二人は会っていた?

……武田さんは何を言いたかったんだろう?秋吉さんと一緒にいれば僕が不幸になる……織田君に間男扱いされるって事なんだろうか?

(田中君と佐藤君の二の舞って事?)

 秋吉さんと釣り合いが取れないのは、僕が一番分かっている……とりあえず、空気が重いです。


「二人共、暗いぞ。あんな奴の言う事気にしてどうする?良里、あいつあんたの幼馴染みなんでしょ?」

 なんで夏空さんが、武田さんの事を知っているんだろ?


「もう何カ月も話をしていないけどね。徹と竜也には話たんだけど……」

 そこから僕がブロッサムに入学した経緯を話した。女の子に嫌われたから、進路を変えたって普通引くよね。


「祭、私もう一度あいつと試合をする。そして、もう一回完膚なきまでに叩き潰してやるんだ」

 秋吉さんの背後に鬼が見える……もう一度試合?


「おーい、バイトはどうするんだ?バドミントン部に入ったら、良里の賄い食べられなるぞ。本末転倒過ぎるでしょ」

 夏空さんの言葉を聞いた秋吉さんが、無言になる。

 バドミントン部か。


「ああ、秋吉さんもバドミントン部だったもんね。武田さんと試合した事あるんだ」

 今の話だと秋吉さんが勝ったんだと思う……武田さん、プライド高いから試合に負けると不機嫌になるんだよね。


「あるって言うか……良里関係者だよ。この子、あいつのあんたに対する態度に腹を立てて、圧勝したの」

 僕が関係者?でも、秋吉さんと知り合ったのはブロッサムに入ってからだけど。


「信吾君、一年生の区大会の時に、他校の生徒にサンドイッチあげた事覚えている?」

 一年生の区大会……サンドイッチ……。


「あー、あの時の男の子って、秋吉さんの知り合いなの?」

武田さんと恋路にまかれて、大量に作ったサンドイッチを持て余していた時だ。確か他校の男子生徒がサンドイッチを一緒に食べてくれたんだよね。


「ぷっ……男の子って。それは一年生の実なんだよ。この子、一年の時は凄く髪が短くしてたの。自分の事を僕って呼んでたし」

 嘘でしょ?もしかして入学式の時、驚いたのは僕を覚えていたから?


「あの時お弁当を隠されて困っていたんだ。そうしたら、信吾君が話しけてきてくれて『良かったらサンドイッチ食べって』言ってくれたの。名前を聞こうとしたら、時間がきてヨシザトって店の名前しか聞けなかったし」

 だって、まだ料理に自信がなかったし。好きな子に作ったサンドイッチが恥ずかしくて、誤魔化したんだよな。

 なんでも、その頃から織田君は人気があり、秋吉さんに嫉妬したファンの子が弁当を隠したそうだ。

 ちなみに秋吉さんが試合に勝ったのは二年の時……三年の時は、僕が二人から離れていたので、会えなかったらしい。


「だから、武田さんは、秋吉さんに敵意を見せていたんだ」

 今日、確信した。武田さんより、秋吉さんの方が圧倒的に可愛い。バドミントンだけじゃなく、見た目でも負けたから、武田さんは秋吉さんを逆恨みしていたんだ。


「あの時の卵サンド、凄く美味しかったよ。信吾君にお礼を言おうとしたら、あいつに馬鹿にされていて腹が立ったの」

 なんでも同じ部活の子に僕の事を聞いたら、武田さんの幼馴染みBだって教えられたとの事。

 恋路はイケメンだから、他校でも有名だったらしい。でも、僕はおまけの幼馴染みBと言われていたそうだ。


「そんな事あったんだ。それなら、早く言ってくれたら、良いのに」

 そうしたら、もっと早く仲良くなれたのに。


「私は信吾君が気付いてくれるの待っていたの。それなのに、男の子だなんて」

 ぷっと頬を膨らませる秋吉さん。なんか、また空気が悪いんですけど。


「実、それは違うよ。男だと思ったから、良里は声を掛けたんだ。女だと思っていたら、絶対にスルーしていた筈……徹がそう言っていたぞ」

 徹?呼び方が、庄仁から徹に変わったんだ。

 それと徹、大正解です。


「あの時のお詫びと再会を祝して、今日の賄いはとっておきのフライを作るよ」

 この空気を吹き飛ばせる自慢の一品です。


 鳥のささみを開いて、ラップで覆う。上から麺棒で叩いて伸ばしていく。

 そして塩胡椒をふる。ささみの上にバターを乗せて巻いていく。後は普通のフライと同じ様に揚げていく。


「キエフっていう名前らしいんだ。ちょっと下品だけど、ご飯の上で食べるのがお勧めだよ」

 これも婆っちゃに教えてもらった料理だ。婆っちゃは郷土料理だけじゃなく、色んな料理を教えてくれた。


「なに、これ!中からバターが溢れてくる。フライとバターなんて、背徳過ぎる組み合わせ。でも、美味しい」

 ようやく秋吉さんが笑顔になってくれた。女子に出すには、高カロリー過ぎて避けていたんだよね。

 本当はバターに香草とかを混ぜるらしいんだけど、賄いなのでバターだけにしました。


「バターがささみの旨味を引き立てている。ご飯にこぼれたバターが染みて……確かに下品だけど、この食べ方が正解だな」

 夏空さんも笑顔になっている……うん、凄く嬉しい。

 武田さんと恋路に嫌われたから、この幸せが手に入ったんだよな。


「禍福は糾える縄の如し……か」

 友達でも良い。秋吉さんの笑顔をもっと見たい。


「色々あったけど、今が幸せって事?良かったね、二人共……実は聞いていないか」

 夏空さんが感慨深げに呟く。小声だったからなのか、キエフに夢中だった為か、秋吉さんは無反応。

(秋吉さんと一緒にいると不幸になる……多分、武田さんは織田君の事を知っているんだろうな)

 また身の程知らずな恋をした僕に呆れたんだと思う。

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