見栄を張りたいけど
今日も一人で帰り仕度。バイトはないけど用事があるので、授業終了と同時に下校するのだ。
まあ、残っていても、話す相手がいないんだけどね。
「信吾君、今日ランチ会の買い出しに行くんでしょ?」
鞄を手に取ろうとしたら、秋吉さんが話し掛けてきた……秋吉さんとも緊張せずに話せる様になったのです。
「うん、徹からマーチャントスーパーの紹介状をもらったしね」
徹が、メンバー紹介券なる物をくれたのだ。これを出せば、特別会員になれるらしいけど……多分、紹介された人全員がなれる名ばかり特別会員だと思う。
「最近お話出来ていなし、私も一緒に行くよ」
梅雨に入ってから、秋吉さんはバス通学。店にもバスで来ている。つまり、帰り送る必要がない訳で……。
「お願い。あそこ一人だと入り辛いし」
もう、全力で頷きました。だって、マーチャントスーパーは秋吉さんの家と反対方向。つまり帰りも送る必要があるのです。
◇
ランチ会の準備の為に、マーチャントスーパーに来たのは良いけど……。
「わ、私達、場違いじゃないかな?」
秋吉さんも緊張している様だ。
それもその筈、もの凄いセレブな空間なのです。駐車場には高級外車が停まっているし、お客さんは高そうな服を着た人ばかり……あまりの場違いさに挙動不審になってしまう。
「大丈夫だと思うよ。まずはメンバーズカードを作ろう……すいません、メンバーズカードを作りたいんですけど」
受付の店員さんが怪訝そうな表情になる。
そりゃ、そうだ。スーパーのメンバーズカードを作る高校生なんて稀だ。しかも、ここはセレブ御用達スーパーで、僕はまごうことなき一般庶民。いわゆる相応しくない客ってやつだ。
「ちょっとお待ちくださいね」
店員さんから、冷やかしお断りオーラが出る。値段さえ合えば良客になりますよ。
ブロッサムに学生手帳と紹介状をカウンターに置いて待つ。
(い、胃が痛い。学生証じゃなく、社員証を出すべきだった)
賄いを買う時は社員証を出している。でも、制服で社員証は怪しまれると思ったから、学生証にしたんだけども……。
「お客様、こちらの紹介状は、どこで手に入れられましたか?」
紹介状を見た店員さんの顔色が変わる。まさか偽物だったの?
店員さんの手が内線電話へと伸びる。これってピンチなのでは?
「やあ、良里君じゃないか。この、間のご飯美味しかったよ」
そんな時話し掛けてくれたのは、マーチャントマンションでお世話になったガードマンさん。ご飯が残ったので、お裾分けしたのだ。
今日は偶然スーパー担当だったとの事。
「それは良かったです……」
紹介状に視線を落とし、ガードマンさんに『僕の無実を証明して』と目で訴える。
「これは……君、ちょっと良いかな」
ガードマンさんが何か店員さんに耳打ちする。途端に店員さんの顔が青ざめた。
何があったの?
「も、申し訳ありませんでした。直ぐにメンバーズカードを発行しますね」
冷汗を流しながら、発行手続きをする店員さん。いたたまれなくて、胃が痛くなります。
(徹、今度は何をしてくれたの?)
ランチ会でいじりまくってやるからな。精々、幸せになるがいい。なってくれたら、嬉しいし。
「メンバーズカード作るだけなのに、冷や汗かいたね」
秋吉さんが安堵の溜息を漏らす。僕も頭の中が真っ白になっていました。
気を取り直して、青果コーナーへ……やばい、これはテンションが上がる。
「凄い……使った事がない野菜や果物が沢山ある……京野菜に加賀野菜。山菜も沢山あるっ!」
そこは正に料理人天国。新鮮でみずみずしい野菜。しかも種類も豊富で、レタスだけで数種類揃っている。
しかも値段はかなり良心的。
(根曲がり竹に、うわばみ草まである……やるな、マーチャントスーパー)
でも、今日必要なのはお手頃価格のお野菜。後ろ髪を引かれる思いで、小分けコーナーへ移動。
「信吾君、楽しそうだね。良くテレビとかであるけど、美味しい野菜を選ぶコツとかある?」
あれか。番組構成上、言わなきゃいけないのは分かるけど。
「生産者さん、市場、スーパー……何か所もプロの目をくぐり抜けてきているから、外れ野菜なんてないよ。色や形で、そんなに味は変わらないし。信頼出来るお店を見つけるのが、一番だと思うな」
僕も目利きには、自信がない。下手に知ったかぶりをするより、その道のプロに頼った方が良い。
今回中心になる食材は野菜。レタス・キュウリ・トマト・ジャガイモ・大根・もやし・人参・コーン缶・ツナ缶エビを購入。量は、そんなにいらないから予算内で収める事が出来た。
どれも新鮮で、美味しそうな物ばかり……使った事のない食材も沢山あって、目移りしてしまう。
(こんなお店にもおいてあるんだ。予算はまだあるし……梅干しも買っておくか)
予算はもらっているけど、手間賃として僕が食べたい物を作っても許されると思う。
「信吾君、私はオカカが良いな」
秋吉さん、なんで僕が作ろうとしている物が分かったんでしょうか?
◇
流石は天下のマーチャントスーパーだ。中規模書店レベルの書籍コーナーがありました。
「信吾君、なにか欲しい本でもあるの?」
秋吉さんって、普段何を読んでいるんだろ?ファッション雑誌とかかな?
「林間合宿あるでしょ。だから、アウトドア料理の本が欲しいんだ」
アウトドア料理は全くの未経験。僕にでも作れるアウトドア料理を探したい。焚き火を使って料理って、どんな感じなんだろ?
「かなり設備が揃ったキャンプ場なんだよね……確か、
料理本コーナーや、アウトドアコーナーをチェックしていく。そうしたら、とんでもない本を見つけてしまった。
いわゆるオカルト雑誌なんだけど、『関東圏山の心霊スポット』なんて特集が乗っていたのです。
「これ、松木津草原って書いてあるよね」
スポットの下に赤字で、松木津草原と書いてあったのだ。お腹痛くなりましたで肝試し不参加は無理だよね?
「信吾君。もしかして、お化け怖い人?可愛いっ」
秋吉さんが笑いながら、からかってくる。正直に言おう。滅茶苦茶、怖いです。
「知り合いにお祓いも出来るお坊さんがいるんだよ。その人から色々聞かされて」
怪談というより、注意喚起の話なんだけど逆にリアルでトラウマになっています。
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