる?」

 仕込んだのは昨日だけど、もう食べられると思う。


「やった―!いくらご飯だ。本当にもらって帰っても良いの?」

 テンション爆上がりの秋吉さん。昨日鮭をさばいたら、イクラがはいっていたのだ。折角だからと漬けておいたんです。

 本当はもう少し漬けておきたいけど、十分美味しく食べられる。


「うん。煮沸消毒した瓶も持ってきているよ」

 イクラはお土産にするつもりだ。徹と竜也はもっと美味しいイクラを食べているから、いらないって言うかも知れないけど。


「朝からイクラご飯なんて夢みたい。お父さんとお母さんも食べたいって」

 それは嬉しい。でも、優紀さんにあげたら織田君の口にも入るって思う僕は器が小さいんでしょうか?


「ちゃっかりしているね……良里、お願いがあるんだけど、鮭一匹で買ったんでよ?少し分けて……ううん、売ってくれる?」

 夏空さんが遠慮がちに聞いてくる。徹に鮭の塩焼きでも作るんだろうか?

 それだと少し被るんですが。


「別に良いけど、徹に作る物が決まったの?」

 まあ、徹は夏空さんが作った物は別腹になる奴だからオッケーだと思う。


「徹って言うか、ほら今日法務部の人達が来てくれていただろ?差し入れ作った方が良いかなって思ってさ」

 そうか、夏空さんはマーチャントグループに認めてもらおうとしているんだ。何より、その気遣いが偉いと思う。

 ただ豪華な雰囲気に慣れてもらおうと思っていた僕達の数倍先を見ている。


「だったら僕に良いアイデアがあるんだ。スーパーが開店したら、お米と豚肉、割り箸、発泡スチロール容器を買ってきて」

 少し忙しくなるけど、頑張ろう……徹に確認しておかないと。

 それに……。


「秋吉さん手伝ってくれる?その前に腹ごしらえだね」

 他人に頼れる所は頼ろう。


「任せて!友達の為に頑張れなきゃ女がすたるもん」

 何より夏空さんの為に頑張ってくれた人がいるって言う事実が大きい。学生のお遊びに見えるかも知れないけど、夏空さんのエールになると思う。


 徹坊ちゃま、まだ九時ですぜ。


「おっす。これが今日来ている法務部の人数だ。それと休憩場所に飯を運び手続きもしておいた」

 ……一部訂正。まだ九時なのに、もうそこまで手配したのか。


「徹、おはよ。仕事大丈夫なの?」

 ぶっきらぼうに話し掛けているけど、夏空さんは凄く嬉しそうだ。

 そして徹も良い笑顔をしていた。二人共、見ているこっちまで嬉しくなりそうな顔をしている。


「仕事には優先順位って物があるんだよ。周りも早く行って下さいってうるさかったし」

 早く夏空かのじょさんの所に行って下さいだね。社員さんの気持ちは凄く分ります。

 常連さんから聞いた話だと徹はブロッサムに入ってから雰囲気が柔らかくなったそうだ。

 そして夏空さんと付き合ってからは、本当に幸せそうだとの事。


「徹は夏空さ夏空さんと一緒に計画を練って。料理の方は手伝って欲しくなったら声を掛けるし」

 半身におろした鮭を焼きやすい大きさに切り分けていく。塩を振って焼き上げて、冷ましておく。


「美味しそう!信吾君、私は何をすればいいの?」

 脂ものっていたし、きっと美味しいと思う。

当然だけど、ランチ会の料理も作らなきゃいけない。


「この鮭を細かくほぐしてもらえる?」

 まずはサモダシを酢水につけておく。並行して食材を切り分けていく。


「信吾この人数だと米どれ位買ってくればいい?」

 うん、まあまま人数だね。これは夏空さんは別で動いてもらなきゃ。


「今買い物のメモを渡すよ。徹、朝飯食べた?」

 幸い?な事にまだらしい。スポンサーに味見してもらおう。

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