使える物は

今日も朝から雨が降り続いている。バスもあるけど、荷物が多いので合羽を着ての自転車通学です。

 今回は保冷バッグでも間に合ったから、そんなに目立たない筈。


「良里、おーす。会議室の鍵預かってきたぞ。本当にあたいが作った物で良いのか?」

 今日はランチ会の日だ。ちょっと事情があり、夏空さんと待ち合わせをしていた。頼んでおいた物もちゃんと作ってきてくれたようだ。


「夏空さん、おはよう。大丈夫だって。皆も僕作った物ばかりじゃ飽きると思うし……秋吉さん?」

 なぜか待ち合わせ場所に秋吉さんもいました。僕としては嬉しい誤算だけど、何かあったんでしょうか?

 ちなみに、皆と書いて徹と読みます。


「信吾君、おはよ。ランチ会楽しみだなー。さあ、会議室にレッツゴー」

 そう言って満面の笑みで、先頭を歩きだす秋吉さん。徹達も、これ位元気なら良いのに。


「なんか知らないけど、今朝うちに来たんだよ。あれだけ朝練嫌がって癖に、やたらとテンション高いし」

 つまり夏空さんと約束していた訳じゃないと……朝練か。部活の事を聞くのはまだ早いだろうな。


「私には大事な用事があるの!会議室、到着。祭、鍵を貸して」

 大事な用事?織田君関係ななら、こっちに来ないと思うし……。


「良里、これで良いか?」

 夏空さんから、タッパーを受け取る。流石は肉屋の娘さん、頼んだ通りの物を作ってきてくれた。


「ちょっと、失礼して……うん、完璧だよ」

 僕が夏空さんに作ってもらったのは、肉みそ。味もお願いしていた通りの物だった。


「良かった……庄仁、喜んでくれるかな?実、なにしているんだ?」

 恋する乙女モードから、一変して突っ込み乙女になる夏空さん。見ると、秋吉さんが冷蔵庫の前で何かをしていた。てっきり、食材をしまってくれていると思っていたんだけど。


「なにって、食材が傷まない様に、冷蔵庫にしまっているんだよ」

 でもなんかキュキュって音が聞こえくるんですけど。


「あたいが聞きたいのは、なんで良里が作ってきたおにぎりに印をつけているかだよ」

 作ろうとしている物だけじゃ物足りないから、一口おにぎりを作ってきたのだ。


「おかかは私が頼んだよ。予約しても良いでしょ!」

 だから『具は何か分かる様にして』って言ったのか。


「おかか以外にも印つけているじゃん!」

 今回は数種類作ってきた。どうやら秋吉さんは、自分が食べたいおにぎりに印をつけているらしい。


 昼休みになったのと、同時にダッシュで会議室へ。

(夏空さんの肉味噌を活かすとすると、こんな感じだな)

 野菜は予め切ってあるから、後は盛り付けるだけだ。


「良くダッシュ出来るよな。その元気を分けて欲しいよ」

 徹は今日もぐったりしている。そんなので、夏を乗り切れるのか?


「出来ればさっぱりした物が良いな」

 竜也も食欲が戻っていない様だ。二人共、梅雨で食欲が落ちているっていうより、疲れが溜まっている様に見える。


「おーす……ありゃ、これは重症だな。良里、僕は大盛でお願い」

 一方の桃瀬さんは食欲が戻り、元気全開って感じである。ランチ会が良い気分転換になっているらしい。


「皆、集まっているね。信吾君、何か手伝おうか?」

 秋吉さんと夏空さんがやって来て、全員集合。一緒に食事仕度って、なんか良いです。


「庄仁、大丈夫?無理に食べなくても良いんだぞ」

 夏空さん、徹が心配なの分かるけどせめて、物を見てからにして。


「秋吉さん、容器をだして。今日は先に徹と竜也に出すから、秋吉さん達は食べたい方を選んでね」

 秋吉さんが出してくれた容器に麺を乗せて、具材を飾り付けていく。


「これって、あれだよね。水で洗うだけで食べられる麺。こういうのも使うんだよ。ちょっと、意外」

 桃瀬さんの言う通り、今回のメイン食材は洗うだけで、食べれる麺。


「ここで麺を茹でる訳にいかないでしょ?僕は必要なら出来合いの物でも、化学調味料でも使うよ」

 前に竜也にファッションのTPOを教えてもらった。

さっぱり食べれて、のど越しが良い物。そして会議室で食べられる麺。これは僕の料理のTPOから考えついた答えだ。


「料理だとポジティブなんだよ。俺と竜也の違いはもやしが乗っているか、どうかなのか?」

 甘いな、徹。僕の隠し玉はこれからだ。それと僕がネガティブなのは、恋愛関係だけだぞ。


徹の麺

レタス・キュウリ・トマト・もやし・人参・コーン缶・茹でエビ

竜也の麺

レタス・キュウリ・トマト・大根・人参・コーン缶・ツナ缶・茹でエビ


「今回は夏空さんに肉味噌を作ってもらったんだ。これを徹の方の麺に乗せて、坦々風胡麻だれを掛けて完成」

 事前に肉味噌を味見したのは、胡麻ダレの味を調整する為だ。徹、食欲が湧かないなんて言わせないぞ。


「肉味噌は夏空が作ってくれのたのか。楽しみだな」

 確認しなくても分かる。徹の食欲は完全に復活した。


「そして竜也の麺には、唐辛子入りの和風ドレッシングを掛けて完成。こっちはサラダうどんだから、好みでマヨネーズを掛けてね」

 酸味とうどんののど越しでさっぱり食べられるし、唐辛子の辛味が食欲を増進させる筈。竜也はカロリーを気にしているから、マヨネーズは選択方式にしました。


「和風ドレッシングだけだと、物足りないけど唐辛子の辛味がアクセントになって美味しいよ」

 竜也も気に入ってくれたようだ。


「そして、これ。ピシソワーズ。のど越しが良いから、食欲がなくても飲めると思うんだ」

 夏空さんは担々麵風うどんを選択。徹の隣をキープして、食事を開始。


「その味、変じゃないか?いや、良里が調整してくれてから、不味くはないと思うけど」

 いつもは強気な夏空さんだけど、どこか不安気だ。


「織田の奴が『女の子が作った方が』って言った時は、ふざけんなと思ったけど、違うもんだな。肉味噌、凄く美味いよ」

 徹、違うよね。女の子じゃなくて、好きな女の子だよね。でも、口に出すのは止めておきます。

 だって、夏空さん凄く嬉しそうなんだもん。


「信吾君、私は和風ドレッシングマヨネーズ乗せで。それと、おにぎりちょうだい」

 今回の一口おにぎりは梅・おかか・味噌・ツナマヨの四酒類。うどんじゃ足りないから、自分様に作ったんだけど……。


「良里、僕は味噌と和風を半分ずつ。おにぎりは梅とおかか……なんだ、このハートマークは?」

 おかかを手に取った桃瀬さんが、不思議そうに呟く。


「それ私が予約したおにぎりっ!」

 ハートマークを書いてくれたんだ。意味はないと思うけど、少し嬉しい。


「陽菜、梅と味噌取って……しょうじ……徹も食べるだろ?」

 顔を赤くして頷く徹。僕の分のおにぎりなくなりそうだけど、皆が楽しそうだからよしとしよう。

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