一次試験合格?

 やっと痛みも落ち着いてきた。

今日は竜也、徹、夏空さん、桃瀬さんの四人が来てくれる……良く考えたら、四人中三人が有名人って凄くないか?

 前は桃瀬さんに近づくのも恐れ多いと思っていたけど、それ以上の有名人にため口で話していたんだよな。

 竜也のファンにバレたら、怒られるかも知れない。


「ランチ会どうしよう……秋吉さんが来る前に案を練っておくか」

 机の上にノートを広げて、思いついた事をメモしていく。

 テーマや縛りはなし。僕が皆に食べてもらいたい物にしよう。

 問題は、どこでやるかだ。前みたいに徹の力を借りるのはなし。あれは竜也のドラマが関係していたから、借りてくれたんだし。

 そうなると、お弁当形式か。秋吉さんパスタが食べたいって言っていたけど、学校ではちょっときつい。

 秋になったら、炊き込みご飯とかも良いな。


「しーんごくーん、何しているのかなー?」

 背後から声がしたので振り返ってみたら、秋吉さんがいた。しかも、少し怒っているみたいです。


「今朝は調子が良いから、ランチ会のメニューを考えておこうかなって」

 秋吉さんの話では、ノックをしても返事がなかったから心配して部屋に入ったとの事。

 はい、集中し過ぎました。


「良くなったからって、無理は駄目だよ。それで何を作るか決まったの?」

 ここでバシッと答えられたら、格好良いんだろうな。


「全然。まずが場所がね。学校にすると探達を呼べないし」

 セキュリティーが、しっかりしたと所じゃないとまずい。アイドルと社長の息子を呼んで大丈夫な場所なんてあるのか?


「そこは皆と話した方が良いじゃないかな。庄仁君って、お仕事が忙しいんでしょ?」

 うん、忙しい。その忙しい中で夏空さんと電話する時間を作っていたんだよな。

 付き合えて良かったな、徹。竜也アイドルより先にリア充になりやがって……羨ましいぞ!


「日にちも決めなきゃいけないから、勝手には決められないか」

 勝手に暴走して、怪我こんな事になったんだし。

 徹と夏空さんが付き合って、結果オーライ……なんて言ったら、怒られるだろうな。


 中学時代、僕の部屋に来る友達は殆んどいなかった。手伝いが忙しいと言うのもあったけど、仲良くなれてなかったんだと思う。


「うん、信吾君の部屋だね。なんか安心したよ。洋食、和食、中華にイタリアン。本屋さんより充実しているね」

 ましてや、芸能人りゅうやが来るなんて夢にも思わなかった。


「竜也も徹と同じ事言うんだね」

 僕のイメージは料理しかないんでしょうか?


「いや、この部屋見たら全員が同じ事を言うと思うぞ。普通の男子高校生の部屋には、食材のパンフレットなんてないっつーの」

 普通の男子高校生か。ある意味全員普通の男子高校生じゃないんだよ。


「良里、話は聞いたよ。大変だったね……えーと、祭と庄仁様おめでとう」

 桃瀬さんから見たら、徹はスポンサー企業の息子な訳で、変な敬語になっています。

 竜也のマネージャーも、緊張していたもんな。


「ありがとうございます。前みたいに庄仁で良いですよ。ここにいる人達は俺の事を知っても態度を変えなかった。それが凄く嬉しいんだ」

 徹も竜也も中学時代は、良い意味でも悪い意味でも特別扱いされていたと思う。


「分かった。でも、まさか祭が先に付き合うとはね。僕はてっきり、実が……」

「ひ、陽菜、そこでストップ!信吾君がランチ会の相談したいんだって。そうだよね、信吾君」

 秋吉さんが強引に話題を変えた。桃瀬さんも秋吉さんは、織田君と付き合うと思っていたんだろうか?

 だったら、一週間も看病してもらった僕はとんでもないお邪魔虫かも知れない。


「竜也、またネガティブモードになった奴がいるぞ。あの時のアクティブさが一割でも、移行しないもんかね」

 徹があきれ顔で呟く。黙れ、リア充。僕の恋は望みが極薄なんだぞ。


「まあ、あれが信吾君だから……ランチ会か。久し振りに皆でご飯食べたいね」

 竜也が上手く話題を戻してくれた。やっぱり持つべきものは友達だ。


「お詫びと徹のお祝いを兼ねて、ランチ会をやろうと思うだけど。場所と日時を決めて欲しいんだ。探と照山さんも呼びたいし」

 お祝いの所をわざと強く言う。案の上、徹の顔は赤くなった。


「場所は俺に任せろ。ランチ会は俺にとっても、大事な時間なんだし。日程も俺と竜也で調整するよ」

 流石は徹坊ちゃま頼りになる。この中で一番忙しいのは竜也だ。コンサートも忙しいみたいだし、気合を入れなきゃ。


「楽しみだなー。スリーハーツの東京公演行けないから、ランチ会で充電してやる」

 桃瀬さんは試合の都合で、スリーハーツのコンサートを断念したらしい。


「よ、横浜公演はどうかな?徹ならチケット手配出来るんじゃないか。まだ関係者席はあると思うな」

 うん、竜也が一番の関係者だもんね。詳しいに決まっている。


「分かった。動いてみるよ。とりあえず、六人分な」

 まあ、必要なのは五人分なんだけどね。竜也と徹がいれば、なんとかなると思う。

 そこから六人で色んな話で盛り上がった。ブロッサムに入学していなければ、こんな幸せを味わえなかったと思う。


 皆が帰った後、爺ちゃんに呼ばれた。


「もう、大丈夫そうだな。明日から厨房に入れ……それと一次試験は合格だな」

 やっと厨房に戻れる。でも、試験ってなんだろう?

 僕がポカンとしていると、爺ちゃんはニヤリと笑った。


「進路の相談をしてきた時に言ったろ。“信吾、お前ブロッサムに行け。そこで親友と恋人を作れ”って。怪我は誉められた事じゃねえが、あんな大勢の人が、お前の見舞いに来てれくれたんだ。少なくともダチは出来たって言える。だから一次試験合格なんだよ」

 あの時爺ちゃんは“料理屋は客商売だ。美味い料理を作れるだけじゃ、駄目なんだよ”って言った。あの意味が今なら分かる。


「うん、皆大事な友達だよ」

 友達と言った瞬間、胸が痛んだ。伝えたら、振られても後悔はないと思う。でも、そうなったら徹と夏空さんの関係が気まずくなるかも知れない。

この気持ちを押し付けるのは、エゴなんだろうか?


「しかし、奴の言った通りになるとはね。餅は餅屋って言うけど、教育者ってのは、凄いな」

爺ちゃんの知り合いで教育者。そして今の話の流れからすると。


「もしかして、うちの学校の理事長先生の事?」

 理事長先生が今の状況を予見していた?まさかね。


「あいつ、マーチャントグループの社長と芸能事務所から頼まれていたんだとよ。ブロッサムに入学する生徒がいるけど、良い友達が出来なくて悩んでいる。なんとかしてくれないか?ってな。そこで白羽の矢が立ったのがお前さ。二人と会った時、お前となら仲良くなれるって確信したんだとさ」

 だから面接なしで合格だったんだ。マーチャントグループと竜也の事務所は、ブロッサムのスポンサーらしい。

 後は恋人か……今、僕は幸せだ。

だから、だろうか。仲良くなれば、なるほど伝えるのが怖くなる。

友達には、いつの間にかなっている。でも、恋人はどうなんだろう?

振られても、友達に戻れるんだろうか?

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