鈍いのか、鋭いのか

 ランチ会に出すメニューは決まった。後はどうやって、食欲増進させるかなんだけど……。

(徹は夏空さんに任せるとして問題は竜也か)

 つまり今回の一番の目的は竜也の食欲を復活させる事。当然、他の三人にも満足してもらう必要がある。


「さて、どうしようかな」

 思わず独り言が漏れる。

前みたいに色んな種類を……流石に芸がないか。

友達が増えたとはいえ、朝の登校時は安定のぼっち。だから、色々考えれる訳で……周りかみたら、一人でブツブツ言っている奴に見えるかもしれない。まあ、誰も僕の事を気にしていないと思うから、大丈夫。


「信吾君、おはよ。どうしたの?何か悩み事?」

 ……思いっきり秋吉さんに聞かれていました。穴があったら入りたいです。


「秋吉さん、おはよう。今度のランチ会、作る物は決まったけど、もう少し工夫したくて」

 皆ランチ会を楽しみにしてくれている。出来れば、その思いに応えたい……でも、段々ハードルが上がっていきそうで怖いです。


「朝から料理の事を考えているんだね。庄仁君と相取君が夏バテを何とかしてあげたいんでしょ?信吾君は、誰にでも優しいんだね」

 誰にでも優しい……僕が?織田君なら分かるけど、それは絶対にない。


「ない、ない。それは買い被り過ぎだって。徹と竜也は大事な友達だからだよ……それに『僕は、優しいんだよ』って自画自賛する奴なんていないでしょ?」

 照れ臭いので、あえて冗談っぽく話してみる。でも、秋吉さんは大きなため息をついた……何か地雷を踏んじゃったんだろうか?


「それがいるんだよねー。臆面もなく言う馬鹿が……あんまり優しいと女の子は勘違いしちゃうから、気を付けてね」

いるんだ……僕の場合は警戒されて終わりだと思う。

前に義斗兄ちゃんから言われた事がある。『優しさは打算のない行為だ。自分で優しさだって自覚したら、打算になっちまう。それを売りにする行為は死ぬほどダサいって事を覚えておけ』……僕は徹達の誉め言葉を、どこかで期待している。だから僕の行為は純粋な、優しさじゃないと思う。


「勘違いしてくれる様な奇特な人がいたらね……話は戻るけど、どうやったら竜也の食欲が戻るかな?」

 竜也の好きな物……好きと言うかカロリーの低い物を好んで食べている気がする。


「相取君だけ?……庄仁君は良いの?」

 徹の食欲は絶対に戻るから、心配いらない。


「徹は夏空さんが作ってきてくれた物があれば、直ぐに食欲が戻るよ」

 それなら頼んだ物を活かす形が一番だと思う。


「……信吾君って自分の事は鈍感なのに、他人の事は直ぐに気付くんだね……相取君、本人に聞くのが一番じゃないかな」

 秋吉さんは、口を尖らせてどこか不満気だ……今の会話にも怒る要素があったの?女の子って難しい。

 ……そうだよな。竜也が何を食べたいのか知る事が大事だ。


「秋吉さん、ありがとう。大事な事を忘れていたよ」

 誉められる事に目を奪われてしまい、一番大事な事を忘れていた。どんな工夫でも食べてもらえなきゃ、ただの独りよがりになってしまう。


「ずるいなー。そんな顔されたら怒れないじゃん」

 やっぱり、怒っていたんだ……でも、どこが地雷だったんだろう?


 早速情報集……と言っても教室で絡むのが竜也と徹が殆んどな訳で。それでも、どうやって食事の事を切り出そうか悩んでいたけど、杞憂に終わりました。


「二人共、大丈夫?ちゃんとご飯食べれているの?」

 竜也も徹も、ぐったりとしているんだもん。徹にいたっては、机に突っ伏したまま、動かない。


「なんとかな……今朝は飲むゼリーで済ませたよ。ここの所忙しくてよ。でも、もう少ししたら、仕事も落ち着くさ」

 徹、今からその調子で夏大丈夫なの?

(仕事が落ち着くって、徹の実家は何をしているんだろ?)

 うちみたいな接客業は連休とかが忙しいけど……この時期、忙しい仕事ってなんだろう?……傘職人とか?


「僕はフルーツヨーグルト。レッスンが立て込んでいて、疲れが溜まっているんだ」

 お洒落女子みたいな朝食だな。二人共疲れが溜まっているのが、主因だと思う。

 それなら、さっぱりしている物が良いな。


「竜也って、野菜や果物が好きだよね。サラダなら食べられるの?」

 よくヨーグルトだけで、持つよな。朝からがっつり食べたい派の僕には無理だ。


「うん、昨日の晩御飯はケータリングのサラダだったし」

 ケータリングが出るレッスンってなに?でも、これで作る物が決まった。


「徹、夏空さんが心配していたぞ」

 どんな反応をするかと思ったら、効果はてき面。それまで机に突っ伏していた徹が、がばっと起き上がった。


「な、なんで夏空の名前が出てくるんだよ」

 徹の顔は耳まで真っ赤だ。なんて分かりやすい。普段の仕返しだ。思いっきりいじってる。


「夏空さん、は信吾君の店でバイトしているんだよ。心配なら伝言位頼むと思うな」

 竜也も参戦してきた。さっきまでぐったりしていたのが、嘘の様に活き活きとしている。


「そりゃ……そうだけどよ。俺の心配してくれていたんだ」

 徹が、はにかみながら呟く……すかさず秋吉さんにライソを送る。

 僕と目が合った秋吉さんが親指を立ててきた。

 そのまま、秋吉さんは夏空さんに近づいていき、耳打ちをした。

 そして徹と夏空さんの視線がぶつかる……同時に真っ赤になる二人の顔。

 今回もランチ会頑張ろう。

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