招かれざる者?

 やっぱりと言うか桜は殆んど散っていた……東京だと、四月の初旬で終わるんだよね。

 多分、花見じゃなく葉見になると思う。

 徹が場所取りをしてくれて、竜也がレジャーシートやクーラーボックスを運んでくれている。

 だから僕と秋吉さん、夏空さんの三人は弁当を持って一路酒田公園を目指していた。

 ちなみに弁当は三人で分けて持っています。五段のお重にお菓子に割り箸や紙皿……商店街の皆がおまけしてくれた事もあり、かなりのボリュームになったのだ。


「やっぱり花が散っているね。でも花吹雪になって綺麗じゃん」

 流石はポジティブ思考の夏空さん。まあ、お陰で人出も少ないし、良しとしよう。今回のメインは桜じゃなくて、皆でワイワイやる事なんだし。


「僕、葉桜も好きだよ。これから新しい季節が来るって感じがするし」

 何より、お花見は僕にとって大事な思い出でもある。


「もう少ししたら、梅雨か。滅入るなー。実、随分大人しいけど、どしたの?」

 夏空さんの言う通り、朝から秋吉さんが大人しい。体具合でも悪いんだろうか?


「な・な・な・なんでもないよ。確かこっちだよね……うわー、綺麗」

 秋吉さんが感嘆の声をあげる……そういう事だったのか。


「しだれ桜に八重桜か。ソメイヨシノは散っても、遅咲きの桜はこれから見頃だもんな」

 徹達が待っていたのは、正にベストポジションな場所。周囲は大人ばかりなのに、良く確保出来たよな。


「おい、こっち、こっち……しかし、随分と沢山作ったな」

 徹が大きい声を出した所為か、周りの人が一斉に僕達を見た。


「秋吉さんと行ったら、商店街の皆がおまけしてくれたんだ」

 お陰で豪華な内容になりました。でも、商店街の皆から妙なプレッシャーや慰めを感じたのは気の所為でしょうか?


「信吾君って商店街の人気者なんだよ」

 秋吉さんが嬉しそうに買い出しの事を話し始めた……いや、僕一人だと、おまけなんてしてくれないよ。


「古い商店街だし、持ちつ持たれつの関係だから」

 うちは商店街で食材を仕入れる事もあるし、皆もうちの店を使ってくれる。


「しかし、五段のお重とは気合が入っているな」

 皆のリクエストやおまけを活かそうとしたら、こうなったんです。


「とりあえず、こんな感じだよ」

一の重おにぎり(鮭・梅・タラコ・筋子・ツナマヨ・おかか)・いなり寿司

二の重 鶏のチューリップ・肉団子・エビのケチャップ炒め・ビーフカツ

三の重 卵焼き・プチトマト・・たこさんウインナー・金平ゴボウ・イカの醤油焼き

四の重 タケノコの土佐和え・ブロッコリーの粉チーズ焼き・大根桜漬け・ウズラの卵・レタスのサラダ・ズッキーニのフリッター・菜の花の辛子和え

五の重 デザート(オレンジ・バナナ・イチゴ・キウイフルーツ・水ようかん)

 皆の反応が気になる。自分で見ても渋いラインナップだし……花見弁当は、どうしても婆っちゃの影響が出てしまう。


「今回も凄いね。あっ、ズッキーニのフリッテッレがある……しかも凄く美味しいよ」

 これ、そんな名前だったんだ。フリッターの一種だって、父さんから教えてもらったんだよな。

 検索してみると、フリッテッレはイタリア料理の揚げ物らしい。竜也、良く知っていたな。普通はフライかフリッターって言うと思うんだけども。


「竜也、ありがとう。まあ、このシュチエーションで食べれば、大抵の物が美味しく感じると思うよ」

 天気は良いし、桜は綺麗に咲いている。何よりも気の合う仲間がいるのだ……あの頃の僕に会えたら“大丈夫だよ”って伝えたい。


「このおいなりさん、中が桜色だ。中はちょっと辛みがあって、お揚げの甘さと合う……凄く綺麗だし、美味しい!」

 秋吉さんは、いなり寿司を気に入ってくれたみたいだ。ありがとう、婆っちゃ。


「それ中に紅生姜が入っているんだよ。青森では、それがメジャーなんだって……あっ、僕の母さん、青森の生まれなんだ」

 確かに、母さんは青森の生まれだ。でも、作り方を、教えてくれたのは母さんの母さん。婆っちゃだ。

 料理や家族で食卓を囲む楽しさを教えてくれたのも、婆っちゃだ。


「このうずらの卵、胡麻を付けてニワトリになってんじゃん。トサカはピックで、くちばしは人参なんだ。可愛いー」

 普段は男っぽいけど、夏空さんも女の子だな。弁当は美味しさも大事だけど、ワクワクも大切なんだよね。


「せっかくのお花見なんだから、楽しく食べないとね」

 皆が僕の作った料理で笑顔になってくれる。中学時代からは想像も出来ない楽しさだ。


「たこさんウインナーか。懐かしいー。信吾、鶏のチューリップ、ありがとな」

 チューリップは徹のリクエスト。味も気に入ってくれて良かった。

(これが爺ちゃんや父さんが言う料理人の楽しさか……よし、頑張ろう)

 もっと料理を上手くなって、色んな人を笑顔にしたい。


「そしてお楽しみのビーフカツ……こんなの美味しいに決まっているよね。冷めても、こんなに美味しいなら、揚げたてはどんな味なんだろ?」

 秋吉さんが期待した目で僕を見ているけど、賄いに牛肉は使い辛いです……なんか、秋吉さんのスマホが激しく動いているんだけど、出なくて良いんだろうか?


 うん、やっぱり僕の人生はこんなものだ。浮かれていても、きちんとオチが付くのね。


「実ちゃん、ここにいたんだ。探したよ」

 楽しく過ごしていたら、織田君と陽キャグループの皆様が現れました。

 今日は爽やかイケメンスマイルで、僕の完敗です。

 最初から合流する予定だったんだろうな。短い時間だったけど、楽しかったです。


「正義君、なにしに来たの?」

 ……でも、秋吉さんはご機嫌斜めなご様子。どう見ても、織田君達を歓迎している感じじゃない。


「えっ?お花見しているんでしょ?だったら、大勢いた方が楽しいと思って」

 全く悪びれず満面の笑みで答える織田君。勝手に大勢で集まって、主役になれるんだから、そりゃ楽しいよね。


「正義にかまってもらえなくて、焼きもち妬いているんだって」

「お、美味そうな料理あるじゃん」

「お前等、端に寄れよ」

 そして好き勝手に騒ぎだす陽キャグループ。周りのお花見客がピリピリしているんですけど。


「あんた達、うるさい。周りの迷惑を考えろっての……やっぱり、僕が、ついて来て正解だったね。正義、もう高校生なんだから、大人になって」

 どうしようか考えていたら、ボーイッシュな少女が一喝してくれた……どこかで見た事あるんだけど、誰だっけ?

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