報告?

 僕って、そんなに信用がないんだろうか? 確かに一人で突っ走ったのは、反省している。


「信吾君、おはよう。うん、今日はちゃんと寝ているね」

 秋吉さん、今日も早朝出勤?なのです。そんなに早く来なくても、僕は大人しく寝ていると思うぞ……多分。


「無理すると治りが遅くなるって言われたし……早く傷を治して、料理をしたいんだ。昨日も秋吉さんが帰ってから、直ぐに寝たよ」

 正気に言うと、一人でいてもやる事がないんです。

 忙しい時は時間があったらと思っていたけど……。

夏休みの宿題は終わらせているから、時間はたっぷりある。でも、もうやる事がないんです。


「それだけ怪我が酷かったんだよ。祭の話だと、マーチャントグループは蜂の巣をつついたような騒ぎになっているんだって」

 恋路や沖田君は、どうなるんだろう?……百合崎さんの時にみたいに、織田君が突撃して来ないよね?


「僕達は当事者だけど、もう関わらない方が良いよね」

 正直、恋路や沖田君の事はまだまだ許せない。だからと言って、あいつ等にマウントを取ろうと思わないし、責めるのも違と思う。


「うん、マーチャントグループの弁護士が間に入ってくれるみたいだし……もう、忘れよう」

 弁護士さんから、今回の件は口外しない様に頼まれている。マーチャントグループの名誉とかじゃなく、被害者の気持ちを考えてって事らしい。

 それから秋吉さんとたわいもないお喋りをした……ほんの数か月前までは、声を掛けるだけで、緊張していたのに、今は凄くリラックスして話せる。


「ランチ会のメニューどうしようかな?秋吉さん、何か食べたい物ある……なんか凄い車が来たんだけど」

 うちにも高級車が来る事あるけど、あそこまで凄い車は見た事がない。


「本当だ。映画でお金持ちが乗っている車みたいだね……祭と庄仁君?」

 高級車から降りて来たのは徹と夏空さん。家に来るとは言っていたけど、まさか運転手さん付きで来るとは……金持ちのレベルが違い過ぎる。


「よお、元気そうで安心したよ……そして正に信吾の部屋だな」

 徹は部屋を見回すと、苦笑いを浮かべた。平均的な男子高校生の部屋だと思うんだけど……。


「本当に、料理の本ばっかりだね。徹の部屋も凄かったけど、良里の部屋も凄いね」

 夏空さんも驚いている。絶対、徹の部屋の方が凄いと思うんだけど。


「庄仁君の部屋って、凄く広そうだね」

 秋吉さん、良いぞ。上手い聞き方だ。マーチャントグループ御曹司の部屋には、僕も興味がある。


「広いけど、本ばっかりだよ。ビジネス書とか書類が入ったファイルとか……あ、良里もスリーハーツ聞くんだ」

 夏空さんが見つけたのは、前に四人でデパートに行った時に買ったCD……ここからバレないよね?


「ま、前に助けてもらったお礼を兼ねて買ったんだ」

 壁に思いっきり本人りゅうやの写真が貼っているけど、バレないよね?


「……噛むなよ……あの時、言ってくれていたら、ここまで大騒ぎになっていなかったんだぞ」

 小声で徹が突っ込んでくる。それに関しては反論させてもらう。


「言っていたら、徹が怒りそうだったし……それに絶対に夏空さんと距離を置くじゃん……それで今日は夏空さんと付き合ったから報告に来たの?」

 何しろ夏空さんの気持ちを一方的に解釈して、転校まで考えた男だ。ある意味徹は僕と似たタイプなんだと思う。


「……お前、なんで知っているんだ!」

 徹が顔を真っ赤にして、驚く。ビジネスマンとしては優秀だけど、徹もかなり初心だと思う。


「あの流れで家に二人で来たら、誰でもそう思うでしょ?おめでとう、徹。夏空さん、仕事漬けのビジネスマン高校生だけどよろしくね」

 徹は夏空さんの事を本気で好きだったから、自分の事のみたく嬉しい。


「本当、自分の事じゃなきゃ鋭いんだよな。確かに今日は報告の為に来た……ただし、この間の事件に関する報告だ」

 徹の表情が真剣な物に変わる……なんで秋吉さんも頷いているんだろう?


「そっか。恋路はどうなるの?」

 三人の中で僕と一番縁が深いのは恋路だ。ざまって言いたくはないけど、気になってしまう。


「あいつは長めの停学さ。名納の被害者って言えば、被害者だし……沖田と一緒にかなり厳しい寺で修行してもらう。スマホも通じない山奥にある寺だ」

 何でも恋路は沖田から小遣いをもらっていたらしい。金で繋がった友情か……名納より金を持っている徹は財布の紐が硬めです。


「おじさんとおばさん、びっくりしただろうな」

 恋路とは付き合いが長かったから、僕は恋路の両親とも顔見知りだ。

(武田さんはどうしているんだろ?)

 武田さん……恵美ちゃん、泣いてなきゃ良いんだけど。


「恋路君のご両親から、謝罪の電話はなかったの?」

 僕が首を振ると、秋吉さんが信じられないって顔をした。確かに僕の携帯を知らなくても、店の電話番号は知っている筈。


「弁護士が止めたんだよ。『被害者の情に訴える様な真似は止めて下さい『ってな。ご両親も困っていたみたいだぞ。高校に入ったら悪い友達と遊ぶ様になったってな」

 もう、そこまで話が進んでいるんだ。徹は淡々と話しているけど、別世界の話に聞こえてくる。


「庄仁君、名納はどうなったの?信吾君や祭が逆恨みされたりしない?」

 流石の名納も徹には手だし出来ない筈。だったら復讐対象になるのは、僕だと思う。


「無理だと思うぞ。あいつの親は、当然社長を首。私財の殆んどは、被害者への賠償金に充てられる。残りは、親子共々肉体労働に稼いでもらうのさ」

 賠償金とはいえ全額没収とはいかないらしい……肉体労働か。


「まさかマグロ漁船とか?」

 ネットで良く聞く話だけど、本当にあるんだろうか?


「バーカ。素人が乗っても邪魔にしかならねえよ。何か所か回ってもらって、使えそうな所で働いてもらう。当然、監視付きだぞ」

 本来なら少年院行きなんだけど、被害者の中には蒸し返して欲しくないって人が何人もいたそうだ。だから公にはせず、自分達の手で稼がせるって事になったらしい。


「話を聞いたら、あたいでも同情したぞ。マーチャントグループへの被害額も、含まれているん。自由の身になれるのは、早くても何十年後だってさ」

 スカッと展開じゃなくて、ゾクっと展開なんですが。


「それともう一つ報告だ。名納に俺と……祭の事をチクったのは、百合崎らしい。あいつも停学になったぞ」

 正確に言うと、百合崎さんのご両親が自主停学を申し出たらしい……この展開って。


「織田君から電話とか来ないよね?『沖田君と百合崎さんも、反省しているから』って」

 口にしてから、しまったと思った。秋吉さんからしてみたら、幼馴染みの悪口になるんだし。


「信吾君、大丈夫だよ。ライソ見た時に、ブロックしておいたから。あんなのと関わるだけ損だよ」

 マジですか?その前に、織田君は僕のライソ知らないと思う。

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