買い出しデート?
秋吉さんと買い出し……めちゃくちゃ嬉しいけど、問題がある。どんな服を着て行けば良いか分かりません。
自慢じゃないけど、僕はお洒落と無縁な人間だ。まず今の流行が分かりません。それに普段主に着ているのは調理服かジャージ。
でも。こんな時に頼りになるのは友達だ。
「二人に聞きたいんだけどさ、女の子と二人で出掛ける時って、どんな格好すれば良いの?」
徹と竜也は僕よりお洒落だと思う。特に竜也はブロッサムの制服を着こなしているし。
「出掛けるって……花見の買い出しだろ?普段着で大丈夫だろ」
徹も竜也も驚かない。だって昨日グループライソで夏空さんが言ったのだ。二人とも、驚くと思ったんだけどな。結果、テンション上がっていたの僕だけでした。
言っておくけど、僕の普段着はジャージなんだぞ。
「でも僕今流行の服なんて持ってないし……スーツでも良いかな?」
顔繋ぎって事で、爺ちゃんや父さんと式典とかに連れて行かれる事がある。だからスーツを持っているのだ。
お客さんも困った時はスーツだって言ってたし。
「馬鹿っ、やめておけ。絶対に引かれるぞ。」
徹が呆れ顔で突っ込んでくる。でも、どんな服を着れば良いか分からない。お洒落な服って人を選ぶし。
「今からファッション雑誌買って間に合うかな。お洒落な服屋さんなんて、行った事ないんだよね」
でも、ああいう店って凄く高いんだよね。貯金降ろそうかな。
「TPOを守れば大丈夫だよ。まず今の季節は春だから、薄手のニットとかが、良いと思うな。信吾君は優しい雰囲気があるから、流行りのベージュも似合うと思うし。行くのは、商店街が主でしょ。だったらあまり派手じゃない方が、場所に馴染むと思う。最後に目的。買い出しなんだから、動きやすい恰好を選べばオッケーだよ」
竜也ってもしかして、お洒落さん?具体的なアドバイスで助かります。
「靴と靴下にも気を付けろよ。それと派手なTシャツは上級者向けだぞ」
足元のお洒落なんて気にしていなかった。
靴か……商店街の靴屋で買った赤いスニーカーがあった筈。
「それなら、なんとかなるかな。二人共、ありがとう」
持つべきものは友だと、良く言ったものだ。僕一人だと訳の分からないちぐはぐな恰好をしていたと思う。
「これ位、お安い御用だよ。着ていく服が決まったら写メして。アドバイスをおくれると思うから」
うん、竜也には何か美味しい物を作ってこよう。
「それとデートだって勘違いして浮かれ過ぎるなよ。独り相撲にならないで、ちゃんと秋吉さんを気遣んだぞ」
口は悪いけど、徹も心配してくれているのが分かる……秋吉さんと恋人になれなくても、二人と知り合えて良かった思う。
◇
……部屋にある服を引っ張りだしてみたけど、コーデなんて分かりません。
(薄手のニットか。服屋のおばさんに進められて買ったのがあったよな。パンツはこれで良いか)
クリーム色のニットとベージュのチノパンをセレクト。靴は買ったは良いけど、履く勇気がでずにしまっておいた赤いスニーカー。
僕が着ると、物凄く地味で無難な感じに見えてしまう。写メを撮って竜也に送る。
竜也『良いと思うよ。後はしっかりした色のベルトがあったら良いな』
……明日でも買いに行こう。
◇
買い出しは秋吉さんの休みに合わせて行く事になった……お婆ちゃんに相談したら、一発オッケーで休みがもらえました。
「お待たせ。まずは商店街でお買い物だね」
……やばい。制服の秋吉さんも可愛いけど、私服の秋吉さんも素敵過ぎる。
「ううん、じぇんじぇん待ってないよ……その服似合っているね」
秋吉さんは黒のパーカーに白のスカート。可愛すぎて心配になるレベルだ。
デートならともかく、今の発言きもくなかったかな?
