一芸特化メンバー
僕から料理を取ったら、何が残るんだろう?
勉強、五教科は平均点。得意科目は家庭科。運動、チーム競技は守備要因か控え。
見た目、キングオブモブ……俯瞰で自分を見ると悲しくなってきます。
「林間合宿の課題どうする?」
課題のアイディアすら出てきません。料理が絡まないと、何も思いつかないのです。
「俺達だけで決めるのは駄目だろ?班の皆の意見を聞いてから決めるぞ」
徹が呆れ顔で突っ込んでくる。物凄い正論です。
「そうだけど、意見どころかアイディアすら思いつかないんだって」
このままだと、ただの炊事当番で終わってしまう……いつもの事か。
「お前は大袈裟に考え過ぎなんだって。グループライソで今日集まれるか聞いてと……明日の昼休みに弁当を持って裏庭に集まるぞ」
……相変わらず段取りがスムーズだ。徹はリーダーシップがあり、場を仕切るのが上手い。
一方的に話を進めて行かず、全員の意見を聞いて不満が出ない様にしている。
「キャンプ場のホームページを見たら、何かアイディアが出ると思うよ」
竜也の言う事はもっともだ。何があるか分かれば、アイディアが出てくるかもしれない。
キャンプ場は、マーチャントグループが経営しているらしい。
(釣り堀もあるんだ。トレッキングコースも整備されているな……えっ?)
「居酒屋とレストランがあるの?キャンプ場にコンビニは駄目でしょ!」
設備が充実しまくっていてキャンプ場と言うより、グランピグって感じだ。
「炭や調味料を忘れてくるおきゃ……人が結構いるらしいんだよ。それに従業員に毎回飯盒で飯を炊けなんて言えないだろ?」
そりゃそうだけど……ニーズに合わせた商品を置いているらしく、結構繁盛しているらしい。
「神社は少し離れているね。従業員のブログがある……これは!」
ブログにはキャンプ場の周囲にある自然が多く載せられていた。その中でトレッキングコースの風景が載せられていたんだけど、凄く良い物が映っていたのだ。
僕は料理人。無理に料理から離れる必要はない……何より、もう時間がないんです。
「そう言えば、この間のデートどうだったの?五回もデートしているんだから、進展あったんじゃない」
竜也、それ聞く。進展か……なんーもなしです。
「秋吉さんが冬華さん……包丁屋の奥さんに憧れていたみたいで、凄く仲良くなっていたよ……進展は研ぎを鍛えてもらった位かな」
秋吉さんと冬華さんは気が合ったらしく、姉妹の様に仲が良くなっていた。そして僕はもらった包丁のメンテナンスを覚える為に、研ぎを仕込み直されたのです。
「宝長包丁店の奥さん……氷室雪華さんだよね。人気絶頂期に結婚の為にレポーターは辞めたって聞いてたけど」
徹の話では、雪華さんはかなり人気があったらしく、大手芸能事務所に移籍する話もあったらしい。
僕はレポーター時代の雪華さんの事知らないんだよな。
「うん。でも、今の仕事の方が楽しいって言っていたよ。雪華さんが経営に携わる様になってから、店の売り上げが倍増したって話だし」
兄ちゃんやおじさんは職人気質で、経営や接客はあまり得意じゃない。二人共強面だしぶっきらぼうなので、誤解されやすいのだ。
でも雪華さんは元レポーターだけあり、人当たりが良く言葉遣いも丁寧だ。それに英語が出来るから、外国人の対応も出来る。
「ネット注文にも力を入れているらしいな。宝長包丁店に寄りたいって外国人も多いって聞く」
確かにおじさんや兄ちゃんの包丁は凄い。でも売る人がいなきゃ、商品にはならない。実質店を切り盛りしているのは、おばさんと雪華さん。
だから、力関係は女性陣の方が強いらしい……うちと一緒です。
◇
自分で作る様になって、分かった事がある。お弁当作りって大変。栄養や彩りを考えると、物凄い労力だ。
それ分、他人のお弁当は見るだけで勉強になる。
「実、それで足りるの?なんか、いつもより少なくない?今更小食アピールしても無駄だと思うけど……それで足りる?僕の分けようか?」
桃瀬さんの言う通り秋吉さんのお弁当は女の子らしい小さいお弁当だ。おかずは卵焼きとウインナー、それにミニトマトとオレンジ。彩りが良くて勉強になります。
「足りる訳ないじゃん。実は良里のおかずを狙っているんだよ」
秋吉さんが何か言おうとしたのを遮り、夏空さんがからかう様な口調で応える。
「そういうのは思っても口に出さないでよっ!!……気合の入ったお弁当で女子力アピールですかっ!?」
夏空さんや桃瀬さんと仲良くなって分かった事がある。秋吉さんって、いじられキャラでした。
そんな夏空さんのお弁当はメインが鶏のチューリップと照り焼き。副菜はほうれん草の胡麻和えと金平。そして茹で野菜と栄養のバランスも良くボリューミー。どう考えても一人分の量じゃない。
「違うっての……これは徹の弁当が冷食ばっかりだから、心配になって」
夏空さんの言う通り、徹の弁当は冷凍食品オンリー……今の冷食って、出来が良いから料理人は冷や汗ものです。
……そう言えば徹の好物って、鳥のチューリップなんだよな。
「揚げ物良いな。次の大会が終わったら、お腹いっぱい食べるんだ」
桃瀬さんは大会が近いらしく、茹でた鳥のささみに茹で野菜(ドレッシングなし)卵の白身とアスリートなお食事。
「桃瀬さん、これ低糖質のサンドイッチなんだけど、良かったら半分食べない?」
竜也が持ってきたのは、芸能人やスポーツ選手に人気のサンドイッチ。良く買えたな。
「良いの?これ、食べてみたかったんだ」
桃瀬さんは、よほど嬉しかったのか目を輝かせている。栄養関係もきちんと勉強したいな。
「話変わるけど、課題どうする?」
今日はお弁当交換会ではなく、林間合宿の課題を決める日なのです。決してリア充な空気に耐えられなかったのでありません。
「友達の班は、パックのご飯とレトルトのカレーで震災時の食事って課題にするらしいぞ」
夏空さん、それマジですか?
「自然の中で、自分達で出来る事を見つけるのが目的だしな。信吾、お前これ使えるか?」
徹が見せてくれたのはダッチオーブンの写メ。しかも、かなりお高いやつだ。
でも、使わせてもらえるなら作りたい物がある。
「動画サイトで使い方を見たから大丈夫だと思うけど……今気になっているのはご飯なんだよね。飯盒って失敗する事もあるみたいだし」
いくらおかずが充実してもご飯がないと、きつい。
「飯盒なら何回か使った事があるから、僕に任せて」
竜也って色んな経験しているよね。まじで何を習っているんだろ?
「この班の結束って凄いよな。特に男子は、一芸に特化している奴が多いくて、安心感がある」
夏空さんの言う通り、男子はそれぞれ特技を持っている。
「良里、料理楽しみにしているぞ。それを目的に大会を頑張る」
桃瀬さんの圧が凄いです。でも、どうせならキャンプをとことん楽しみたい。
「それなら課題は『充実したキャンプ飯』で良いんじゃないか?大抵の班がカレーか焼きそばだから、良い評価が付くと思うぞ」
そうとばればメニュー作りだ。こうなれば朝飯も充実させよう。
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