椅子取り合戦?
遠足とか遠出する時のバスで大事なのは席順。車酔いする人は前の方を好むし、騒ぎたい人達は後部座席を狙う。
それに隣に誰が座ってくれるかも大事だと思う。どうせなら、話が合う人の方が楽しいし。
でも、僕はぼっちです。隣には誰も座っていません。竜也と徹も一人で座っている。
三人とも、わざと通路側に座っています。
ちなみに織田君グループは、後部座席を占拠。座るやいなや大声ではしゃぎ始めた。秋吉さんも織田君の隣で楽しそうに微笑んでいる。
(朝から皆元気だよな。僕は寝不足だってのに)
僕は夕飯や店の下拵えをする為、いつもより早く起きたのだ。出来たらバスの中では寝ていきたいです。
少しだけでも眠っておこうと思い俯いた瞬間、バスがざわついた。
「皆、座ったか?今日はスポーツ科の桃瀬陽菜もバスに乗っていく……席はどこが良い?」
担任と一緒に桃瀬さんが乗って来たのだ。スポーツ科は林間合宿に参加する生徒が少なく、他クラスのバスに振り分けられる事になったらしい。
なんでも桃瀬さんは本人たっての希望でうちのクラスに合流したそうだ。
「僕は、祭と座るので大丈夫です。でも、二人掛けの椅子は空いてないか」
桃瀬さんの言葉を聞いて何人かが腰を上げ始めた。ごめん、全部仕込みなんだ。
「徹、隣良い?陽菜、通路を挟んでいても良いよね」
徹、無表情を貫いているけど、鼻の下が伸びているぞ。
桃瀬さんがバスに乗ってきたら、席の奪い合いが始まるのは目に見えていた。特にリア充グループは、強引にでも隣に座ろうとする筈。
そこで秋吉さんがある作戦を思いつたのだ。
まず秋吉さんはリア充グループを後部座席に誘導。後ろからだと、直ぐに動けないからだ。
そして僕等は離れて、一人ずつ座る。後は夏空さんが桃瀬さんを誘導……成功したけど、僕だけ一人です。
うん、僕は寝ていくから隣に誰が来ても良いよ。ぼっちでも構いません。
「うわっ、最悪。良い席、どこも空いてないじゃん」
遅れて入ってきた陽キャギャルの
今空いているのは、僕と先生の隣。うん、究極の選択だね。
「それじゃ、ここ座らない?私も座りたい席があるし」
秋吉さんの提案に流々華さんが頷く。そして秋吉さんは、そのまま僕の隣へ……これで寝たら怒られるよね。
……すれ違う時、秋吉さんが流々華さんの肩を叩いたのは気の所為でしょうか?
◇
秋吉さんと知り合って約三ヶ月。流石に緊張せずに話せる様になりました。
「信吾君、眠そうだけど何時に起きたの?」
秋吉さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。会話は慣れても、これは照れくさいです。
「仕込みとかあったから、四時起きだよ」
林間合宿だからって仕事はサボれない。休みにも出来たんだけど、夕飯の仕込みもしたかったので、頑張りました。
「四時!?昨日もアルバイトだったじゃん。もう、無理し過ぎだよ」
でも竜也や徹も昨日遅くまで用事をこなしていたらしい。何より折角の林間合宿、出来る事はやっておきたいのだ。
「ありがとう。でも、凄く勉強になったし……なにより兄ちゃんから、もらった包丁を使うのが楽しいんだ」
スッと切れるし、柄は不思議な位僕の手に馴染む。気が付くと夢中で包丁を使っているのだ。
「塩釜の他は何作ってくれるのか楽しみにしているね」
初アウトドア料理、皆で協力して美味しい料理を作るんだ。
「後ろも盛り上がっているし、絶対に楽しくなるよ」
徹も竜也も、楽しそうに話をしている。徹のテンションがいつもより高い気がするのは、気の所為でしょうか?