「ありがとう。折角だからお洒落してきたの。信吾君の服も素敵だよ」
のぼせそうな気持を押させえて、冷静に考えてみる……そう、素敵なのは服なんだ。
「ありがとう。女の子と出掛ける事なかったから、竜也と徹に相談したんだよ」
真面目に答えなくてもと思ったけど、今回のコーデは僕の手柄じゃない。これで好感度を上げるのは違う気がする……また二人で出掛けられる事があるかも知れないんだ。そんな時の為にハードルが上げる事を避けたいし。
「信吾君は真面目だなー。仲の良い女の子とかいなかったの?」
なんて答えよう。恵美ちゃんと二人で出掛けた事ってないんだよな。いつも恋路がいたし。
「うーん。幼馴染みの女の子はいたけど、男友達がいつも一緒だったから。それに仲が良いとは言えないし」
仲が良いと思っていたけど、僕の勘違いだったし。あの件は恥ずかし過ぎて、秋吉さんには言えない。
「幼馴染みなんて、たまたま近くに生まれただけなんだから……まずは野菜と果物だね」
今のは、どう捉えるべきなんだろう。慰め?それとも私と正義君は特別なんだよアピール?
本当は仲が悪いとか?……他人の不幸を願ったら駄目だよね。
「信吾ちゃん、今日はどうしたの?あら、あら。これは入学祝いって事で」
「信吾……そうか、お前も、もう高校生だもんな。これ持ってきな」
「実ちゃん、信吾君の言よろしくね。はい、これおまけ」
デートっぽくなるかなと思っていたけど、甘かった。ここの商店街は僕が生まれ育った場所。お店の皆は顔見知りを通り越して、家族みたいなもんだ。皆にいじられまくって、雰囲気ぶち壊しです。
「信吾君、人気者だね。いっぱい、おまけもらっちゃった」
いや、勤めて一週間位で顔を覚えてもらった秋吉さんの方が凄いと思います。
「ここに住んで十二年近いから……それじゃ、夏空さんのお店に行こう」
各お店でおまけをしてもらえたから、予算に余裕が出来た。これなら夏空さんのお店で沢山買える。
◇
アルバイトとはいえ、僕は洋食屋の息子だ。食材の目利きも、それなりに出来る。
(へえ、結構良い肉置いてあるな。手軽な値段のお肉もあるし……これなら、もっと流行りそうな気がするんだけど)
「お、実ちゃん、いらっしゃい。今日は彼氏と一緒なのかい?」
出た。個人経営店ギャグ。常連さんが多い店でなきゃ、使えないコミュニケーションだ。
「ち、ち、違います。彼は同じクラスの男の子です。私がアルバイトに行っているお店の息子さんなんですよ」
見事なまでの全否定。まあ、実際付き合ってないから、正解なんだけど。
「もしかして、君が良里君か……娘がお世話になっております」
深々と頭を下げてくる夏空パパ。僕はただの息子なんですが……それだけ経営が苦しいって事か。
うちの商店街も、近くにスーパーが出来て大打撃を受けた事があった。幸い潰れるお店はなかったけど、家族が外に勤めに出た所も少なくなかったと聞く。
「夏空さんは接客が上手いので助かっています。鳥の手羽元とモモ。豚コマを下さい……秋吉さん、何か食べたい肉料理ある?……秋吉さん?」
リクエストはもらっているけど、材料を見たら食べたい物が頭に浮かんだりする。
◇
実は、信吾の横顔に釘付けになっていた。
(信吾君、凄く良い顔している……きっと厨房にいる時も、こんな顔しているんだろうな)
実は時折厨房にいる信吾をこっそりと見ているのだ。厨房を所狭しと動く姿は、輝いて見えていた。
「秋吉さん、どうしたの?特に食べたい物なかった?……揚げ物ばっかりじゃ駄目だよな。食べやすくて、見た目も映える肉料理か」
そんな事をつゆ知らず信吾はひたすらメニュー作りに没頭している。料理に一生懸命な上に、生来不器用な性格の為に実の視線に気付かなかったのだ。
「ふぇ?……えーっとね、一回牛カツを食べたみたいと思っていたけど、駄目かな」
いくら信吾が料理屋の息子とはいえ、今回は花見。しかも高校生だけの花見である。
普段の実なら決して、こんなリクエストはしなかったであろう。
それだけ気が動転していたのだ。
言ったそばからしまったと後悔する実。顔を赤くしたり、冷や汗を流したりとまるで百面相の様に表情を変えていた。
「牛カツか……オーストラリアの肉なら予算内で収まるな」
しかし、輪を掛けて残念なのが信吾である。彼の頭の中では花見弁当が展開されており、実の百面相に気付いていない。
ただ祭の父だけが、ニヤニヤと二人のやり取りを見守っていた。
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