再会とアイデア

ブロッサムに通っているのは良家の子供が多い。つまり金銭的感覚は庶民とかけ離れている人が多いのだ。

 いや、この状態の児童館を見ればお金に余裕がないの分かるよね。


「この現状を見れば、経営が苦しいって分かると思うんだけどな」

 屋台の話をしたら、徹が興味を持ったらしくついて来てくれる事になった。徹は、頭が回るので頼りにさせてもらいます。

 徹の言う通り、児童館の外観はお世辞にも良いとは言えない。掃除はいき届いているから、小奇麗に見える。

(粗探しみたいで嫌になるけど)

 建物自体が、かなり古い。ここだけ昭和って感じだ。

 小さな庭に遊具があるけど殆んどが使用禁止になっている。多分、専門家に点検をお願い出来ないんだと思う


「どうだろうね。ボランティア部がDYをして協力しているみたいだけど……善意って難しいよね」

 塗りが甘くて、手すりや壁のペンキが剥げ落ちていてる、錆が見えている所も少なくない。


「ペンキ画って難しいんだぞ……児童館に連絡はしたんだよな」

 壁にはうさぎの様な生き物が描かれていた。でも、ペンキが垂れてしまいかなりホラーな見た目になっている。


「うん。今は約束の五分前……屋台的に立地が厳しいね」

 児童館はメインストーリートから離れた場所にある。静かで良い場所だけど、屋台の立地としては厳しい。


「近くに他の屋台が出てくれたら、良いんだけどな」

 角には店が出ると思うけど……事前に登録していると思うから、情報を手に入れて被らない様にしたい。


「それじゃ行こうか……お忙しいところすいません。先日、電話させて頂いた良里です」

 うん、疑問は更に深まった。チャイムを押した瞬間、徹の顔つきが変わったのだ。なんかやり手のビジネスマンみたいな感じです。


 本の数年前まで。僕はここに通う側だった。

(靴箱も道具入れも、みんな小さいな)

 色んな物が可愛く飾り付けられていて、職員さんの愛情が伝わる。これは失敗出来ないぞ。


「こちらです。館長、ブロッサムの学生さんが見えました」

 ベテランの職員さんに案内されて、館長質へ。気の所為か職員さんの対応が冷たい感じがするんですけど。


「館長の高友たかともです……やっぱり信吾君だったのね。大きくなって」

 出迎えてくれたのは優しそうな女性……どこかで見た事が……。


「もしかして優子先生ですか?」

 高友裕子先生、僕が児童館に通っていた頃、面倒を見てくれた人だ。

 うちは昔から家族総出で働いている。当然、小さい子供に付きっきりなる余裕はなかったそうだ。だから僕は小さい頃から児童館のお世話になっていた。


「そうよ……こんなに大きくなって……あんな事があったから心配していたのよ」

 あれから優子先生とも疎遠になったもんな。


「ありがとうございます。先生も忙しいと思いますので、本題に入って良いですか?ボランティア部ご迷惑をお掛けしていませんか?」

 先生は答えに憎いと思う。ほんの僅かだけ先生の表情が曇った……正解か。


「そんなストレートな質問に答えられる訳ないだろ……初めまして。私は良里君の友人で庄仁徹と言います。今日は夏祭りの屋台の相談に来ました。よろしくお願いいたします」

 良里君?……誰、それ。徹の顔は大人びており、出会ったら頃なら別人と思ったかもしれない。

ビジネスマンって感じの空気を身に纏っていて、とても同い年には見えません。


「よろしくお願いします。ボランティア部の子達から聞いていると思いますが、あまり予算を充てられなくて」

 先生も徹の空気に飲まれたのか、敬語になっていた。

 やっぱり予算が厳しいのか。


「当然です。ボランティア部にとって一年に一回の行事でも、児童館様にしてみれば年間行事の一つに過ぎません。クリスマスや遠足の方が、子供達にとっての大事ですし」

 本当にお前……いや、貴方は誰なんですか?


「そう言ってもらえると助かります。うちも経営が苦しいもので」

 やっぱり経営が苦しいんだ。児童館って補助金で運営しているイメージなんだけど……少子化の影響とかだろうか?


「いえ、色々見学させてもらいましたが、様々な工夫がなされていました。良里君は何か聞きたい事ありますか?」

 徹が僕に敬語を使っている?明日は雨でもふるんじゃないだろうか?


「先生、中に入らなくても良いので、厨房を見せてもらえますか?」

 今僕が出来るのは予算内で売れる商品を考える事。


「良いわよ。こっちへ来て……昔もそうして私の後をついて来たわね」

 先生が懐かしそうに微笑む。そして徹も穏やかに微笑む。いつもなら突っ込んでくれるんだけどな。


「勘弁して下さいよ……大きめのフライヤーと業務用の冷蔵庫があるな」

 多分、冷凍食品を使ってコストを下げているんだと思う。

(それならあれ……いや、あっちの方が良いか)

 そうなると必要な物は……頭の中で算盤を弾いていく。調味料、食用油、入れ物……そして、なんとかなるかも知れない。


「良い顔する様になったわね」

 先生、年上と同性には評判が良いんですよ。


「自慢の友達ですよ。そうだ、これを渡しておきますね」

 徹が先生になにかを渡した……先生が恭一驚いているんですが、何を渡したんだろう?


 メニューが決まったので、部長さんの所へ報告に行く……なぜか秋吉さんも付いてきています。

(やっぱり、秋吉さんといると目立つな)


「流石信吾君だよね。あんな無茶振りにも応えるんだから、赤字続きで今期の予算が少ないって信じられない。しかも信吾君に丸投げなんて最低」

 そして秋吉さんは憤慨されています。元々夏祭りの黒字分を、来期の活動費にしていたみたいなんだけど、赤字続きで予算が少なくなったらしい。


「部長さんも去年はあまり関わっていなかったみたいだし、結城さんに至っては今年初だもん。仕方ないよ」

 優子先生への恩もあるし、頑張ってみようと思う、でも、使える物はきっちり使わせてもらう。


「もう案が出来たの?……流石良里君!でも、これで良いの?なんか平凡っていうか」

 僕が考えたメニューは平凡な物。多分、似た様な物を出す店はあると思う。


「平凡で良いんですよ。言い換えれば味が想像出来て安心出来る食べ物なんですから……観光や初めて入った飲食店じゃなきゃ、珍しい物はあまり買ってもらえませんし」

 別に祭で一番の売り上げを目指す必要はない。赤字を出さないのが一番の目的なんだし。


「分かったわ。当日は私達も手伝うし、これは私の方で手配しておくわね」

 今回僕等にとって有利な事がある。人件費があまり掛からないって事だ。それに部長の人脈を使えば予算を浮かせられる物もある。


「部長は、児童館の経営が苦しい理由って知っていますか?」

 児童館が建っている地域は住宅街で、子供もそれなりにいるらしい。


「貴方達も聞いた事あるでしょ?利用料未払いに保護者がいるみたいよ。マーチャントグループの社員もいるみたいなのにね」

 先生は利用料を支払わない家庭の子供受け入れているらしい。流石に料理で解決できません

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