テンションは誰が一番高い?
調子に乗って優紀さんを動物園に誘ってみたけど、良く考えたら有難迷惑じゃないか?
優紀さんと僕は数回会った事があるだけの、お兄さんの同級生。状況が上京だし、断りづらいかったと思う。
「今日の賄いは、これ。暑いし、辛い物が良いと思ってキムチチャーハンにしたよ……結城さん、何か言ってた?」
普通に考えれば、親御さんも心配すると思う。
「美味しそう……喜んでいたよ。入園料とかは、おばさん達がだしてくれるし」
良かった。でも、一つ心配な事がある。
そうなると、僕は一人で動物園を見る事になると思う。
「賄いの感想が先って……もう、食べているし。実、あいつは来ないんでしょ?正義の取り巻きが、徹にごちゃごちゃ言ってきて、うざいんだって」
林間合宿以降、織田君の取り巻きが徹にいちゃもんを付ける事が増えたそうだ……知らないって怖いな。
「当たり前でしょ。きちんと秘密にしてるっての。聞いたら、女を連れてきそうだし……まだ、信吾君にお礼を言ってないんだよ」
織田君の性格からして『僕と仲が良い子だから、優紀とも仲良く出来るでしょ』とか言いそうだもんな。
僕は仕事以外だと人見知りモードになるから、初対面の人と出掛けるのはきつい。ましてや当日は年上ばかり、優紀さんが楽しめない可能性もある。
その点、夏空さんと照山さんは優紀さんと顔見知りらしいから安心だ。
「お互い連絡先を知らないからね」
四月のグループライソの件が大きいと思う。あの流れでライソを無許可追加する度胸なんて僕にはない。クラスでライソを知っているのは十人もいないし。
「そう言えば信吾君達、いつの間にかクラスのグループライソから抜けていたよね」
僕……僕と徹、竜也はクラスのグループライソから抜けている。オタクグループの人がいじられまくって抜けたので、その流れで抜けさせてもらった。
「そりゃ、そうでしょ。内輪ライソが延々と続いているんだよ。通知がうざいし、バッテリーがもったいないじゃん。あたしもミュートにしているし」
うん、あの無意味なスタンプラッシュは、正直きつい。
ちなみに抜けても何も言われませんでした。
「お弁当、どうしようかな?子供が喜ぶ食べ物って、なんだろ?」
優紀さんはパスタが好きらしいけど、お弁当がパスタだけってのはきつい。
「優紀ちゃんは、もう小学校五年生だから、あまり子供扱いしない方が良いと思うな。大人ぶりたい年頃だし。大人向けでお洒落なお弁当だと、友達にも自慢出来るんじゃないかな」
お洒落か……秋吉さん、それ無茶振りです。僕はお洒落と無縁な人間なんだよ。
◇
お弁当は頑張った。多分、皆に喜んでもらえる筈。でも、一つ大事な事を忘れていました。
徹と探って、初対面なんだよね。特に徹はある意味、訳ありと言うか日本トップのVIPな存在。探は馬鹿な事する訳ないと思うけど、釘を刺しておいた方が良いかもしれない。
早目に待ち合わせ場所に着くと、既に探がいた。身長が180cmもあり、筋骨隆々なので遠めでも分かるのが有難い。
顔もいかいけど、穏やかでのんびりとした性格。良く照山さんと付き合えたと思う。
「探、久し振り。元気そうで安心したよ」
探も僕と一緒で待ち合わせ場所には、時間前に着いているタイプ。
「慎吾も元気そうだね。そう言えば、紅葉ちゃんがお世話になったんだってね。ありがとう」
のんびりとした口調で話す探。あれか、照山さんは庇護欲をそそられたんだろうか?
「僕は何もしてないよ。むしろ、こっちが助けてもらえたんだ。それより、今日のメンバーなんだけど」
あのスリーハーツラッシュは、猫の手でも借りたい状態だったから、凄く助かりました。
「庄仁徹、十六歳。マーチャントグループの跡取り。高校生ながら、いくつもの事業に携わり、大きな利益を生んでいる。経済界だけじゃく、各方面から注目を集めている人だね」
僕が知らないだけで、徹はかなりの有名人らしい。そうなると違う問題が発生してしまう。
「流石だね。探、お願いだけど、その事は内緒にしてもらえる?」
念の為に、夏空さんの件を探にも伝えた。そう言えば名納って、恋路と同じ高校……つまり、名納と同じ高校なんだよね。
名納の名前を聞いた瞬間、探の表情が一変した。
「名納君か。マーチャントグループの威光を笠に着て、やりたい放題なんだよね。まあ、お陰で僕は紅葉と付き合えたんだけど……慎吾には悪いけど、庄仁徹の人柄は観察させてもらうよ」
なんでも名納が照山さんにつき纏ったのを、探が追い払ったらしい。いくら名納とはいえ格闘技有段者かつ家が探偵事務所の探には強く出られなかったらしい。
「そこは僕が太鼓判を押すよ……噂をすれば、なんとやらだ。徹、おはよう」
探の心配をよそに徹はワクテカ顔でやってきた。久し振りに夏空さんに会えるのが楽しみでしかたないって感じだ。
「慎吾、おっす。今日も弁当作ってくれたんだろ?ありがとな。端提探さんですね。今日はよろしくお願いします」
徹は挨拶しながら、僕のポケットにお金をねじ込んできた。多分、弁当代なんだと思う。
「徹、嬉しそうだね。夏空さん達は優紀さんと一緒に来るってさ」
なんでも徹は夏休み関係なく、仕事に勤しんでいたらしい。竜也もコンサート関係で忙しいそうだ。一回、ランチ会開こうかな。
「おまっ……初対面の人がいるのに、何を言ってんだよ!祭から織田の妹さんの話は聞いたよ。相変わらず、お人好しだよな」
チラッと探を見ると柔和な笑みを浮かべていた。どうやら、合格らしい。
「ノリと言うか流れでね。それと勝手にメンバー増やしてごめん」
徹は織田君に良い印象を抱いていない。その妹さんが加わったのは、面白くない筈だ。
「それを言ったら、俺も後加入なんだぞ。祭から妹さんの話を聞いているし、織田の耳に入らなきゃ問題ないって」
織田君か……秋吉さんと優紀さんが出掛けるのを見たら、付いてきそうで怖い。
その場合は男三人で動物園を回るんだろうか?
「慎吾君、おはようっ!晴れて良かったね」
夏空さんの笑顔が今日も眩しいです。お弁当作り、頑張って良かった。
「徹、元気そうで安心したよ……顔を見られて良かった」
夏空さんは徹の顔を見て嬉しそうにはにかんだ。徹も嬉しそうに笑っている。本当にこの二人はまだつきあっていないんだろうか?
「さぐさぐ、おはよー。会いたかった―」
さぐさぐ?照山さんは、そう言うと探に抱き着いた。そんなキャラだったんですね。
「あの……おはようございます。今日はよろしくお願いします」
どうやら、普段とキャラが違うらしい。優紀さんが面食らっています
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