メニュー変更?

 SPの人達が休憩時間に手軽に食べられる物。それでいて夏空さんも作れる物。

 何より一番の条件は今ある食材で作れる料理。

 マーチャントグループと探の事務所の人には鮭フレークのおにぎりと豚汁を作ろうと思う。

 台所は広いし、夏空さんがメインで作ってくれるから大丈夫だと思う。

 つまり並行して、ランチ会のメニューを作っても大丈夫なのだ。

 なんだけど……。


「徹、僕にも予算って物があるんだよ」

 徹に買い物を頼んだら、予想以上に高い米を買ってきた。確かに予算を伝えなかった僕も悪いけどさ。何となく分かるじゃん。


「うちの法務部の人達も食べるんだ。米とかの分は、俺が出す」

 とか……僕が頼んだのは、豚肉・青ネギ・米・梅干し・明太子・じゃが芋・発泡スチロールの汁椀容器・割り箸。豚汁とお握りも作るつもりだったんだけど。

 勘の良い徹に事だ。頼んだ食材を見れば何も作るか分かる筈。でも、買ってきた物の中には、お握りを全否定する物が入っていたのだ。


「弁当の容器……お握りは却下って事?」

 お握り弁当ってパターンもあるけど、主食の部分はお握りが入る大きさではない。


「法務部や探偵事務の人は、お握りに手を付けない人もいると思うぜ。忘れていないか?皆、仕事中なんだぞ」

 今回の仕事は護衛……そうだよね。万が一って事がある。


「食中毒の可能性を疑われるって事だよね」

 食べて直ぐ症状が出る事は少ない。それでも、仕事に支障を出す可能性はある。職業式の高い人なら避けると思う……素人の高校生が作ったお握りなんだから。

知らない人が作ったお握りを嫌う人もいるって言う。何より、目的は夏空さんの感謝を伝える事。それが善意の押しつけになったら、マイナス感情を持たれてしまう。


「急で大変なのは、分っている。でも、何とか頼めないか」

 徹は夏空さんの好意を無下にしたくないんだと思う。

探から『マーチャントグループの中には、夏空さんが財産目当てで庄仁君に近づいたって言ってる人がいるみたいなんだ』って話を聞いた。

確かに夏空さんの事を知らなかった人からしたら寝耳に水だ。疑いの目で見られてもおかしくはない。

(今ある食材で作れる物をメインで使わなきゃ、媚びにとられかねない)

今あるのは、卵・鮭・キャベツ・人参・うどん・栗の甘露煮・モッツァレラチーズ・鶏肉・椎茸・かまぼこ・サモダシ・糸コン・油揚げ・大根・海老。そして徹が買ってきた梅干し・青ネギ・豚肉・ジャガイモ・梅干し・おかか・明太子。そして追加で買ってもらった白胡麻とさつま芋。

 今ある食材で作れるお弁当向けの物……やってみるか。


「徹、追加で白胡麻とさつま芋を買って来て。秋吉さん、手伝ってもらっても良い?徹、竜也に連絡できる?」

 こうなると猫の手も借りたい状態だ。猫以上に頼りになる竜也にも手伝って欲しいけど、集合時間にはまだ早い。


「任せて!将来の予行演習みたいな物だし」

 将来の予行演習?なんの事だろう……今はそれどころじゃない。


「分かったよ……竜也は五分位で来れるらしいぞ」

 五分って……どこにいるんだろ?


 ……ふと、思った。僕今とんでもない事をしているのでは?


「竜也、キャベツを茹でて。徹は糸コンを下茹で」

 今、人気絶頂のアイドルと大企業の御曹司に指示を出しています。世間にバレたら、台炎上だと思う。


「任せて。でも、お握りを変更したのは正解だよ。差し入れでも、手作りのお握りは躊躇するもん」

 竜也は人気アイドルだけあり、様々なプレゼントや差し入れをもらうらしい。

 昔は羨ましいと思っていたけど、盗聴器入りぬいぐるみや髪の毛が仕込まれたお握りの話を聞いてから考えを改めました。


「分かった。糸コン結構使うんだな」

 糸コンはランチ会でも使うけど、弁当にもいれようと思う。余っても賄いに使えると思って、多めに買っておいて良かった。


「信吾君、私は何すれば良いの?」

 秋吉さんから催促が飛んできた。アイドルと御曹司と言え、竜也と徹は友達。頼み事がしやすいんでだよね。


「鮭の骨を茹でて。灰汁が出るから、とってもらえるかな?」

 二人には指示だけど、秋吉さんにはお願いになってしまう。下の名前で呼べない時点で指示だしなんて無理なんだろうけど。


「あの……良里。あたいが言いだしっぺなんだけど」

 夏空さんが、遠慮がちに尋ねてきた。異性の友達だけど、友達の彼女ってなると、つい距離を置いてしまう。


「それじゃ、豚汁に使う野菜を切って」

 人に指示してばっかりじゃ示しがつかない。とりあえず、さつま芋をレンジにかける。

 終わったら、潰して越す。そこに切った栗の甘露煮を混ぜて、茶巾絞りにする。これでさつま芋団子の完成。

 残った栗の甘露煮は汁をきっておく。

 


「信吾君、キャベツ茹であがったよ」

 ユウが茹でたキャベツ……ファンなら味付けしなくても、高値で買ってくれると思う。


「ありがとう。残ったキャベツを、ざく切りにして」

 茹でたキャベを絞って、辛子醤油と和える。そこに鰹節をかければキャベツの辛子和えの完成。


「信吾、出来たぞ」

 臭み取りの為に、下茹でした糸コンを乾煎り。その後、ごま油で炒め、青ネギと明太子を投入。これで糸コンの明太子炒めの完成。


「信吾君、これで良いの?」

 鮭の骨から取った出汁に、醤油・酒・砂糖を加える。

 汁を冷まして、それでご飯を炊く。炊き上がったら、ほぐした鮭の身を混ぜ込む。


「イクラと鮭の身……ハラコ飯か」

 徹、正解。ハラコ飯は宮城の郷土料理……でも、これではハラコ飯とは呼べない。


「本当は汁に鮭の身も入れるんだけど、もう残ってないから。それとイクラが駄目な人の為に、炒った白胡麻をつける。どっちか掛けて食べてもらって」

 食べるの人の中に宮城出身の人がいない事を願います。いても、これは鮭ご飯って事で、許してもらおう。


「なんだかんだで、弁当のおかずが出来てきたな……ランチ会は大丈夫なのか?」

 弁当作りを優先したのには、訳がある。


「弁当は完全に冷めないと、蓋出来ないから。後はかまぼこに切れ目を入れて、梅肉、マヨネーズを入れて完成っと……冷めたら皆で詰めてね」

食材も増えたので、ランチ会のメニューも増やせます。


 緊急事態だから弁当作りは手伝ってもらった。でも、ランチ会は僕が感謝の気持ちを示す為の物。自分一人で作るつもりだったんだけど……。


「信吾君、次は何をすれば良いの?私に出来る事なら、何でも言って」

 秋吉さんがやる気満々なのです。キラキラした目で僕を見ている。

 なんでもか……僕と付き合って下さい。うん、対にひかれるな。


「今回はお詫び……皆に感謝の気持ちを示す為のランチ会なんだ。だから、皆と一緒に休んでいて」

 だって、秋吉さんが休まないと徹達も休まないと思う。竜也なんて昨日もコンサートだったんだし。


「えー、皆でワイワイ料理した方が楽しいって。ただ、待ってるだけなんてつまらないし」

 秋吉さんの言葉に他の三人も頷く。


「僕は良い気分転換になるから嬉しいな。それに少し料理を分けて欲しいし」

 竜也は昨日このマンションに住んでいる知り合いの家に泊まったらしい。その知り合い料理を持って行きたいとの事……絶対に芸能人だよね。


「俺は何もしないでいるってのが苦手なんだよ。それに今更変な気を使うんじゃねよ。気持ち悪りい」

 口は悪いけど、言っている事は優しい。徹らしい返しだと思う。


「高校で、こんなに仲良くなれる人が出来るなんて思わなかったよ。五人でやれば料理も楽しいって」

 夏空さんも料理を楽しんでくれているみたいだ。


「それじゃお願い。下拵えを手伝って」

  そこから皆でワイワイ料理をした。海老の背ワタを取ったり、じゃが芋を潰したり……。


「後は何をするんだ。今のところ出来ているのは、明太子を使ったタラモサラダとサモダシの味噌汁か」

時間は十分にある。メインは全員揃ってからじゃなきゃ、作れない。


「ここまで手伝ってもらえたら充分だよ。後は僕がやっておくから、休んで」

 だって残りの品にはネタバレしたくない物もあるんだし。

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