過去との邂逅?

 味噌汁はうちの定食に付くから、何回も作った事がある……でも、未だに納得出来る味になった事がないのだ。


「信吾、調理実習の汁物何作るか……決まってないみたいだな」

 徹、正解です。考えれば、考える程分からなくなっています。


「味噌汁にしようと思ったんだけど、味噌一つとっても、地域で違ううんだよね」

 出汁や具材も加えると、無限の組み合わせになってしまう。

 味噌汁の迷宮ラビリンスから出られなくなっています。


「信吾君って、料理に一生懸命だよね」

 竜也が優しく微笑んでいる……絶対眼鏡を外せばイケメンだと思う。優しいし竜也は積極的になれば、絶対に彼女が出来る筈。

(でも、不自然な位に女の子と距離を取っているんだよな)

 正確に言うと、僕と徹以外の男子とも距離を取っている。


「僕には料理しかないから……まじで何作ろ」

 料理が出来る様になったら空、家に戻ってこれたんだし。


「信吾君は、料理以外にも良い所沢山あるよ。優しいし、真面目。後、困っている人を放っておけないとか……」

 竜也、僕を誉めようとして困らないで。


「竜也、誉め下手か!信吾の良い所か。性格はA。誰にでも優しいし、損得だけで動かない。難を言えば自信がなさ過ぎて、消極的な所だな。料理の腕はA、もう充分プロレベルだと思うぞ。でも、名店ヨシザトを継ぐには、まだまだまかな。でも、高校を卒業する頃には、合格基準に達している筈だ。前も言ったけど、ダチとしてはSランクだぜ」

 ようやくするお人好しで料理が上手いって事だよね。


「二人共、ありがとう。もう少し考えてみるよ」

 調理実習とはいえ、自分が納得できる物を作りたい。帰りにマーチャントスーパーに寄ってみよう。


「いや、そんなに真面目に考えなくて良いんだって。なんかアウトドア料理の本とか買ってそうだよな」

 お前は超能力者か。あの後、何冊か買いました。


「アウトドア料理って面白いんだな。色々作れるし……なあ、松木津って幽霊出るって、本当?」

 あの本は怖くて買えませんでした。だから記事の内容は分からずじまい……捨てたら、呪われそうだし。

 でも、何も分からないのは、もっと怖い。


「松木津の元の名前は、待来津草原。待ち人来ずから来ているんだってよ。確か江戸時代だっかかな。愛し合った幼馴染みがいたんだと。でも、女の方に縁談が来て、二人で駆け落ちする事に。待ち合わせ場所は、松の木の下……でも、約束の時間は過ぎても女は現れず。悲嘆にくれたまま、男は死んだのさ」

 そういう話って普、通男女逆じゃない?なんでも、それから、男の霊が出るって噂が流れたらしい。

 リゾート開発するに至って、名前が不吉だと今の名前に改名したそうだ。


「まあ、良くある話だよね。男の人のバージョンは、初めて聞いたけど」

 こういう話って、女性も向かっていたけど、事故で行けなかったって救いがあるんだよね。


「いや、実際に合った話らしいぞ。女性の子孫も生きているし」

 縁談相手は大店の息子で美男子。女性はあっさり乗り換えたらしい……救いはないの?


「あの男の人は、衰弱死したんだよね」

 竜也がおそるおそる確認する……事実を知っていたら、僕も立ち直れないと思う。


「伝説はな。男の怒りを鎮める為に神社を建てたんだけど、そこから女の親戚が男を殺したって古文書が出てきたらしい。娘が大店に嫁入りしたら、自分達にも、福が来るからな」

 ちなみに女の方は幸せな生涯をおくったらしい……救いなさ過ぎない?


「でも、良くそんな話残っていたね」

 竜也の言う通り、史実なら闇に葬っている筈。


「元は村娘が良縁を得るって話だったらしい。でも、神社がるあるのは、隣村。流石に男に同情したんだろ……ちなみに神社を建てたのは、村娘だそうだ。それなりに罪の意識があったのかもな」

 でも店の金で建てたんだよ。そこで怒りを鎮めろって言われても……神社にお参りに行こう。


「そんな男の人を怖がったら、駄目だよね。肝試しも中止にしたいな」

 肝試しって、男女二人で行くんでしょ?流石にそれはアウトだと思う。


「安心しろ。神社はキャンプ場から離れた場所にある。肝試しも、キャンプ場の中でやるらしいぜ」

 まあ、流石に神社の近くにキャンプ場は作らないか……念の為、お守りを持って行こう。


 汁物のヒントを得る為、学校帰りにマーチャントスーパーへ。ついでに賄いの買い出しもしておきます。


「信吾君、じゃこ買おうよ。じゃこ。今日の賄いは、じゃこ炒飯食べたい」

 学校帰りと言う事もあり、秋吉さんと夏空さんも一緒だ。


「実、アルバイトが賄いをリクエストしたら、駄目だろ。それで何を買うんだ?」

 じゃこ炒飯も良いけど、夏が来る前に作りたい物があるのだ。


「そろそろ揚げ物がきつい時期になるでしょ?その前にとっておきのフライを作りたくて……ささみあった」

 でも、肝心の汁物のヒントは見つからず。


「でも、色んな食材が揃っているね。サザエがあるよ。バーベキューしたいな」

 サザエか。流石に味噌汁には向かないよね……でも、あれなら。

 ヒントを掴んだと思った瞬間、ある人と目が合った。


「信吾、久しぶり……秋吉実?なんで、あんたが信吾と一緒にいるのよ?」

 目が合った相手は幼馴染みの武田美……さん。なんで僕ってこんなに間が悪いんだろ?

 恋路と違い武田さんは、中学生頃とそんなに変わっていない。


「だって、私ヨシザトでアルバイトをしているもん。それに信吾君とは、ブロッサムで同じクラスで仲良くしているし」

 なんか秋吉さんの言葉に棘があるんですけど。


「バドミントンを止めたって、本当だったのね。勝ち逃げは許さないんだから……信吾、あんた鏡見た事ないの?秋吉実とあんたじゃ釣り合う訳ないでしょ!デレデレして情けない」

 鏡は毎日見ているし、その度に現実の切なさを実感しています。

(ここで堂々と反論出来たら、格好良いんだけどな)

 でも、まだ胸を張って秋吉さんを好きだと言う自信はありません。


「武田さん、声が大きいですよ。周りに迷惑です。それに仲が良い友達と一緒にいたら、笑顔になるのが当たり前ですよね」

 敬語を使って、距離をおいた話し方に変える。美恵ちゃんと呼べるほど、面の皮は暑くないのです。


「武田さん?……まあ、いいわ。でも、そいつといたら、あんたも不幸になるから……じゃあね」

 言いたい事を言って、美恵ちゃんは、僕達から離れていった。せめて謝ろうよ。


「嫌な思いさせてごめん。代わりに今日は美味しい賄いを作るよ」

 自分でも不思議な位美恵ちゃんと普通に話せた。

もう思い出になっているんだと思う……ただ、美恵ちゃんが泣きそうな顔になっている事だけが気になった。

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