友の実力?

ますます、謎が深まった。


「役割分担は、こんな物だろ。分担表を渡しておくぞ」

 徹の作った分担表は、シンプルだけど見やすい。ビジネス用と言われても違和感を覚えないと思う。


「均等に役割が振り分けられているし、タイムスケジュールも完璧……徹、これどうやって作ったの?」

 親御さんが作ったのかも知れない。前に改装工事をしてもらった時の作業工程表より、出来が良いのだ。


「前に家の手伝いをしているって言ったろ?その関係で経験があるんだよ」

 ……工程表を作る手伝いってなに?どう考えてもアルバイトじゃないよね?

 竜也も謎の所があるけど、徹も謎だらけである、


「味付けと火加減は信吾君、夏空さんと秋吉さんが食材を切り分ける。僕は主に盛り付け担当なんだね」

 徹は宣言通り、洗い物をしてくれるらしい。


「信吾、お前切り方とかに口出しするなよ。その方が美味くなっても、空気が最悪になるからな」

 ……確かに乙梨さんの調理を見て、もっとこうすれば良いのにとか思っていたけど……気を付けます。


「気をつけるよ……そう言えば、二人はアウトドアの経験ってあるの?僕はキャンプもした事がないんだ」

 アウトドアの経験は殆んどないから、経験がある人がいないと不安だ。


「僕は、ば……ばっちりとは、いかないけど、それなりに経験はあるよ。一回、火もおこした事あるし」

 まじ?竜也の習い事ってボーイスカウトなんだろうか?でも、習い事とは言わないよね……謎です。


「俺はそれなりにあるから、心配するな。道具も一通り揃っているし……料理は信吾がいるから、なんとかなるとして……問題は班目標だな」

 林間合宿では、班事に目標を設定しなくてはいけないらしい。

課題は自由……ただし、自立精神を養う為にアウトドアに関係する物である事。

自力で火起こしをした人達や、釣った魚で料理をした人達がいたそうだ。


「徹、合宿に使うコテージって、どんな設備があるか分かる?」

まさか水汲みは自分達でって言う事はないよね。


「ランクにもよるけど、どのコテージにも水洗トイレとシャワールームが付いている。コテージ前には専用の焚き火台もあるぜ」

 テレビや冷蔵庫がついているコテージもあるそうだ。もちろん水道は完備……自立精神を養えないと思うんですが。


「それじゃ、ホテルに泊まるのと変わらないじゃん」

 ランタンを灯りにして、寝袋で夜を明かすと思っていたのに。


「もちろん、ちゃんとキャンプをしたい人が泊まる場所もあるぞ。でも、そういうお客さ……そういう人は静寂を好むんだ。学生がワイワイ騒いでいたら苦情がくるんだよ」

 まあ、高校生の林間合宿と一緒だと騒がしくて寝れないか。陽キャグループとか、大声ではしゃぎそうだし。


「一つのコテージは何人が泊まるのかな?」

 竜也が心配そうに呟く。確かに織田君達と一緒のコテージだと、隅に追いやられる感じがする。


「三から六人だったと思うぞ。俺は三人で一つのコテージだから、心配するな」

 どこで、そんな情報仕入れてくるんだろ。


「調理実習と林間合宿は、なんとかなりそうだね」

 竜也が嬉しそうに答える……でも、なんか大事な事を忘れている気がする。


「しかし、今日も蒸すなー。林間合宿まで梅雨が明けてくれたら良いんだけど」

 あっ……思い出した。


「そ、そう言えば今度のランチ会、場所はどこにするの?」

 もうレンタルキッチンは、こりごりだ。セレブオーラで胃が痛くなってしまう。


「第二会議室を抑えてある。雨が降ったら裏庭無理だろ」

 徹……一般生徒が、どうやったら会議室を抑えれるの?

会議室か……たしか給湯室があったよな。


 給湯室にある冷蔵庫も使って良い事になった。これはかなり助かる。

(食欲が落ちているのは、徹と竜也の二人……梅雨でも食欲が出る物か)

 桃瀬さんの食欲が落ちた原因は周囲からのプレッシャー……だから仲の良い秋吉さんや夏空さんの力を借りて、楽しく食事をしてもらう事で食欲が復活した。


「二人は梅雨の時期だと、何が食べたい?」

 年中高温多湿な厨房にいる僕は梅雨でも平常運転な訳で。


「やっぱりさっぱりしたものかな?それと辛い物とか……このカレー最高っ!エビとアジのフライが乗っているなんて、こんな贅沢なカレーないよ」

 商品に出来ない大きさの物をフライにしているのです。この賄いカレーは人気で、普段は僕の賄いを食べない人も頼んでくる。


「肉は豚バラブロックを使っているから、食べ応えもあるよ……良里、庄仁って好き嫌いあるのかな……?」

 夏空さんがカレーを食べながら、尋ねてきた。その耳は少し赤くなっている訳で……。

(ぼっち脱出は、徹が一抜けにしそうだな)

 徹は話が上手いし、良い奴だ。何より自然な気遣いが出来る。夏空さんが気になるのも頷ける。

(徹も夏空さんの事を気にしていたしな……よし、僕なりに応援してやろう)


「好き嫌いはないと思っていたよ。でも、コストには厳しい感じがしたな」

 僕に彼女が出来る可能性は、かなり低い。それなら、せめて友達の恋を応援してあげたいのだ。

 給湯室も使えるし、今回はあれでいこう。あれならさっぱりしているし、辛味もたせる。


「コストって、より安い店で買えって事?」

 多分、徹が気にしているコストはもっと違う視点だ。安さばかりに気を取られていたら、仕入れ先と良い関係が築けないんだよね。


「材料を無駄なく使って、素材のパフォーマンスを十二分に引き出せって感じだと思う。前に素材の使い回しを誉めてくれたし……夏空さん、協力して欲しい事あるんだけど……作れる?」

 織田君が言った様に、僕が作った料理より気になる女のなつぞらさんが作ってくれた方が嬉しい筈。

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