願い事
買い物を終えたバスは昼食をとる為、大型のドライブインに停まった……陽キャの人達って、なんであんなに元気なんだろ?
カラオケにクイズ大会、ずっとテンションマックスで疲れないんでしょうか。
「やっとお昼だね。信吾君も天ぷらうどんだよね。一緒に食べよ」
秋吉さんの言う通りお昼は選択制。自分が選んだメニューのテーブルに座る仕組みとの事。
メニューは焼肉定食・白身魚のフライ・カレー・天ぷらうどんの四種類……正直、凄く迷いました。うどんにした理由はただ一つ。秋吉さんとお昼を食べたかったんです。
「夕飯は肉がメインだしね。とりあえず欲しいは揃ったから期待していて」
でもホヤは危ないからと、徹に却下されました。見た目はあれだけど、美味いのに。
移動しながらテーブルに出された食事を横目でチェックしていく。
「お二人さん、さっきぶり。一緒に食べて良い?」
話し掛けてきたのは、朝結城流々華さん。さっき?殆んど会話してない気がするんですけど。
「流々華は焼き肉食べないの?」
優紀さんは陽キャグループに属している。その陽キャグループの殆んどが、焼き肉定食を選んでいる。
「あたし朝食べてこなかったから、焼き肉はきついんだよね。それに焼き肉って言っても、あれ野菜炒めじゃん。良里は料理人としてどう思う?」
結城さんの言う通り、焼き肉定食のメインの肉炒めにはピーマンや玉ねぎが大量に入っている。かさましもあるだろうけど、肉だけだと味も食感も単調になってしまう。
「うどんもそうですけど、全部適温で提供してるみたいですし…準備大変だっただろうなって思いました。」
盛り付けだけでも、かなりの時間が掛かっている筈。
人海戦術かも知れないけど、そうなるとコストがかかってしまう。うちの店やるとなったら、学校をサボらなきゃいけなくなる。
「実の言う通り、骨の髄まで料理人なんだね……良里は、大勢の料理を作った経験あるの?」
……僕はまだ本物の料理人になれていないと思う。賄いもそうだけど、僕はある程度好きに料理を作っている。このドライブインで料理を作っている人こそが、本物のプロの料理人だ。
「夏祭りでから揚げを、揚げ続けた経験はありますよ」
◇
まじか。ここ学生が泊まって良いんでしょうか?
「豪華過ぎない?僕が今まで泊まった事があるホテルより豪華なんだけど……なんで、そんなにリラックス出来るのさ?」
まあ、ホテルに泊まった経験は小中の修学旅行だけなんだけど……案内されたコテージは、高級ホテルなみの豪華さでした。
でも緊張しているのは、僕だけで徹と竜也は平常運転……二人共、心臓に毛でも生えているんでしょうか?
「そりゃ、ここ一番がグレードの高い部屋だからな。キッチンも好きに使って良いらしいぞ」
徹は高そうなソファーにドカッと座ると、そう説明してくれた……後から追加料金取られないよね。
「セキュリティもしっかりしていて、安心だよ……信吾君、どこ行くの?」
確か今は小休止の時間。この時間を有効に使おうと思う。
「夕飯の仕込みをしてくる。今から漬けておけば、味が染み込むし」
今回のメインはすスペアリブ。徹が持ってきてくれたダッチオーブンで作るのだ。
取り出したのは、タレが入ったの保存袋。骨付き肉に切り込みをいれて、家で作ってきたタレに付け込む。真空袋の空気を抜けば完成。
「お前が一番平常運転じゃねか……野外散策まで時間があるけど、どうする?」
他の班は女子のコテージに遊びに行っているらしい……クラスライソは、その話題で盛り上がっているし。
(織田君が秋吉さんのコテージに行っている……やっぱり、仲が良いんだな)
織田君が載せた写メには笑顔の秋吉さんが写っていた。
「例の神社に行ってみない?松木津高原に来たんなら、挨拶に行った方が良いと思うんだ」
霊が視える住職に相談したら『きちんと挨拶をして来なさい』と助言してくれたのだ。
「俺もそうするつもりだったから、ちょうど良いな。歩いて十分位だぞ」
徹って、案外信心深いんだ。
神社は森に囲まれているらしく、昼間ならスムーズに行けるそうだ。
「僕も行くよ。神社は行っておいた方が良いって先輩も言ってたし」
習い事の先輩なんだろうか?一人で残っていても暇だもんね。
◇
キャンプ場を抜けて、歩く事数分。神社は鬱蒼とした森の中にあった。
古びた鳥居に苔むした石段。
今は昼間だから良いけど、夜には来るのは絶対に無理です。
「神社の中に入った途端、空気が冷たくなった……お邪魔させて頂きます」
(鳥居と参道の真ん中は神様がお歩きになる場所……だから人は脇を歩くんだよね)
教えられた作法通りに参拝を済ませる。
「随分早かったけど、なにかお願いしたのか?」
僕が目を開けると、徹も竜也もゆっくりお願いしていた。
「ううん『今夜一晩をお邪魔します。うるさかったら、すいません』ってお伝えしたんだよ」
夜はぐっすり寝てしまうと思うけど、お邪魔しているんだから、それが礼儀だと思う。
「料理上手になりたいとかじゃないんだ?」
青いと思われるかも知れないけど、僕には夢があるんだ。
「神様とかに頼らないで立派な料理人になりたいんだ。当然感謝はしているけど、お願いまでしたら厚かましいと思うし」
どうしようもなくなったら、頼るかも知れない。でも出来るだけ、自分の力で夢をかなえたいんだ。
「へー、俺はてっきり『秋吉さんと両想いにして下さい』ってお願いしたかと思ったぞ」
ここのいわれを聞いて、そんなお願い出来る訳ない。
「それこそだよ。神様のお願いで両想いになって、奇跡的に付き合えたとするでしょ?それで秋吉さんを傷つけたり、迷惑を掛けたりしたら、凄く後悔すると思うんだ」
まあ、神様じゃなきゃ叶えられないお願いだと思うけど。
「君達、良い子だね。こんな清々しい願い事を聞いたのは久し振りだよ」
声をしたので、振り向いてみると優しそうな中年男性が立っていた、箒を持っているしから見て、神社の関係者だと思う。
「すみません。神社で騒いでしまって……あの貴方は?」
徹が頭を下げながら、男性に尋ねる。
「私は近くの町に住んでいて、たまにここへ掃除来るんだよ。パワースポットや我意の強いお願いをする人が多い中、君達みたいな子は珍しくてね」
そう言って優しく微笑む男性。徹達は何をお願いしたんだろ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます