気にしたら負け?

  メニューが決まったから、それでオッケーとはならない。関係者に試食してもらう必要がある。

  試作品は調理実習室で作る事になったんだけど……。


「凄い人数だね」

 家庭科部とボランティア部、そしていつものメンバー……ここまでは分かる。

なぜか織田君達もいるんですけど。その所為で調理実習室は満員御礼となっていた。

どこから情報が漏れたんだ?別に秘密にしていた訳じゃないけど。

(集中・集中……織田君の隣にいるのは乙梨さん?)

 もしかして織田君を誘ったのは、乙梨さんなんだろうか?


「今日はお金かからないんだよね。ラッキー」

 満面の笑みで喜ぶ織田君。うん、試作品だからお金は取らないよ。材料費は僕持ちだけどね。

 主催者ぼくが呼んでいないんだから、せめて静かにして。


「正義、なんでお前が、ここにいるんだ?ボランティア部とも家庭科部も関係ないだろ?」

 夏空さんが呆れ口調で注意してくれた。流石は姉御肌、頼りになる。


「それを言ったら、祭ちゃんだって違うじゃん。それに美味しい物がただで食べられるんでしょ?」

 織田君が爽やかな顔で返事をする。悪びれずにニコニコしながら言えるから凄い。心臓に毛でも生えているんだろうか?


「あたいは良里に呼ばれたの。バイト仲間で、友達なんだし」

 ランチ会のメンバーには、色々手伝ってもらう事になっている。


「僕も乙梨さんに呼ばれたんだよ。それに僕も、良里君のクラスメイトだし」

 いや、ただのクラスメイトと友達じゃ、待遇は大違いだぞ。夏空さんは大事な従業員で、仲の良い異性の友達。何よりしんゆうの大事な人だ。


「正義、お前はただのクラスメイトなんだろ?普通、ダチを連れて押しかけてくるか?」

 桃瀬さんも参戦してくれた。でも、織田君は平然としている。悪気がないだけに質が悪い。


「でも人数が多いと宣伝になるよ。皆お祭り好きだし」

 織田君の友達が一切に頷く……悪ノリが好きなだけだと思うけど。


「信吾君、始めよう。相手にするだけ、無駄だし…流々華、信吾君とのやり取りはボランティア部にお願いするから。何かあったら、まずは私に言ってね」

 秋月さんの言う通り、騒ぐだけ時間の無駄だ。調理を始めよう。


「う、うん。分かった……祭、なんか実が怖いんだけどっ!」

 僕は女子と絡むのが苦手だから、秋吉さんが間に入ってくれるのは助かる。

(怖い?さっきから笑顔なんだけども……よし、始めるか)


「それじゃ調理を開始します。竜也、冷蔵庫に入っているバットを出して」

 織田君のファンの子に言いたい。ここに織田君なんか比べ物にならないイケメンがいるって。

でも、ユウをアシスタント代わりに使うなんて、スリーハーツのファンに見られたら、絶対に怒られると思う。


「これはジャガイモか。僕ジャガイモ好きだから、楽しみだよ」

 桃瀬さん、楽しみにしていて下さい。ランチ会メンバーが壁になってくれているので、織田君グループは近づけない。まじで、助かります。


「タネを休ませたかったから、昼休みに蒸して裏ごしをしておいたんです」

 蒸すのにも、タネを休ませるにも、結構時間が掛かる。当日は家庭科部が手伝ってくれる手筈だ。基礎になるタネにはバターと塩・胡椒・小麦粉が入っている。


「これだけで美味しんだよね。お代わりしちゃった」

 お陰で昼休みも一緒にいれました。

タネをボールに移し、小麦粉を加えて混ぜていく。


「信吾、ボールを出したぞ」

 調理台の上にボールが二個並ぶ。うん、手筈通りだ。

今回も徹が工程表を作ってくれました。徹が出してくれた二個のボールにタネを分け入れていく。


「良里、二種類も作るの?」

 結城さんが興味津々と言った感じで覗き込んでくる……家庭部の皆さんは見ないで大丈夫なんでしょうか?


「はい、子供用と大人用を作ります。児童館の屋台ですから、子供が大勢来ると思いますし」

 流石に名前は変えるけどね。ノーマルとスパイシー味にする予定。

 子供用タネには、少しだけ牛乳を加えていく。あまり入れると揚げた時に、爆発する危険性があるので慎重に加えていく。

大人用のタネには粒胡椒を投入。

 タネを取り出し、棒状に伸ばす。それを一口大に丸めていく。


「信吾君、これ位の大きさで良いかな?」

 僕の大きさを、まねて秋吉さんがタネを渡してくれた。


「ありがとう。竜也、丸めたタネを並べていって」

 丸めたタネを次々に置いていく。もう流れ作業と化しています。


「みんな息が合っているね……実と良里なんて夫婦みたいじゃん」

 結城さん、なんて嬉しい事を……秋吉さんをチラ見してみる。

 良かった。引いていない。


「良里、水溶き片栗粉とホットケーキミックスの準備出来たよ」

 桃瀬さんには、衣作りをお願いしてある。

家庭科部とボランティア部の方々、織田君達と一緒に見ているけど主役は貴方達なんですけど。


「油もオッケーだよ」

 揚げ油の管理は夏空さんにお任せ。肉屋の娘さんだけあり、温度管理がばっちりなのです。


「それじゃ揚げていくよ」

 子供用のタネにはホットケーキミックスを、大人用は水溶き片栗粉を付けて揚げていく。

 そこからひたすら揚げていく。もう火は通っているので、揚げ時間は短くて済む。


「……最初は大きさの違うやつを食べて比べてもらう予定だったんだけど、計算にない連中が来たもんな」

 徹が僕等だけに聞こえる様に呟く。そして五人が同時に頷いた。ランチ会メンバーは特別枠なので、食べ比べをしてもらいます。


「ポテトボール(仮)の完成です」

 ネーミングは丸投げします。だって、僕はまだやる事があるし。


「子供向けは優しい味だから、児童館の皆喜ぶだろうな。衣もザクザクして楽しいし、早く皆食べさせてあげたい」

 オタクに優しいギャルならぬ子供に優しいギャルの結城さん。子供達が喜ぶ顔を想像して、顔をほころばせています。


「大人用も、美味しいわね。子供向けだけじゃ、保護者の方々は満足しない人もいるだろうし……私はこれで良い思うわ。良里君、ありがとう」

 家庭科部の部長が妖艶な笑みを浮かべる。でも、僕には通じません。額に視線を集中させる……背中がゾクゾクするのは、気の所為でしょうか?


「?まだお礼は早いですよ。漫研か美術部に、看板の作成を依頼して下さい。それとネーミングもお願いしますね。容器とかは、僕の方で手配しますので。領収書の宛名は家庭科部で良いですか?」

 後、意見をまとめて改良もしたいし。値段と一人前の個数も決めないと。


「良里君、これなんてジャガイモ使っているの?」

 珍しく織田君が話し掛けてきた。同級生だからため口で良いんだけど、そこまで親しくない筈。


「えっ、男爵だけど」

 揚げ物に最適なジャガイモです。でもだだの男爵ではなく、うちで契約している農家さんが作ってくれた物だ。


「えー、新しいブランド芋かと思ったのに。つまんないの。それじゃ、ごちそーさま」

 織田君は、そう言うと調理実習室を出て行った。おい、農家さんが丹精込めて作ってくれた芋だぞ。

 新しいブランド芋って……漫画の見過ぎです。そんな物使ったら単価が上がってしまい、子供が食べられなくなる。


「信吾君、気にしたら負けだから……部長さん、二度とあいつ等を近づけないで下さい。あんな奴等に信吾君の料理を食べる資格はありません。あー、腹が立つ」

 秋吉さんの言う通り気にしない様にしよう……秋吉さんは、本当に織田君の事を気にしていないんだろうか?

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