夏のお誘い?
朝ご飯を終え、コテージへと戻る。片づけをして、帰らなきゃ駄目なんだけどベッドに横になりたいです。
「なんか疲れたね」
さっき起きたばかりなんだけど、どっと疲れが押し寄せてきている。終わり良ければ総て良しと言うけど、今回の林間合宿はどうだろう?
まず竜也がユウだった。正直言ってまだ信じられない。アイドルのユウは正統派アイドルで、いつも元気で前向きだ。
「同感だよ。僕、この後ダンスのレッスンなんだよね」
でも、本体?の竜也は、泣きべそをかいて愚痴っている。うん、なんか凄く安心した。
「信吾、部屋を片づけるぞ。アイドル君は、少し横になってろ」
同じ部屋にアイドルがいても、徹は平常運転……僕はまだ少し緊張しているっていうのに。
「りょーかい……百合崎さん達どうなるんだろうね?」
秋吉さんが酷い目にあって……百合崎さん達は下手したら、停学。自業自得と言えばれまでだけど、手放しで喜ぶ様な事じゃない。
「反省文だと思うぞ。事を大きくすると、学校側もやばいからな。あの大騒ぎを、スルーしていたんだぞ。職務怠慢って言われてもおかしくない……まあ、百合崎が下手打ってくれて良かったよ」
なんでも、昨夜は管理事務所に予約の電話が鳴りっぱなしだったらしい。それでキャンプ場の職員は、夜間外出に気付けなかったそうだ。
「そんなの着信履歴調べれば、一発でバレるのに……ああ、先生達も足止めを喰らっていたんだね」
現役アイドルが物騒な事を言う。やっぱり、僕とは社会経験が違います。
「おう、違う宿泊客からの苦情が来たり、自称地元の人間が酒や料理を持ってきたらしいぜ。つまり、百合崎を責める程、痛い腹を探られるって訳だ」
反省文は痛み分けって事か。それじゃ、秋吉さんの気持ちが納まらないと思う。
「それじゃ、秋吉さんだけが嫌な思いしたって事……なんか納得いかないな」
当事者じゃない僕が怒っても、仕方ないんだけども。
「そうでもないみたいだぜ」
徹がスマホ見ながらニヤリと笑う。夏空さんが上手く慰めてくれたんだろうか?
「……二人共、通常運転過ぎない?僕は一大決心で、正体を明かしたんだよ」
竜也がむくれている。自分の秘密を明かすのって勇気をいるよね……僕も、いつか秋吉さんや二人に、あの時の事を伝えようと思う。
「そうは言っても、お前はお前だろ?アイドルのユウじゃなく、俺等のダチ相取竜也として、ここにいるんだし……ダチの誼で新譜のCDが出たら、買ってやるよ」
徹の言う通り、竜也は竜也な訳で。
(徹が通常運転だから、僕も落ち着いていられるんだろうな)
そうでなきゃ、この事を誰かに言いたくなると思う。
「うちは芸能人のお客さんが結構も来るし。食レポ系の番組もたまに来たりするから。竜也、うちに来た時は、宣伝お願いね」
テレビの宣伝効果って凄いんだよね。きちんと対応してくれて、他のお客様に迷惑を掛けないなら断らないってのが、うちのスタンス。でも、チューバさんは固くお断りしています。
「僕、食レポ苦手なんだって!下手な事いって、お店の人に不快な思いさせたくないし……信吾君、なんかこつとかある?」
やっぱり、竜也は竜也だ。優しくて人の事を思いやられる。
「特別な料理以外は、味の詳しい説明とかはいらないと思うんだ。ラーメンでもオムライスでも、ある程度味の想像は出来ると思うし。好みの味じゃないと思ったら『優しい味ですね』とか『スパイスが効いていますね』とか言ってくれると助かる」
美味しいって自負はあるけど、あまりハードルを上げられてもね。テレビ見た後に、思ったより美味しくなかったって言う人がいるんです、
「後は『がっつり食べたい人にお勧め』とか『若い女性が好きそうな味』って言っておけば良いんだよ……さて、帰るぞ」
なんか二人との仲が深まった感じがする。後は秋吉さんが元気になってくれたら、良いんだけど……。
バスに乗ったら、秋吉さんが手招きしてきた。
「信吾君、ちょっと肩貸してね」
そのまま秋吉さんは眠むってしまい……凄く落ち着きません。
「良里、少し寝むらせてあげて。実、良里が近くにいると安心するだってさ。昨日、あんたが来てくれて凄く喜んでいたんだぞ……聞かされる方は大変だったけどな」
秋吉さんはそう言うと悪戯っぽく笑った。安心か……。
(好きだからって、自分の気持ちを押し付けちゃ駄目だよな)
それじゃ、織田君を押し付けた百合崎さんと変わらない。秋吉さんの信頼を売れぎらない様にしなくては。
◇
百合崎さん達は反省文&お説教で済んだらしい。先生だけじゃなく、親御さんからもきつく怒られたそうで、すっかり大人しくなりました。
「もう完全に夏だね。夏休みになったら、皆で海に行こうよ」
秋吉さんの水着……滅茶苦茶見たいです。でも、竜也はコンサートがあるから、きついかもしれない。
このまま平穏な時間が流れていくと思ったら、そうは問屋が卸してくれませんでした。
秋吉さんと話をしていたら、突然教室がざわつき始めた。
見てみると家庭科部の部長さんと部員が教室に入って来たのだ。
そしてずんずんと僕達の方へ向かってくる。
(なんで結城さんも一緒なんだ?)
なぜか結城さんも部長さん達と一緒にこっちに向かってきていた……なんか背後から物凄い圧を感じるんですが。
「部長さん、何かご用事ですか?」
秋吉さんの笑顔が怖い。また織田君絡みで何かあったんだろうか?
「実、そう怒るなって……今日は良里に頼み事があって来たんだし……祭から聞いていたけど、良里も大変だな」
僕に?部長さん達はまだ分かるけど、結城さんは何の用事だろう?
「怒っていません!それで流々華、何の用?」
夏が来た筈なのに、背筋が寒いんですけど。
「今度、うちの近所にある学童保育で、夏祭りをやるんだ。その時に、ボランティア部と家庭科部が共同で、模擬店をやるんだよ。それを、良里に手伝って欲しくて」
学童保育か……僕に出来る事はあるんだろうか?
「流々華が、いつも手伝いに行っている所でしょ……良いよ。でも、私も参加するからね」
秋吉さん、まだ僕返事していないんですけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます