二人のペースで

 ……勉強会のお陰もあって、無事に全科目平均点を取る事が出来た。僕にしては頑張った方だと思う……思うけど。


「夏空さんが学年三位で徹が五位か。凄いな」

 成績上位にいるのは、殆んどが、特進科の生徒。僕達がいるのは普通科で、トップテンに入っているのは夏空さんと徹だけだ。しかも二人共、仕事をしながら、この順位なのだ。


「徹は仕事をしながら、この成績なんだよね。日本有数の企業の跡取りで、頭も良いなんて漫画のキャラクターみたいだよね」

竜也、現役アイドルの方が、稀有な存在だと思うよ。


「竜也も旅行に行けるんだよね」

 コンサートを間近に控えた人気アイドル……どう考えても忙しいに決まっている。


「うん、夏休みだしね。事務所からもオッケーが出たよ……徹の家から電話来たら、即決だったんだ。本当、凄いよね」

 流石はスポンサー……てか、この二人と僕が一緒にいて良いんだろうか?


「桃瀬さんが旅行に行けるのも、徹の力なんだろうな。威張らないのが不思議な存在だよね」

 徹はマーチャントグループの跡取りだ。取り巻きとか引き連れていても、おかしくない。子会社の社長令嬢である百合崎さんにもいたんだし。


「桃瀬さん、旅行でゆっくり出来たら良いよね」

 いや、どう考えても竜也の方が忙しいでしょ?……でも、桃瀬さんの事を話す竜也の顔は、どこか嬉しそうで……まさかスクープにならないよね?……旅行中はマスコミに気を付けます。


 この学校は、やっぱり別世界だ。テストが終わった事もあり、話題の中心は夏休みの過ごし方に。


「夏休みはモナコだって」

「うちも一緒だよ。向こうで会おうぜ」

「またパリだって。たまにはモルディブが良いな」

 七割近いクラスメイトが外国に行くらしい。そんな中百合崎さんと沖田君だけテンションが低い。聞いた話だと、二人共親御さんからこっぴどく叱られ、旅行に行けないとの事。


「夏休みか。今年も忙しくなるんだろうな」

 夏休みになると、県外からのお客様が増える。だから夏休みの大半は厨房で過ごすのだ。


「俺もだよ。朝から晩までオフィスで仕事さ」

 徹が同意しきた。でも、同じ労働でも天と地の差があるんだぞ。徹は、クーラーの効いた快適なオフィスだと思う。

でも、責任を持たなきゃいけない金額の桁が違うから、交代は勘弁だ。


「僕は初日からロケだよ。初日は鹿児島で釣りロケ……船酔いするんだよね」

でも一番ハードなのは竜也だ。番組撮影とレッスンの毎日らしい。

しかも唯一ゆっくり出来る学校が休みになる。旅行まで竜也の体力は積んだろうか?


「移動だけでも、かなり時間が掛かるもんな。信吾は青森に行かないのか?」

 婆っ茶の家か……行きたいけど、無理だな。


「行きたいんだけど、ちょっと無理かな。ずっと厨房にいるから、日焼けも無理かも」

 僕以外は高スペックな筈なのに、三人全員がグレーな夏休みになりそうです。


「流石にあそこまでなれとは言わないけど、少しは積極的になってみたらどうだ?」

 徹の視線の先いるのは、織田君と取り巻きさん達。夏休みに織田君と会う為に、必死でスケジュールを聞いている。

 織田君のスケジュールは、部活かデートか睡眠って感じらしい。

(部活のギャラリーも凄いらしいもんな……織田君自信は誰が好きなんだろ?)

 下手に刺激して『やっぱり僕は実ちゃんが好きだ』とか言われたら嫌だな。勝ち目ないし。


「積極的にか……それにしても、良くお金続くよね」

 織田君は来るもの拒まずの人らしく、誘われたら誰とでもデートをするらしい。僕と違って友達と遊び行く位の感覚なのかもしれない。


「競争が激しくて、奢り前提じゃなきゃ織田とデート出来ないらしいぞ」

 うん、ここにも別世界がありました。僕は秋吉さんをデートに誘うのに、あれこれ悩んでいるって言うのに。


「羨ましいな。僕も一回デートしてみたいよ」

 竜也がポツリと呟く。ドラマの中なら何回もデートしているんだろうけど、リアルだと忙し過ぎて無理だと思う。

 何より本物の竜也とアイドルのユウじゃ、キャラが違い過ぎる。どっちにも好きになってくれる人とかいるんだろうか?


 終業式が終わり、明日から夏休みだ。

 本当に目まぐるしい数ヶ月だった。振られて恋して、親友が二人も出来て……その親友が二人共、凄い奴で……何より、秋吉さんと考えらない位仲良くなれた。


「信吾君、御母さんがまた遊ぶに来てって言ってたよ……どうしたの?」

 僕等は二人で帰っている。入学式に初めて会った時からは。考えらない進展だと思う。


「いや、色々あった一学期だったなと思って……ブロッサムに入学した時不安だったんだ。絶対に馴染めないと思ったし」

 今でも陽キャ軍団とは馴染めていないけど、それ以外の人とは上手くやれていると思う。


「分かる―!初めてアルバイトをしたし、紅葉とも仲直り出来たし……何より信吾君と再会出来たもんね」

 うん、まさかあの時の男の子が秋吉さんだったとは。


「照山さんと遊びに行ったりしているの?」

 ずっと気になっていた。秋吉さんは、もう一度バドミントンをやりたいんじゃないだろうか?


「それがねー、紅葉は彼氏に夢中なの。ライソも五分遅れで返事来るんだよ。遊びに行ってもスマホを気にしているし……確か、信吾君と同じ中学の人だったな」

 名前を聞いてびっくり。僕が恋路の事を聞いている奴だった。世間は狭いです。


「そいつ、僕の友達だよ。今度四人で遊びに行こうか?」

 出来たら徹と夏空さんも誘って。


「そうなんだ!それじゃ、今度動物園に行かない?祭も陽菜も誘って」

 楽しみだけど、あの二人のスケジュールを抑えるのは困難だぞ。


「良いね……その良かったら、二人でも、どこか行かない?水族館とか……」

 動物園の後に水族館とか、安易すぎるだろうか?

(その前にオッケーもらえなきゃ意味ないんだけどね)


「それなら少し離れた所の水族館に行ってみようよ。小旅行って感じで……楽しみだなー」

 あっさりオッケーがもらえました。無理しなくて良い。僕の……僕等のペースで仲良くなっていこう。

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