二転三転

コテージを出ると、ざわついていた。どうやら、何人かの生徒が捜索の準備を始めているらしい。

(皆、どこで情報を知ったんだ?あまり騒ぐと先生達にばれるってのに)

 でも、人数が多いのに越した事はないんだ。誰でも良いから秋吉さんを見つけて欲しい。


「最初に行方不明になったのは阿里、有粋、百合崎の三人らしいぜ。ほら、昼間に絡んできた三人だ」

 徹がそう言ってクラスライソを見せてくる……そりゃ、クラスライソにあげれば皆に知れ渡るよね。ちなみに発言者は織田君でした。

なんでも百合崎さんと有粋さんが秋吉さん達と同室だったらしい。

有粋さんが一人で帰って来て、秋吉さんに『一緒に探しに行こう』と頼んだらしい。

 秋吉さんはスマホを持って行こうとしたけど、見つけれずそのまま探しに行ったとの事。

そのまま二人との連絡も途絶えたと……。


「それじゃ皆で実ちゃん達を探しに行こう。実ちゃん、きっと不安だと思うな。だから、早く行こうよ」

 当然の様に仕切りだす織田君。そして、それに賛同する取り巻きズ。元はと言えば君達が原因なんだけどね。


「ちょっと、待て。このままバラバラに探しに行っても意味がないぞ。隣に奴が見える距離で横に並べ」

 徹の言う通りだ。バラバラに行動していたら、大勢で探す意味がない。


「庄仁、なんでお前が仕切るんだよ」

 織田君の取り巻きが切れる。普段大人しい徹に指示されたのが気に入れないんだと思う。


「俺は無駄な時間を過ごしたくないだけだっての。バラバラに動いている間に誰かが帰ってきたり、すれ違ったりしたらどうするんだよ。それにこの暗さじゃ、探している方も迷子になる危険性がある。横一列で動くのが一番なんだよ」

正論だ。ぐうの音もでない位の正論である。僕と違って、徹は陽キャグループに対して物怖じしない。

 これだけ堂々と正論を言われたら、陽キャグループも黙るしかない。


「よし、行こう。早く実ちゃんを見つけてあげないと」

 いや、一人だけ違った。なせかし切り始める織田君。具体的な指示は一切ないです。

この状況で良くリーダーシップ取れるよな。


「全員、ライソの通知を有効にしておけ。残った人は誰か帰ってきたら、連絡を頼む」

 徹のアドバイスに従いクラスライソの通知をオンにする。普段は無効にしています。だって僕が何か言ってもスルーされるんだもん。


「庄仁、懐中電灯を消せ。先生に、ばれたらどうするんだよ」

 徹が仕切ったのが気に入らないのか、陽キャグループの一人が怒声をあげた……もし、先生に見つかったら説教は確定だと思う。

 徹が懐中電灯を消した途端、辺りを闇が支配し始めた。


「分かったよ……信吾、織田の奴、神社の真正面の位置を取ったぞ。良いのか?」

 徹の言う通り、織田君は神社の真正面の場所をキープ―。その周囲も陽キャグループが独占している。

 秋吉さんは神社に友達を探しに行った。つまり織田君達の場所が一番早く秋吉さん達を見つけられるポジションだ。

 ちなみに僕の場所は、織田君達からかなり離れたポジション。このまま進んでいけば、神社とは全く違う場所に着く。


「今は四人を見つけるのが先決だよ」

 確かに僕も秋吉さんを見つけたい。でも、それより四人の安全を確保するのが一番だ。


「四人か……信吾君は優しいよね。昼間、悪口を言われたのに」

 竜也が優しく微笑んでいる。確かに阿里さん達に馬鹿にされたけど……。


「あんなの悪口に入らないよ。それに馬鹿にされたたから、見捨てるなんで嫌じゃん」

 中学時代にメンタルを鍛えられました。


「織田は、秋吉さんの事しか言ってなかったってのに……っと、進んだな。夜道で足元が見えないから気を付けろよ」

 月は出ているけど、かなり心許ない。


「うん、分かった。でも、これだけ騒いで先生はおろか従業員の人も出てて来ないね」

 全員帰ったとか?緊急時、どうするつもりなんだろ。


「まあ、先生に気付かれれば全員大目玉だから、かえってラッキーだろ」

 徹はそう言いながら、しきりにスマホをいじっている。


 月明りを頼りに草むらを進む。雲が月を隠す度に、視界が闇で覆われる。いわゆる漆黒の闇ってやつだ。


「遠くを見ないで、少し前の地面に視線を落とせば歩きやすいよ」

  二人共、歩き辛いらしく歩みがゆっくりだ。そこら中に灯りがある都会では、こんな纏わりつく様な闇は経験した事がないんだと思う。


「本当だ。これも青森のおばあちゃんから教えてもらったの?」

 婆っちゃは、僕に色んな事を教えてくれた。今度、アルバイト代で何か贈ろう。


「うん……なんか静かじゃない?」

 さっきまで陽キャグループが騒ぐ声が聞こえたいたけど、今は竜也と徹の声しか聞こえない。


「転んで何人か帰ったみたいだぞ……仕方がない。少し離れるぞ」

 二人と離れるのは不安だけど、秋吉さん達はもっと不安なんだ。気を取り直して、再び歩き始める。


 どれ位歩いただろう?速度は遅いけど、そろそろ森に着く筈なんだけど……。


「君っ、こんな夜中に灯りも持たないで、何をしているんだっ!」

 徹達に連絡をいれようとしたら、誰かに怒鳴れた。


「ご、ご、ご、めなさい。友達が迷子になって、それでえっとー」

 動揺し過ぎて、自分でも何を言っているか分りません。


「君は昼間の……友達が迷子って言っていたけど、何があったか教えてもらえるかい?良く見ると、そこにいたのは昼間境内であった男性。男性は優しい笑顔を浮かべており、気持ちが落ち着く。


「実は……」

 僕はこれまでの経緯を男性に話した。


「さっき騒いでいたのは、君の学校の子だったのか……友達を心配する気持ちは分かるけど、先ずは大人を頼るべきじゃないかな?」

 何でも織田君達は境内で花火をして、大騒ぎしいたらしい。


「すいません。その通りです。後、クラスメイトがご迷惑をお掛けしました」

 もし、僕や竜也まで迷子になったら、それこそ大問題である。いくら秋吉さんが関わっているとはいえ、無謀過ぎた。


「君は本当に素直で良い子だね……君は迷子になっている子の事を好きなのかな?」

 

「好きです……でも、その子には他に好きな人がいると思うんです」

 織田君と、僕じゃスペックが違い過ぎる。何より二人は幼馴染みだ。

 僕が入る隙間なんてない筈……恋路と恵美ちゃんの様に。


「……それでも君は探しに来たんだね」

 織田君との差を縮めたくないと言えば嘘になる。でも、それ以上に僕は……。


「一人ぼっちの不安は、良く分かるので……秋吉さんだけじゃなく、他の三人も早く見つけてあげたかったんです」

 あの時、僕は凄く不安だった。だから、四人の事を放っておけなかったんだ。


「そうか……さっき、あっちの方で女の子の声がしたよ。言ってみると良い」

 女の子……四人のうち誰かだと思う。


「ありがとうございます。お詫びも兼ねて神社にお供え物をしたいんですけど、何が良いですかね?」

 流石に境内で花火はまずい。きちんとお詫びをしなきゃ。


「そんな事良いから、早く行ってあげなさい……そうだな。君の作った山菜料理が良いんじゃないかな」

 神様にお供えするなら、肉を使ってない物が良い。あれにしよう。


「ありがとうございましたっ」

 男性にお礼を言って、走りだす……もし、秋吉さんだったら、織田君じゃなくて、がっかりされないだろうか?

 そんな小さい不安が胸に灯しながら、僕は駆け出した。


 少し走ったら、女の子の泣き声が聞こえてきた。この声は間違いない!


「秋吉さんっ!」

 秋吉さんは木の根元でうずくまって泣いていた。さっきまでの不安は、いつの間にか消え、無我夢中で秋吉さんに向かって走り出す。


「信吾君っ!怖かったよー」

 僕に気付いた秋吉さんが顔をくしゃくしゃにしながら、抱き着いてきた。

 子供の様に泣きじゃくる秋吉さんの頭をゆっくり撫でる。

 

 残りの三人も、あれから直ぐに見つかった。見つかったけど……。


「織田と仲直りさせる為の計画だったってのか?迷惑極まりないな」

 徹が怒るの無理はない。今回の騒動は、百合崎さん三人が考えた計画だったのだ。


「怖くて泣いている秋吉さんの元へ織田君が颯爽と登場。そうすれば、織田君の魅力に気付くと思ったんだって。でも、物音がして驚いて逃げたら、秋吉さんとはぐれたらしいよ」

 呆れて物も言えない。流石の織田君でも、怒ると思う。


「わざわざ秋吉さんのスマホを隠しなんて質が悪いよ……汗かいたから、シャワーを浴びてくるよ」

 竜也は、そう言ってシャワーを浴びに行った。


「三人組は先生達が泊まっているコテージでお説教だそうだ。下手すりゃ停学だな」

 流石に悪戯では済ませられない。フォローの仕様もないし。


「さっぱりした……こんな時だけど、二人に言わなきゃいけない事があるんだ」

 なんで、ここにユウがいるんだ?シャワールームから出てきたのは、竜也じゃなくてスリーハーツのユウだった。

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