BSS?
晩御飯どうしよう。下拵え、秋吉さんにも手伝ってもらったし。
(今ある材料で作れる物……やっぱり、あれだな)
季節的には、まだ早い。でも、食器棚である物を見つけたら、どうしても食べたくなったのだ。
問題は二人分だと、肝心の物が足りない。
作る物は決まった。でも、少し気になる事がある。
それは時間だ。ただ今の十九時半。あまり遅くなると、秋吉さんが親御さんに怒られると思う。
「秋吉さん、一回にお家に電話しなくても良い?」
もちろん、僕は秋吉さんに何かする気はない。それでも男と部屋に二人っきりって状況は、親御さんは心配だと思う。
「気を使ってくれて、ありがとう。お父さんもお母さんも『良里君なら大丈夫だね』言ってたよ」
……もしかして、僕のヘタレさが伝わっている?
でも、僕だって男だ。いつ狼になる分からないんだぞ。
待てよ、この流れじゃ、ご飯を食べないって言い辛いか。
「分かった。でも、一応電話しておいて。僕は晩御飯の材料を買い足しに行って来るから」
上手い。これなら秋吉さんも帰りやすい筈。だって、メモを残しておけば良いんだし。
「もう、気を使い過ぎだよ。分かった。電話しておくね」
とりあえず、鍋に昆布を入れて部屋を出る。
◇
追加で買ってきた物 うどん(追加)・パックご飯・ネギ・ほうれん草・それとデザートに大福。二人分買ってきたけど、秋吉さんが帰っていたら、やけ食いします。
「ただいま」
自分の家じゃないのに、ただいまはおかしいか。何より秋吉さんが帰っていたら、とんだお間抜けだ。
「信吾君、お帰り。お腹空いたよー」
そう言って秋吉さんが笑った。頭の中で、大人になった秋吉さんが同じセリフで出迎えてくれる光景が浮かぶ……そんな未来があったら、どんなに幸せだろう。
「今、作るから待っててね」
食器棚からお目当ての物を取り出す。なくても作れるけども、料理には雰囲気も大事なのだ。
「それって一人用の土鍋?晩御飯、お鍋にするの?」
鍋か。いつか皆で鍋をつつくのもありだな……でも、女の人って、異性との鍋に抵抗があるって聞いた事がある。男だけの闇鍋パーティー……面白いかもしれない。
「惜しい。鍋は鍋でも、鍋焼きうどんを作ろうと思うんだ」
一人用の土鍋を見つけた時から、食べたくなったのだ。幸い、明日作る物と材料が被っているし。
「だから、さっきうどんを買ったの?でも、今買ってきた物にもうどんが入っているよ」
明日もうどんを使うけど、一玉もいらない。逆に二人で一玉だと少し……かなり寂しい。
「明日の分は少しで良いんだ。直ぐに出来るからテレビでも見て待っていて」
鍋焼きうどんに使う物 頭や背ワタを取っておいたエビ・ほうれん草・かまぼこ・シイタケ・卵・鶏肉。うどん。
「もしかして、鍋焼きうどんも想い出の味?青森って寒いもんね」
この間、婆っちゃに大事な友達と好きなが出来たって伝えた。
そうしたら『
でも、婆っちゃが秋吉さんの顔を見に東京に来るって言った時は、かなり焦りました。
その時は、なんて紹介すれば良いんでしょうか?友達?それとも……。
「うん、青森のメーカーで、美味しい鍋焼きうどんを出している所があるんだ。冬になったら、良く婆っちゃに作ってってせがんだんだ」
流石に再現は無理だけど、僕もそれなりの料理の腕をあげた。秋吉さんに気に入ってもらえる筈。
「楽しみだな。信吾君が作ってくれる料理は、全部好きだけど、お婆さんが教えてくれた料理が一番好きなんだ。あったかい味だし、なんか信吾君の事を知れた感じがするの」
落ち着け、僕。秋吉さんが好きなのは、婆っちゃの味。思い上がるな……でも、嬉しいです。
気を取り直して、料理を始める。鍋から昆布を取り出して、鰹節を入れて火にかける。
並行して、具材の準備をしていく。椎茸には十字の切れ目を入れて、ほうれん草は下茹でしておく。
かまぼことネギを切って、鶏肉は一口大に。海老に衣をつけて天ぷらにする。今回はあえて厚めに衣をつけます。エビを揚げて海老天に、その油に残った天ぷら粉を入れて、揚げ玉を作る。
「嫌いな具材があったら、先に言ってね」
一番出汁に麺つゆを加えて、鶏肉を軽く煮ておく。
「ないよ。こんな手がこんだ鍋焼きうどんは、初めてだよ。楽しみだな」
今になって分かる。婆っちゃが作ってくれた料理が、本当の意味で贅沢な料理だったんだって。手間暇惜しまず愛情を篭めた料理……僕の場合、愛情過多になっていそうだけど。
「土鍋につゆとうどんを入れて具材を乗せる。最後に卵を落として、蓋をしてっと……後は温まれば完成だよ」
ガスコンロに土鍋をセット。卵の白身に火が通ったら完成だ。
「信吾君、写真撮っても良い?皆、羨ましがるぞー」
でも、お店に行けばもっと美味しい鍋焼きうどんを食べられるんだよね。羨ましって思う人は少ないと思う。
「はい、完成。熱いから気をつけて」
作っておいて、あれだけど鍋焼きうどんが美味しいのは冬だと思う。でも、今回は僕が食べたかったんです。
「美味しいー。揚げ玉が溶けて、汁にコクが出ている。何より、この半熟の卵が最高―」
喜んでくれている秋吉さんの顔を見て思い出した事があった。婆っちゃも、僕が食べている所を嬉しそうに見ていたんだよね。
「あ、ちょっと待って。麺食べ終わったよね。ちょっと土鍋を借りるね」
これは、鍋焼きうどんの楽しみの一つだと思う。何よりお店だと頼み辛いし。
「この為のパックご飯だったんだね。信吾君、揚げ玉が残っていたら、追加でお願い」
秋吉さんも、勘づいてくれた様だ。残った汁にご飯を投入して、おじやに。具材から出汁が出ているから、美味しいんです。
◇
もう夜だ。当然、僕には秋吉さんを家まで送り届ける義務あがる。
「鍋焼きうどん、美味しかったー。明日も楽しみだな」
秋吉さんは、本当に嬉しそうに話してくれている。彼女に出会えて、本当に良かった。
料理を作る嬉しさを再確認させてくれたのだ。
中学の頃は、後継ぎとしての義務。何より、誰か必要としてもらう為に料理をしていた。
「寒くなったら賄いでも作るね……あっ」
それは秋吉さんに家の前に着いた時だった。
(織田君が、僕を睨んでいる?秋吉さんが遅くなったから、怒っているとか?)
でも、何もやましい事はしていない。将来の妄想はしたけど。
「信吾君、気にしないの。私は騒がしいだけのカラオケより、鍋焼きうどんの方が良かったんだし」
織田君をガン無視の秋吉さん……これって僕がお邪魔虫になっているの?それとも当て馬?
まさかのBSS、
そうしたら、僕の負け確定じゃん。
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