ポイント稼ぎ?
優紀さんがいてくれて良かった。秋吉さんと二人だったら、勉強に手がつかなかったと思う。
「秋吉さん、この計算分かる?」
調理に計算は必須。だから暗算は得意な方だ。
でも、関数とか言われると解が迷子になってしまいます。
「それは、この公式を使うんだよ」
そして改めて思った。秋吉さんは頭が良い。ブロッサムに入学出来る時点で、それは確定なんだけど……必死に勉強して、理事長先生の助けがあって入学出来た僕とは頭の出来が違うんだと思う。
「ありがとう。一人だと上手く解けなかったよ」
多分、諦めて得意な科目に逃げていたと思う。
「みんな、お疲れ様。お茶でも飲んで。遊んでばかり……じゃないみたいね」
ノックと同時に秋吉さんのお母さんが部屋に入って来た。
(もう三時間経ったんだ)
お互いに教え合う事で、効率良く勉強が出来ました……勉強は出来たけど、秋吉さんとの会話はゼロに近いです。
「おばさん、ありがとう。信吾さんって、凄く真面目なんだよ。ずっと勉強していて、お喋りもしないし……兄貴だと漫画を読むか、女の子とライソしていただろうな」
優紀さんは、そういうと頬杖をつきながら溜息をもらした。ライソに関して織田君は人気者だから仕方ないと思う。
休み時間とか通知音が途切れないし。何回もモバイルバッテリーで充電する姿を見た。
僕は朝充電すれば余裕で夜まで持ちます。
「僕等はテストがあるからですよ。それに優紀さんも真面目に勉強をしていたじゃないですか」
優紀さんは織田君の妹だけあり、かなりの美少女だ。キングオブモブの僕は未だに敬語で話してしまう。
「良里君の進路は大学なの?」
秋吉さんのお母さんがジュースを配りながら質問してきた……進路か。
「調理師学校に行きたい気持ちもありますけど、ブロッサムを卒業したら、そのまま家で働くと思います。それか父みたいに他店で修行させてもらうかですね」
父さんは高校を卒業後、都内の老舗洋食店で修業したそうだ。僕としては外国のレストランで修行をしてみたいって気持ちもある。
「それじゃ将来は安泰よね。洋食屋ヨシザト人気だし。実にせがまれて、何回か行った事があるのよ。もしかして、良里君が作ったお料理を食べていたかもね。でも、あの頃だと良里君もまだ中学生か。流石にお料理は作ってないわよね」
そう言いながら秋吉さんのお母さんは腰をおろした。これは長くなるぞ。パートさんとのコミュニケーションで身に染みているのです。
「中学生の時は野菜の下拵えや洗い物がメインでしたね。その頃から賄いは作っていましたけど」
良く考えたら、僕の青春って料理に中心に回っているんだよね。ブロッサムに入学知れいなかったら、青春の背の字もなかったと思う。
「凄いわねー。実もアルバイトから帰ってくると、賄いの話ばっかりするのよ。『今日は信吾君がパスタを作ってくれたの。凄く美味しかった』とかね。私の料理は、何も言わない癖に」
秋吉さんのお母さんは僕の事を責めていないと思う。でも、凄くいたたまれないです。
「でも羨ましいですよ。僕は母の手料理はあまり食べた事がありませんし」
弁当を含めて自炊が主だし、母さんが作ってくれた物より、爺ちゃんや父さんが作った料理の方が多いと思う。
それに対して不満はない。だって、母さん物凄く忙しいもん。
(なんか優紀さんの顔が暗い?……そう言えばご両親が忙しくて、秋吉さんの家でご飯を食べているって言ってたもんな……まさか織田君も未だに?)
……賄い気合をいれて作ろう。僕のアドバンテージは、そこしかないんだし。
「ママッ、勉強の邪魔をしないでっ!」
秋吉さん、本当はママって呼んでいるのね。
「はい、はい、分かりました。実、お昼どうする?良里君、サンドイッチおばさんも食べて良いの?」
秋吉さんのお母さんが笑いながら、立ち上がる。よく友達みたいな親子とかいうけど、そんなノリだ。
「はい。五人いらっしゃると聞いていたので、多めに作ってきましたので。是非、食べて下さい」
五人、多分お父さんの事だと思うんだけど、まだ挨拶出来ていません。僕から挨拶しにいった方が良いんでしょうか?
「そう言えば、おじさんはどうしたんですか?朝から姿が見えないですけど」
つまり吉さんのお父さんは不在と……挨拶させて下さいって言わないで良かった。結婚の挨拶じゃないんだから、いらないよね。
「釣りに行ったのよ。変な所で臆病なんだから」
僕が来るのを知っていて釣りに行ったらしい……もしかして僕避けられている?
「また釣り?釣ってきても、誰も食べないのに」
秋吉さん、魚好きな筈なのに……今度から魚介避けようかな。
「おろしてもらうのも、お金掛かるのよね。一匹だとうちじゃ食べきれないし。そのまま持って行くのも、ご迷惑なのよね」
そこから始まる愚痴のオンパレード。お父さん、頑張って。
(今の時期だと太刀魚やススキかな。鯵やカサゴも美味しんだよね)
まあ、太刀魚やカサゴを家で料理した事がある人も少ないと思う。
「時間があえば僕がおろしましょうか?」
厚かましいけど、料理もしたい……正直に言えば、義斗兄ちゃんからもらった包丁を使いたいのだ。魚ばかりおろす訳にもいかないから、最近包丁を思う存分使えていないんです。
「本当?もし釣れたら、お願いしようかな」
お母さんから了承をもらえた。これでお父さんに挨拶出来るかもしれない。
◇
朝早く起きてサンドイッチを作って良かった。
「この間のピザも美味しかったですけど、サンドイッチも美味しい……このレンコンサンドって、ラジオでユウ君が言っていたやつですか?」
優紀さんは、スリーハーツ……特にユウのファンとの事。いつもラジオを聞いているらしい。つまり僕の投稿も聞いていた可能性があると……秋吉さんにばれていないよね。
「多分、似た味だと思いますよ」
多分と言うか、その物なんだけどね。
「ビーフカツサンドに卵サンドもある!流石信吾君、私の好みを分かっている」
秋吉さんが本命だから、好きな物を作らせて頂きました。
「だし巻き卵のサンドイッチもあるのね。このエビとアボカドのサンドイッチはワインに合いそう」
お母さんも喜んでくれている。今回はポイント稼ぎの意味も含めて、大人向けのサンドイッチも作りました。
「卵サンドが二種類?……パパまだ帰って来ないから二つ食べても大丈夫だよね?」
秋吉さん、大丈夫だと思います。だって現状手を付けてもらえるか分からないし。
「パパからライソだわ……魚いっぱい釣れたみたいよ。良里君、お願い出来る?」
写真を見たら鯵を中心に大漁でした。
「それじゃ一回帰って包丁を取ってきますね」
勉強を頑張っているけど、僕は料理人だ。釣りたての魚をおろせる事にワクワクしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます