間の悪さは天下一品
義斗兄ちゃんから教えてもらった喫茶店に来たみたんだけど……もの凄くキラキラしています。
ファンシーでド派手な店内には撮影スポットもあった。従業員の制服もお洒落で可愛い。
(利用客は、若くてお洒落な人が多い。顧客ニーズに合わせた内装なんだろうな)
店内やピンクと黄色が多く使われており、遊園地がコンセプトなんだと思う……こういう内装って少しの汚れでも目立つんだよね。掃除大変だろうな。
パフェもイソスタとかに投稿されるんだと思う。
「か、可愛いお店だね。正直、僕一人じゃ入れなかったよ」
お客様は女性グループかカップルが殆んど。男性客もいるけど、どこか肩身が狭そうだ。
「可愛いのはお店。それともウェイトレスさんかな?」
秋吉さんに言われてみて気付いた。ウェイトレスさんは可愛い人が多い。
「どっちもって言い方変だけど、細かい所まで気を配っていて勉強になるよ。ウェイトレスさんも、写真撮影の邪魔にならない様に動いているし」
お客さんが写真を撮ろうとすると、写り込まない様に移動している。あれって結構難しいんだよね。
「信吾君は、どこでも信吾君なんだね。なんか安心しちゃった」
そう言ってくすくすと笑う秋吉さん。君の制服の方が可愛いよって言ったら良かったんだろうか?……駄目だ。想像しただけで気持悪い。
「自分でも悪い癖だと思っているんだけどね。ついついお店視点で考えちゃうんだ」
折角、秋吉さんと二人で来たんだ。店の事は忘れよう。
「厨房にいる時の信吾君って一生懸命だもんね……あっ、私達の順番が来たよ」
秋吉さんに、見られていたたんだ……格好悪い所見られていないかな?でも、気にする余裕なんてないんだよね。
「爺ちゃんや父さんに付いて行くのに、必死なだけだよ……ここ、ですか?」
お店の人に案内されたのは、いわゆるカップルシート。植物で遮られていて、周囲から目に触れない様になってある。
「はい。客様を、こちらのお席にご案内する様に言われましたので……お席代は頂いておりますので」
店員の視線の先にあるのは、二人掛けのソファー……僕は嬉しいけど、秋吉さんはどうなんだろうか?
(案内?……さては義斗兄ちゃんの仕業だな)
兄ちゃんは、この辺りのお店に顔が効く。僕らが出た後に電話をしたんだと思う。ちなみにカップル席は別途千円取られるらしい。
「甘えちゃって、良いのかな?……信吾君、とりあえず座ろう」
秋吉さんが先に座ってくれた。こうなったら、僕も続くしかない。
「い、意外とゆったりしているんだね」
外で見るより、中はゆったりとしている。でも、秋吉さんとの距離はかなり近い。
断言出来る。僕の顔は真っ赤だと思う。
「そ、そうだね。まずメニューを見ようか?」
秋吉さんの声が震えている……もしかして、秋吉さんも緊張しているんだろうか?……警戒じゃなきゃ、嬉しいです。
「そうだね……種類が豊富だな。ベースのパフェを作る事で、作業効率を上げているのか」
チョコ・イチゴ・メロン・栗・マンゴー・抹茶、ざっと見ただけで二十種類近くある。
「ドリンクも沢山あるし……パスタもあるんだね。迷うな―」
ドリンクはコーヒーやフルーツジュースがメイン。パスタやサンドイッチみたいな軽食には、そんなに力を入れていない感じだ。
「秋吉さん、パスタ好きなんだ。それじゃ今度の賄いはパスタにするね」
うちは洋食屋だけあり、パスタにも力を入れている。僕の作るパスタはメニューにないものが多い。残り食材でつくる有り合わせパスタなのです。
「やったっ!それじゃパスタ以外から選ばなきゃ……やっぱり、チョコかな。信吾君は何にするの?」
嬉しそうにパフェを選ぶ秋吉さん。兄ちゃんに感謝だ。
「春イチゴを使っているイチゴパフェか、抹茶かな」
どうせなら旬のものを食べたいし。抹茶パフェはうちでも出すから勉強になる。
「イチゴパフェだけでも、三種類もあるんだね……私はチョコ頼むから、分けようよ」
なに、そのリア充過ぎるイベントは……。
「それじゃ僕はデラックスあまおうパフェにするね」
お値段は張るけど、材料費を考えればお得だ。何より秋吉さんの喜ぶ顔が見たい。
「決まりだね。信吾君は良く河童橋に来るの?」
食い気が勝ったのかパフェの話をしたら、緊張がほぐれてきた。
「たまにね。兄ちゃんの店に来た時は、ぶらぶら見て回るよ」
普段使わない調理器具を見ると、なぜだかテンションが上がります。
「本当にお料理が好きなんだね……羨ましいな」
少し遠くを見つめる秋吉さん。『バドミントンはもうやらないの?』そう言い掛けて口をつぐむ。まだ、この話を聞くのは早いと思う。
「僕の場合は、必要に迫られてだよ……それに他に得意な事もないから」
他に何が出来るかと問われたら、答えにつまると思う。
「そんな事ないよ。信吾君は優しいし、友達思いだし……それに」
そのまま言いよどむ秋吉さん。優しいと友達重いってダブっていませんか?
「ありがとう。パフェ来たから食べよ」
気まずい空気を誤魔化す様にパフェにスプーンを突き立てる。
「そ、そうだね。美味しいっ!信吾君のも一口ちょうだい」
パフェの向きを変えて、まだ手をつけていない部分を秋吉さんの方に向ける。
「どうぞ……まじかよっ!」
やっぱり僕は運も間も悪い。織田君が女の子数人と店に入ってきたのだ。
◇
不幸中の幸いで、向こうからはこっちは見えないらしい。
でも……。
「正君、映画面白かったね。私もあんな恋をしてみたいな」
あれは前に織田君と帰っていた隣のクラスの子だ。噂では彼氏と別れたって聞いたけど。
「正義君、今度は二人で来たいな」
すかさずアピールしているのは、秋吉さんと仲の良い女子。がちですか。
「正義、お前パフェが好きなのか?まあ、俺も嫌いじゃないけど」
俺もと言ったのは、確か二年の女子。女子にも人気がある俺っ娘だそうだ。
「うん、好きだよ。だって、美味しいじゃん」
爽やかな顔で答える織田君。全員テンションが高いらしく、かなり賑やかだ。うちならお静かに願えますかって、注意するレベルだ。
秋吉さんを横目で見る……浮気?現場を見て怒ってなきゃ良いけど。
織田君から見たら僕は浮気相手になるんだろうか?多分、相手にされないと思うな。
「信吾君、食べないの?それなら私がもらっちゃうよ」
満面の笑みでパフェを食べる秋吉さん……もしかして、気付いていないとか?
「良いけど、お昼ご飯食べられる?」
もう昼が近い。何より、この場を直ぐに離れたいんです。
「お昼かー。なにかお勧めある?」
秋吉さんが、食いついて来た。これは店を出るチャンスなのでは?
「いつもはラーメン屋さんに行っているけど……後はかき揚げ丼が美味しい蕎麦屋さんかな」
外食の時位、洋食から離れたいんです。
「お蕎麦屋さん行きたい……あいつ等と同類だと思われたくないから、食べたらお店でよっ。アルバイトして分かったよ。ああいうお客さんって、困るよね」
秋吉さんが不機嫌な顔になる。どっちの意味で怒っているんだろうか?迷惑な客?それとも……。
「ちょっと、トイレに行ってくるね」
伝票を掴んでレジへ向かう。見つかるかとヒヤヒヤしたけど、僕は眼中にも入っていない感じです。
そのまま秋吉さんに声を掛けて店を出る。
「もう勝手に払って……信吾君って優しいよね」
それはおごったから?それとも織田君達に気付かれない様にしたからだろうか?
一番肝心な事を聞けない自分が情けない。
「義斗兄ちゃんが紹介してくれたお店だから。そうしないと、僕が怒られるし」
ふざけて誤魔化すのが、僕の精一杯なんだ。
……かき揚げ丼を食べ終える頃には、いつもの秋吉さんに戻っていた。
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