終わよければ
さっきまでの賑やかな空気が一変。周囲がしんと鎮まり返る。
「陽菜ちゃん、なんで怒っているの?皆が集まった方が楽しいのに」
不思議そうに呟く織田君……もしかして、織田君って、空気が読めない人なんだろうか?
「楽しいのは好き勝手に騒ぐあんたと、そのお友達でしょ?呼ばれてもいないのに、勝手に参加。金も払わないで、ご飯に集る。小学生でもドン引きするよ」
ボーイッシュ少女が、小気味好くまくしたてる。正論だけに陽キャグループも反論出来ない様だ。
「陽菜ちゃん、なんでそんな酷い事言うの?皆、友達なんだよ」
友達?初めて聞きました。僕、君のお友達に舌打ちされた事あるんですけど。
「あのね、僕は同じ運動部のよしみで注意してあげてるの。あそこにいるのスポーツ用品の会社の人達。僕のスポンサーだから間違いないよ」
スポーツ用品の会社がスポンサー?この人、有名なアスリートなんだろうか?
「もしかして、マーチャントグループの人?やばっ」
運動部に所属している奴等がざわつき始める。酒田公園を管理しているのは、マーチャントグループだ。関連会社の人が花見をしていてもおかしくないと思うんだけど。
「ブロッサムの運動部は全国トップレベルの選手が多いからね。そうなると、有名企業がスポンサーについている人も少なくないんだ。自分についていなくても、先輩や部にスポンサーがいるパターンもあるし。体育会系の人達にとって、マーチャントグループに不評が伝わるのは、かなりの痛手なんだよ」
竜也が溜息をもらしながら、説明してくれた。
そういえばブロッサムの部活って、元プロスポーツ選手やオリンピック出場選手が指導しているんだよな。つまり指導者からも睨まれると……そりゃ、ざわつくか。
「いくら才能があっても、イメージの悪い人にはスポンサーが付き辛いんだよ。下手すりゃ企業イメージに傷がつくし。何より一流アスリートともなると、高性能で高値の物が必要になる。まあ、
徹も呆れている様だ。もしかして、それを知っていて酒田公園を選んだのか?
(二人共、普段とキャラが違い過ぎない?)
徹も竜也も見た事がない様な大人びた表情を浮かべている。後、僕だけかなり空気です。
「陽菜ちゃん、ありがとう。助かったよ」
秋吉さんがボーイッシュ
「幼馴染みなんだし、気にしない。祭も久し振り……あんた達、場所移した方が良いんじゃない?」
陽菜さんの言葉で我に返ったのか、陽キャグループが広場から離れていく……織田君、なんで笑顔なんでしょうか?
「皆、待ってよ……陽菜ちゃん、教えてくれてありがとう。実ちゃん、また今度と遊ぼう」
爽やか笑顔で去って行く織田君。
心臓が強いというかポジティブというか……自分や秋吉さんとの関係に自信がないと出来ないと思う。
「ありがとうございました。良かったら一緒にどうですか?」
初めて会う女の子を名前で呼ぶ度胸なんてないし、ましてやタメ口なんて無理です。
でもお礼をしなきゃいけない。僕に出来るお礼は、料理を振る舞う事位だ。。あのままだと食い散らかされいたんでし。それに料理には余裕がある。
「もしかして、君が噂の良里信吾君?へー、そうなんだ」
しげしげと僕を見てくる陽菜さん。噂か……まあ、バイト先が一緒なら会話の端っこには出てくるか。愚痴の可能性もあるけど。
「ひ、陽菜ちゃん。そこで終わろうね……この子、
桃瀬さんか。どこかで聞いた事がある気が。
「聞いた事ない?陸上短距離のニューヒロイン百瀬陽菜。陽菜はスポーツ科だから、校舎が違うから初めて会うかもね」
夏空さんの言葉で思い出した。最近ネットで良く特集されている人だ。つまり校内だけじゃなく、全国的な有名人。そりゃ、陽キャグループも強く出られないか。
「よろしくね。それじゃ、早速……これ本当に良里が作ったの?」
夏空さんと言い初対面からフレンドリーです。僕じゃなきゃ勘違いするかもね。
「ええ、実家が洋食屋をしていて、小さい頃から仕込まれていますので」
中学までは“料理男子を気取っている”とか“頼めばなんでも作ってくれる”とか言われたけど、ブロッサムに来てからは人の繋がりを作ってくれている。
「うまっ!お店みの味じゃんっ。そりゃ実も祭も美味しいって騒ぐ訳だ」
桃瀬さんが喜んでくれている。だって店に出せる味を目指しているんだし……洋食で合格出来る様にならなきゃ。
「でも、なんであいつ等、ここで花見するって分かったんだろ?」
徹がポツリと呟く。僕達は陽キャグループとの繋がりが薄い。疑いたくないけど、秋吉さんが喋ったんだろうか?
「ごめんなさいっ!うちのお母さんが正義君のお母さんに喋ったみたいなの」
秋吉さんが手をあわせて謝ってきた。なんでも秋吉さんと織田君の家は隣同士との事。秋吉さんのおばさんは、てっきり織田君も一緒だと思い話したらしい……それだけで友達誘って突撃してくるの?陽キャ、怖過ぎ!
「そこで実は僕に相談してきたんだ。正義って昔から空気が読めないとこあって、自分はどこでも歓迎されるって思っているんだ」
凄いな。僕は呼ばれても躊躇するタイプなのに……いや、織田君は、それが許されるスペックも持っているんだ。
「ストップ。折角のお花見なんだから、楽しい話をしよ……辛いやつも美味しかったけど、エビのケチャップ炒めやばくない?」
夏空さんが大袈裟に驚いてみせる。色々気にはなるけど、盛り上げてくれた空気を壊す度胸なんてない。
「金平も美味いな。おにぎりと一緒に食べると最高だ」
徹も空気を読んでか、お重に集中し始める。そこから皆ワイワイ話しながら、花見を満喫。
「来年も、この六人でお花見が出来たら良いね。信吾君は思い出に残っているお花見ある?」
思い出に残っている花見か。それならあれしかない。
「僕のお婆ちゃん青森の弘前に住んでいるんだけど、弘前公園の桜って凄く綺麗なんだ。いつか皆に見てもらいたいな」
東京では、お花見をした事なかったんだよね。だって、店が忙しくて、そんな余裕なかったし。
僕が今笑えているのは、婆っちゃのお陰なんだ。
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