夏空さんは憂鬱?
僕の長期休みのルーティン。朝仕込みか仕入れのお供。日中、アルバイト。夜、宿題か勉強……早起きになる位で、普段とそんなに変わりません。
でも、今年は違う。仲の良い女の子が出来たのだ。
しかも、秋吉さんはうちでアルバイトをしているから毎日会える。それだけでも幸せなのに……。
「今日の賄いはカッペリーニの冷製パスタだよ」
秋吉さんも夏空さんもお疲れ気味。夏休みという事もあってお客様が増えているのだ。
「ありがとう。信吾君は元気だね。朝早くから買い出し行ったんでしょ?」
アルバイト期間が長くなったので、二人共任さられる仕事も増えたそうだ。
「うん、楽しかったよ。使ってみたい食材あったし……」
秋吉さんは疲れているけど、元気だ。でも夏空さんのテンションが低いのです。
「既読ついていない……徹の馬鹿」
スマホをジッと見ながら夏空さん呟く。徹、とんでもなく忙しいからとフォローしてやりたいんでけど、それは諸刃の剣な訳で。
(夏空さんがマーチャントグループにトラウマがなければ言えるんだけどな)
その徹はマーチャントグループの跡取り兼有能ビジネスマン。夏休みは、ここぞとばかりに働いているらしい。
(お金持ちの家に生まれたからって、人生イージーモードって訳じゃないんだな)
徹の家は日本有数の大企業だ。言い換えれば何万人もの社員、その家族の運命を背負っている事になる。
好きな子とゆっくりデートする事も難しいんだと思う。普通の家に生まれた人の方が、人生を謳歌しているのかも知れない。
実際、徹は僕のライソに返信出来ない位、忙しいんだし。
「祭、パスタ伸びちゃうよ。昨夜も遅くまで庄仁君と電話していたんでしょ?」
秋吉さんの話によると、夜中一時位まで電話していたらしい……充分、謳歌してたのか。まあ、僕のライソより、夏空さんに電話を優先するよね。
「もう一週間も顔見ていないんだよ……実には、この気持ちは、分らないか」
秋吉さんの気持ち……知りたいけど、怖くて無理です。
「ちょ……祭!信吾君は庄仁君や相取君と連絡とっているの?」
……なんて返事しよう。とりあえず二人の素性がバレない様にしないと。
「ライソで一日に二、三回位だよ。僕はバイトと課題もあるから」
徹も忙しいけど、竜也は撮影とレッスンで、もっと忙しいらしい。三人のグループライソは予定報告で終わっている。
「課題以外の時間は、実と電話しているしねー。良里、良く体持つよね」
……ふと冷静になった。僕は電話出来て嬉しいけど、秋吉さんのプライベートを邪魔しているんじゃないだろうか?
少し連絡控えた方が良いかもしれない。
「休憩や休みを取れているから、割りと平気だよ。農家さんや酪農している人は、もっと大変だろうし」
取引先の酪農家を見学に行かせてもらった事があるけど、生き物と関わるのって大変なんだと思い知らされた。
お陰で牛乳やチーズをもっと大切に使える様になりました。
「良里は、休みの日も料理絡みなんだね。でも、今度紅葉達と一緒に動物園に行くんでしょ?」
なんて耳が早い。僕の中学時代の友達が、秋吉さんの友達照山さんと付き合っていたのだ……世間って狭いです。
「まさか紅葉の彼氏が信吾君の友達だとは思わなかったよ。祭、庄仁君も誘ってみたら?その日は祭も休みの日だし。庄仁君に会えるチャンスだよ」
これは偶然じゃなく、婆ちゃんに頼んだシフトを弄ってもらったのだ。
「……良いの。と、とりあえずライソだけしておく」
直ぐに徹にライソする夏空さん。そして徹も、この日は休みの筈。流石に週に二日は休んでいるしい。
(流石に竜也は無理だったけど、久しぶりに友達に会えるのは楽しみだな……友達?)
ふと思った。いつの間にか恋路や武田さんの事を考える事すらなくなっていた。一五年位前までは親友と片想いしている人だったのに。
……今が充実しているから、だろうな。
◇
……流石は現役ビジネスマン。レスポンスが早い。
「お前、動物園に行く日、狙っただろ?」
その日の夜、徹坊ちゃまから電話が掛かって来たのだ。
「秋吉さんと前から話をしていたんだよ。夏休みに皆でどこか行きたいねって。夏空さん寂しがっていたし、従業員心のケアの一環さ。徹なら、大切さが分るでしょ?」
何しろ財閥の跡取り息子だ。労働問題には関心がある筈。
「うちは社員のプライベートには、口を突っ込まない主義なんだよ。でも、ありがとうな。それで照山さんの彼氏って、どんな奴なんだ?」
……もう照山さん事を知っているのか。渡欧は、夏空さんの事を知ったらどうするんだろ?
「僕の友達で
探に聞いてみたら“まさか付き合えると思わなかったから、言いそびれた。ごめん”って言っていた。照山さんは美少女で、学校で人気者らしい。一方の探はがっちりタイプのフツメン。中学時代は僕と同じくモテない組。
「端堤……もしかして端堤興信所の息子さんか」
電話の向こうからキーボードを叩く音が聞こえてくる……こいつ、僕と電話しながら、夏空さんとライソしてやがったな。僕のライソはスルーした癖に。
「そうだよ。と言っても僕みたいに家業は手伝ったいないんだ。良く分かったね」
検索したにしても、心当たりがなければしないと思う。
「うちの法務部に、あそこで働いた事がいてね。その伝手もあって、表立って調べられない事をたのんでいるんだ」
確かに社外の事を調べさせているのが、バレたらイメージダウンに繋がる。
「納得したよ。そうだ、嶽キミって仕入れる事出来るか?」
徹に夏祭りの件を報告。もちろん快諾してくれた。
これで安心してバイトを頑張れます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます