牽制しまくり?
ようやく梅雨も明けて、秋吉さんの送りが復活。梅雨明けより、こっちの方が嬉しいです。
「庄仁君も相取君も元気になって良かったね」
夏空さん効果なのか徹の食欲は完全に復活。釣られるかの様に竜也の食欲も戻った。
「うん。やっぱり、皆でわいわい食べると、美味しさが違うよね」
でも、これ以上人数を増やすのは勘弁だ……秋吉さんが織田君を誘ったらどうしよう。
「信吾君の料理が美味しいからだよ。今度、うちの親も食べてみたいって言ってたよ」
まさかの親御さんクッキング?でも、プレッシャーが半端ないです。他人の家の台所って、敷居高いんだよね。
「機会があったら、お邪魔するよ。少しずつ夏が近づいてきてるね」
正直、滅茶苦茶秋吉さんの家に行きたいです。でも、そんな度胸が僕にある訳がなく、無難な話にシフトチェンジ。
「夏かー。皆で海やお祭りに行きたいね」
夏に海やお祭りか……凄く青春って感じがする。今までは海に行ったら、市場チェック。お祭りは屋台を出す側だったもんな。
「うちの商店街でもお祭りやるんだよ。ヨシザトは、フライドポテトや唐揚げも売るんだ」
毎年、売り上げが凄いんです……つまり毎年、お祭りを楽しむ余裕がありませんでした。
「実お姉ちゃん、お帰りなさい」
お祭りの話で盛り上がっていたら、小学生位の女の子が話しけて来た。物凄く可愛い子で、子供モデルが出来そうなレベルだ。
「優紀ちゃん、ただいま……この子は優紀ちゃん、お隣に住んでいる子なの」
ふと疑問に思った。優紀さんは小学生だと思う。こんな時間に出歩いていて、ご両親が心配しないんだろうか?
「織田優紀、小学五年生です」
優紀さんは僕に丁寧な挨拶をしてくれた。小学生なのに、しっかりした子だ。
織田……秋吉さんの隣の家……もしかして織田君の妹?イケメンの妹は、やっぱり美少女なのか。
「優紀さん、こんばんは。僕の名前は良里信吾。秋吉さんと同じ学校に通っています」
優紀さんと目線を合わせて挨拶をする。これでも客商売の生まれだ。相手が年下でも、初対面なら敬語を使うのです。
「優紀ちゃんのご両親共働きだから、家でご飯を食べる事が多いの」
だから、しっかりしているのか。なんか昔の自分を思い出す。
「でも、最近実お姉ちゃんと、ご飯を食べられないから寂しいよ」
秋吉さん、週四でうちの賄い飯を食べているもんな。なんだろう。無関係な筈なのに、罪悪感が凄いです。
「秋吉さんは、うちでアルバイトしてくれているんです。でも、それで優紀さんが寂しい思いをしたんですよね。すいません」
秋吉さんと賄いを食べられると浮かれていた自分を殴りたいです。
「実お姉ちゃん、この人、本当にお兄ちゃんと同い年なの?凄く大人。それと敬語は止めて下さい」
そんな大人な対応したつもりないんだけど……普段の織田君って、どんな感じなんだろ?
「信吾君は小学生の時から、お店の手伝いをしていたんだよ。だから、凄くお料理上手だし……こんな時間まで、遊び惚けている人と比べたら駄目」
僕、知っている。漫画とかだと、こういう誉められた方した人って、幼馴染みに負けるんだよね。
「だよねー。毎日、違う女の子と帰って来るんだよ。私が言っても『優紀も、友達と一緒に帰るだろ?』とか言うし。頭の中ピンクなんだから」
辛辣!女の子って、小学生の時から、こんなに大人なんだ。僕が優紀さん位の頃は、もっと糞餓鬼だったぞ。
(きっと
僕が織田君に『優紀さんが寂しがっているよ』って言っても……伝わらないか。
「今度、僕が休みの日に、優紀さんに料理作ろうか?何か好きな食べ物あるかな?」
情けないけど、僕が出来る事は料理しかない。漫画の主人公みたく家庭問題を解決出来たら、格好良いんだろうけど……よそ様の事に口出しできません。
「良いんですか?それならパスタが良いです。カルボナーラが食べたいです。前から良里さんの料理食べてみたかったんだ。楽しみだな」
良かった。カルボナーラなら作れる。あんな事に言って、作れないメニューだった大恥をかくところだった。
「信吾君、私のリクエストは聞いてくれないの?私はトマトのパスタが良いっ!」
秋吉さん、なんで小学生に対抗しようとしているの?まあ、パスタは作るの慣れているから良いけど。
「分かったよ。でも、どこで作ろうか?」
優紀さんをうちに呼ぶ……ご両親の許可を取らなきゃ駄目だよね。
「うちで作ってよ。お父さんとお母さんも、信吾君のご飯食べてみたいって言ってたし」
待って、待って……秋吉さんのご両親に何を作れと?絶対秋吉さんのお母さんの方が、料理上手だし。
「お、親御さんがオッケーしてくれたらね」
出来たら秋吉さんパパがいない休日の昼とかが良いです……そうなったら、織田君もいるか。
◇
調理実習のメニューは鱈のみぞれ煮、焼きナス……そして好きな汁物。この好きな汁物が厄介だ。
他のメニューと合う物が良いのか?それとも、具材を使い回すべきなのか?
「調理実習の汁物、何が良いと思う?」
一人でも悩んでいても、仕方がないので徹と竜也に聞いてみる。
「あれは自分達で作れる物を考えろって意味だぞ。本当、料理の事になると、プロ思考になるよな」
徹の話だと、茄子や大根の味噌汁を作る班が多いらしい……本当にそれで良いの?隠された課題とかあるかも知れないじゃん。
「信吾君は、何か考えている物あるの?」
竜也、考え過ぎて訳分からなくなっています。
「鱈のみぞれ煮も焼きナスも日本料理。二つとも味のベースは醤油でしょ?だから、味噌汁が良いと思うんだ。そうなると、問題は具材。出来れば大根と茄子以外の物の方が良いと思うんだ。でも、あえて中華風や洋風スープにするって手もあるし」
具沢山の食べる味噌汁も考えたけど、それだと汁がメインになりかねない。何より調理実習の時間内に出汁を出せる物じゃないと……。
「お前は料理漫画の主人公かっ。どこの世界に、そんなハードルの高い調理実習があるんだよ!良いか、中には調理経験がない奴もいるんだぞ。班で協力して料理を作る事が目的なんだからな」
そうは言われても、選択肢が多すぎて分からなくなっているのです。
「でも、多めに作った方が良いかもね。聞いた話だと、先輩や他のクラスの人が味見に来る事があるみたいだよ」
上手く作れずお裾分けしてもらった班もあるそうだ。つまり多めに作ったおいた方が安全と……それで残ったら恥ずかしいな。
(秋吉さんや夏空さんが作った料理を狙う人多そうだもんな)
◇
実が所属する女子グループは、表面上和気あいあいとしている事が多い。彼女らの目的は織田正義と仲良くなる事。その正義がいつも『皆で仲良くするの、楽しいね』と言っているからだ。
もっとも、陰では熾烈な駆け引きが行われている。
そんな中、敵意丸出しの女子が一人だけいた。
実である。
「実、もし調理実習美味しく出来なかったら、良里の料理分けてもらえないかな?」
班決めの時から、同じ班になれば美味しい料理が食べられると信吾争奪戦が行われていたのだ。
「残ったら考えておくよ。でも、皆は正義君の為に美味しい料理を作るんだよね」
笑顔を浮かべながら、言外に拒否してみせる実。
実は、この笑顔で信吾の料理を狙う女子を蹴散らしたのだ。
「もしもって事あるじゃん。良里の料理、一回食べてみたいし」
(普段は信吾君に興味がない癖に、調子良いんだから)
今は興味がないかも知れないけど、一度信吾の料理を食べたら危険。そう考えた実は、完全拒否の態勢を示していた。
「全く……良里が絡むと人が変わるんだから。味見で参考にする位構わないだろ。実、家庭科部の部長も来るらしいぞ」
祭の口から部長の一言が出た途端、実の表情が一変した。
「そうだね。味見位なら良いよ……その代わり、部長を信吾君に近づけない事。それが条件だよ」
実の凄みがある笑顔に、その場にいた女子全員が頷いたという。
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