もしかして……もしかなの?
僕の初恋は間違いなく武田さん……恵美ちゃんだ。多分、小学校一年生の頃には、もう好きだったと思う。婆っちゃの家にいた頃も好きだったし、戻って来てからもだ。
恋路との会話を聞いた時はシ、ョックで落ち込んだのを覚えている。
「僕って薄情なのかな?武田さんと会っても、何の感情も湧かなかったんだ」
漫画とかだと『ざまあ』とか聞くけど、そんな気持ちもない。正直に言うと、興味すらないのだ。
「あれだけの目に遭って、まだ好きってよりましだろ。それに、今は料理と秋吉さんの事で頭がいっぱいなんだろ?」
徹に言われた気付いた事がある。高校に入ってから武田さんと恋路の事を思い出したのは、指で数える位しなかない。それこそ、偶然会ったその日だけだ。
「仕方ないと思うよ。どうしても、僕達は、生活の中で仕事の比重が大きいんだし。話は変わるけど、ランチ会の日付は決まったの?」
竜也は三人って言ったけど、忙しさや責任の重さで言ったら、二人の方が段違いなんですが。
「おう、ばっちりだ。お前の事務所にも話は通してある」
場所は前と同じくマーチャントマンション内のレンタルキッチン。探の事務所にも警備を依頼をしてあるから、マスコミ対策もばっちりとの事。
だから、竜也も桃瀬さんも安心と……芸能事務所や探偵事務所に話を通せる高校生……徹がいないとランチ会は、開けないと思う。
「徹、ホットプレートを持ち込んでも大丈夫?」
今回は人数が多いからパーティーみたい感じにしようと思う。家で使っているのは小さいから、買うか悩んでいる。
「それならうちの新商品を使ってくれ。ファミリー向けの商品だから、ぴったりだと思うぞ。事前に搬入する様に手配しておく」
有難いけど、そこまで甘えて良いんだろうか?
「そんな職権乱用みたいな事して大丈夫なの?」
何かにつけて、徹に頼りっぱなしだ。僕の料理だと対価に見合わない気がする。
「は!?誰が無償提供するって言った?新商品は一回使ってみるのが、決まりなんだよ。でなきゃプレゼンが出来ないだろ。それにそのホットプレートは、竜也の番組で紹介してもらう予定なんだ。そこでまごまごされたら、商品の評価が下がるだろ」
うん、そう言えばこういう奴だった。抜け目がないって言うか、しっかりしているというか。
「林間合宿で使ったダッチオーブンも、番組で紹介したよ。スペアリブを作ったけど、あのレシピってまさか?」
あの時は、良く手に入ったなって感心していたけど、こんな絡繰りがあったとは。
「信吾のレシピはパクッテないぞ。ああいうのは、味よりネームバリューが大事なんだよ……まあ、あの時の写真を参考資料として、料理研究家の先生に渡したけどな。高校生の料理に負けらないって、ガチになってくれたんだぜ。お陰でダッチオーブンの売上げが伸びたぞ」
そう言うと、通は感謝しているぜって笑った。使える物は、とことん使う性格だよね。ちなみに松子津草原のキャンプ場では、ダッチオーブンをレンタル出来るらしい。
◇
今回は心配を掛けたお詫びって事だから、当然材料費は僕持ち。
だから、買い出しと仕込みは僕一人でやるつもりだった。
「信吾君、ランチ会の買い出しにはいつ行くの?」
昼休み徹達とご飯を食べていたら、秋吉さんが僕の席にやってきた。
ランチ会は土曜日。普段なら休みをもらい辛いんだけど、
(秋吉さんにも用事があるもんな)
うん、今回は一人で行こう。良く考えたら、毎回買い出しに付き合ってもらうのも悪いし。
「前の日に買い出しに行くつもりだよ。下拵えもしておきたいし」
徹に聞いたら前の日からキッチンを抑えておいてくれたそうだ。絶対に食材費より、レンタル代の方が高いと思うんだけど。
「それじゃ学校が終わってからだね。夕飯どうする?」
夕飯か。あの広い部屋でボッチ飯は、少し寂しい。まあ、賄いの時以外は殆んど一人で食べているんだけどね。
「下拵えが終わる時間にもよるけど、余った食材で何か作ろうかな」
候補はいつくかある。夕飯を食べるのなら、泊まるのもありかもしれない。
「なんかすれ違いコントみたくなっているよ。僕がいない間にまた何かあったの?」
竜也が溜息を漏らしながら徹に尋ねる。すれ違っていないし、何もないと思うけど。
「信吾の顔を見れば分かるだろ?本人は気付いていないみたいだけどな」
そんな徹の顔を見て納得した顔をする竜也。なんか僕だけ蚊帳の外なんですが。
「秋吉さん、この鈍ちんには、はっきり言わないと伝わらないぞ」
頭の中が?で埋め尽くされていく。僕が買い出しに行くってだけなのに、秋吉さんは関係ないと思うんだけど。
(秋吉さんも買い出しに行きたい?食材を買うだけだから、何も楽しくないと思うんだけど)
「買い出しの話だよね?僕は料理が好きだから楽しいけど」
料理をする僕はあれこれ考えれるから、楽しい。でもそれに付き合うのは、楽しくないと思う。
「鈍いんじゃなくて、ずれているんだね。僕は演技の参考になるから助かるけど」
竜也の口が悪くなっている?絶対に徹……と僕の影響だ。バレたらファンに怒られそうです。
「信吾君、私も買い出しに付き合うよ。信吾君を一人にしたら、また暴走しそうだし……それに信吾君との買い物は嫌いじゃないから」
それはつまり、僕といる事は嫌じゃないって事?いや、嫌だったら色んな所に行かない訳だし……。
(もしかして、もししかなの?)
鼓動が苦しい位早くなる。自分でも分かる位、顔が熱い。
「やっとか……うん?」
徹やっとってなに?もしかして、徹も知っていたの?
(あ……)
徹の視線の先にいたのは、織田君とお仲間。なぜかこっちに向かって来ている。
「実ちゃん、今度の金曜日に皆でカラオケに行くよ」
もう決まったからって感じで誘う織田君。
うん、知っていた。やっぱり、そんなオチね。
それでも何かに期待してしまう。横目で秋吉さんを盗み見る。
「私は用事があるからパス。皆で行って来て」
皆を強めに言う秋吉さん。これは僕が織田君に勝ったって事?
(自惚れるな、馬鹿。二人っきりじゃないから秋吉さんが怒っている可能性もあるんだぞ)
いや、むしろその方が高い訳で……。
「えー、絶対カラオケの方が楽しいって。皆も実ちゃんが来てくれたら喜ぶし」
織田君の顔は自信に満ち溢れていた。実ちゃんが、僕の誘いを断る訳がない。
もうひと押しすれば秋吉さんは絶対に来てくれる、そんな表情だ。
(取り巻きも加わって、カラオケに行くパターンだな)
むしろ助け船って可能性もある訳で。
「正義君、用事があるんじゃ仕方ないよ。私が盛り上げるって」
「正義、俺じゃ不満か?」
「正君、僕が盛り上げるから」
なぜか取り巻きさん達が織田君を説得し始めた。何があったの?
「そうだね、皆で盛り上がろう。実ちゃん、気が変わったら、連絡してね」
あっさり帰って行く織田君、本当に何があったの?
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