「祭も陽菜も楽しみにしていたから……信吾君、神社の話聞いた?」
もって事は秋吉さんも楽しみって事だよね……神社か、時間があったらきちんとお参りに行こう。
「うん、徹から詳しく話を教えてもらったから」
自分でも調べてみたけど、心霊スポットとして有名らしい……真実を知った身としては、遊び半分で行く気にはなれません。
「私も祭から聞いた……後ろの連中、夜中に肝試しに行く計画を建てているんだよ。ありえないよね」
秋吉さんも説得したみたいけど、聞く耳もたず。『そいつ、恋愛の負け犬でしょ?リア充の方が強いに決まってるじゃん』と鼻で笑ったらしい。
自己責任だから良いけど、面倒事は起こさないで欲しいな。
「夜中の神社は神人外の領域。遊び半分で行く場所じゃないんだけど……織田君は何か言っていたの?」
空気は読めないけど、織田君は優しい性格だ。皆を止めてくれる筈。
「あれにまとな反応を期待しても無駄だから。『その人、きっと寂しい思いをしていると思うな。だから皆で遊びに行ってあげようよ』って言うんだよ」
あげようよって、上から目線過ぎない?まあ、先生方の監視に期待します。
「ぼ、僕等は僕等で楽しもう。でも、秋吉さんと仲が良い人が参加しようとしていたら、止めてあげてね」
夜中に大勢で行ったら、祀られている男性だけでなく、神社の人も怒らせちゃうから。社会的にも取り返しがつかない事になるぞ。
「うん。信吾君は、ゆっくり眠ってね。でも、ライソしたいな」
寝不足でも良い。ライソしましょう。
◇
スーパーに到着。郊外にある大型店舗らしく、思わずテンションが上がる。
「大きいなー。魚介コーナー広っ!この鯵ふっくらしていて、たたきにしたら美味しいだろうな。天然物の鮎じゃん。今が旬だし、値段もお手頃だよ」
思わず目移りしてしまう。予定にはなかったけど、料理人としてこんな素晴らしい食材を見過ごす訳にはいかない。
「お前はおもちゃ売り場に来た子供かっ!クーラーボックスがあるとは言え、刺身はまずいだろ?予算も決まっているんだし、もう行くぞ」
徹から、ストップがかかる。食材を見てインスピレーションが湧く時もあるんだぞ。
「信吾君、ここで買うのは海老だよね。どの海老が良いの?」
竜也が貝や海老を置いてあるコーナーで手招きしている。
「殻付きのやつ。大振りな方が良いな。加熱するから刺身用じゃなくて良いし」
バーベキューも出来るだろうから、帆立も買いたいな。
「ホヤがある。これは買って良いでしょ?駄目なら自費で買うし」
竜也と徹が呆れ顔で笑っている。
◇
実を始め祭も陽菜も、かなりモテる。男子からチヤホヤされる事に慣れていた。
自分達を放っておいて、男だけで盛り上がるなんて経験した事がない。
しかし、三人は怒らず目を細めて見ているのだった。
「あの三人って、凄く息が合ってるよね。三人共、チャラくないし、気遣いが出来て優しい。もっと人気があっても良いと思うんだけど」
実達に話し掛けてきたのは結城流々華。朝に実と席を交換した女子である。
「流々華ちゃん、朝はありがとう。お陰で信吾君とゆっくり話せたよ」
そう、実は最初から信吾の隣に座るつもりだったのだ。
「いいって、あたしも用事があって遅れたんだし……良里、気分悪くしなかったかな?」
何か自然に座れる方法がないか考えていたら流々華が遅れてくる事を知ったのだ。そこで席のトレードを提案したのだった。
「信吾君はそんな事気にしないって。今朝も交差点の見守りボランティアでしょ?偉いなー」
流々華はボランティア部に所属しており、小学生が交差点を渡る時の見守りをしているのだ。
「あたしは好きでやっているんだもん。子供達も可愛いし」
そんな流々華だから信吾達の事を見た目だけで、判断していなかった。
「さっきの答えだけど……普段は三人で盛り上がっているし、放課後になれば、三人共直ぐに帰る。他の女子が話し掛ける暇がないのさ……良里の場合は、独占欲が強い奴がいるしね」
祭が意味ありげな目で実を見る。流々華は納得した様な顔で頷く。
「二人共、うかうかしていたら他の女に取られちゃうよ。それじゃね」
班の仲間の元へ向かう流々華を実と祭は複雑な表情で見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます