お花見ラプソディー
バイト先が同じとはいえ、僕は厨房で秋吉さんはホール。しかも高校生になって任せてもらえる仕事も増えた。
「信吾、マッシュポテトのストックが少なくなった。今のうちに作っておけ。」
爺ちゃんの言葉を聞いてバットを確認する……あれだけ作っておいたのに、残は三分の一を切っている。
そう、付け合わせのマッシュポテトを任せてもらえる様になったのだ。付け合わせとはいえ、実際にお客様の口の入る物。
絶対に手は抜けない……マッシュポテトだけ残ってきたら、へこむし。
(残り時間は二時間か。それなら必要な量は……)
大抵のメニューにマッシュポテトが付くので、品切れは厳禁。でも余ってしまったら、賄い以外では使えなくなる。きちんと必要な量を見極めなくては……昨日残しを出してしまい、注意をされたのです。
◇
厨房での爺ちゃんは鬼だ。でも普段の爺ちゃんは優しい……いや、神様だと言っても過言ではない。
「信吾、今日から賄いは奥の休憩室で食え。あの子達も大人とずっと一緒だと気が休まらないだろ?」
なんと今日から秋吉さん達と三人で休憩が出来るのだ。爺ちゃん、僕料理頑張るよ。
「今日の賄いは鶏ひき肉ともやしの餡かけ丼とマッシュポテトを使った洋風いも餅だよ。それとコンソメスープがあるけど飲む?」
奥の休憩室は主に昼のバイトさんが使っている。奥様方はお話が大好きなので、一眠りしたい人達と分けておきたいのだ。
「もちろん飲むよ!お花見楽しみだね」
秋吉さんは明るい性格と可愛らしい笑顔でお客様からの評判が良い。
それと花見は僕も楽しみです。女の子、しかも好きな子とこんなに早く遊べるなんて夢の様な話だ。
「実が楽しみなのは桜じゃなく、良里の作る料理だろ?あっ、それとも……」
……花見で桜と食べ物以外で楽しみな事あるだろうか?言っておくけど、男子のメンツは全員非モテだぞ。
「み、皆と遊べるのが一番楽しみに決まっているじゃない……さあ、食べよ」
強引に誤魔化す秋吉さん。気になるけど、怖くて聞けません。
……陽キャグループが出ててきてドッキリとかないよね。いや、秋吉さんはそんな人じゃない。
(
バイトをしていたら、遊びに行ける機会が減ってしまう。クラスが同じで、バイト先も一緒……プライベートまで立ち入らない様にした方が良いのかも知れない。
「もやしがシャキシャキだし、餡も生姜が効いてうまっ!良里、将来良い旦那さんになるねっ」
料理の腕も恋愛の強みになれば良いんだけど……僕の場合は、顔とかでプラマイゼロになるか。
「相手が見つかればの話だけどね」
ブロッサムは男女共にレベルが高い。大人しいグループの人達も顔が整っている。多分、彼等はギャルと仲良くなれるオタクだと思う。
「そう、案外身近にいるかもよっ……ねっ、実」
夏空さん、それはキラーパス過ぎませんか?秋吉さんも返答に困ると思う。
「そ、そ、そ、そ、ううだね。い、い、い、ると思うよ……この芋もち、胡椒効いていて美味しいね……祭の馬鹿」
明らかに動揺しまくりの秋吉さん。芋もち感想の後、祭の馬鹿とか言っているし。完全に困っているじゃん。でも、これもある意味僕が撒いた種だ。
「花見の話に戻るけどさ、二人共、予定とかなかったの?他のグループから、誘われたりしたら、早めに教えてね」
夏空さんなら同性の友達……そして秋吉さんなら織田君グループから誘われたら、そっちを優先したい筈。
「あたいは大丈夫だよ。なんつーか、良里達って、良い意味で気を使わなくて済むんだよね。それにお金もあまり使わなくて済むし、ナンパ避けにもなってくれるじゃん」
徹が“夏空さん達はまだバイト代をもらってい。そんな話をしたら徹と竜也が『二人は参加費千円で良いよ』と言ってくれたのだ。しかもその後、補填として五千円もくれました。
家の手伝いで金をもらっているって言ってたけど、これだけ出せるって事は家事じゃないよね。うちみたいに何か店をやっているんだろうか?
(竜也も五千円出してくれたし、二人共いいとこのお坊ちゃまだったりして)
気になるけど、二人が言いだすまで無理に聞かないでおこう。
「私も、このお花見を最優先にする。だって、自分の休みなんだから、好きに過ごしたいし」
秋吉さんは、どこか不機嫌そうだ。
自分で自分が嫌になる。素直に喜べば良い物を『織田君から誘われていないから、やけになっているのでは?』と邪推してしまうのだ。
そっと息を吐き、気持を切り替える。
「それじゃ、腕によりを掛けて弁当を作らないとね。そうだ!肉は夏空さんの店で買ってもいい?」
すでに食べたい物がいくつか上がってきている。お菓子や飲み物は先に買っておいて、少しずつ準備をしておこう。
「助かるよ。場所は酒田公園だよね。あそこの桜綺麗なんだよね……でも場所取りとか大丈夫なの?」
酒田公園は、都内でも有名な桜の名所だ。それだけに人気も凄く場所取りに規制が掛けられる程である。
「徹が酒田公園の近くに住んでいるから場所取りは任せろってさ。大きい荷物は竜也の知り合いが運んでくれるし」
酒田公園は日本有数の企業マーチャントグループが保有している。当然駐車場も大きく、車があると便利なのだ。
「何から何までお世話になって……私にも出来る事ないかな」
秋吉さんに出来る事か。僕はいてくれるだけでも良いんだけども……そうはいかないよね。絶対に言えないし。
(買出しに付き合ってもらう……商店街の人達に冷やかされてお終いか)
僕は嬉しいけど、秋吉さんは迷惑だろうし。
「良里の買い出しに付き合ったら?うちの親父も実の顔見たがっていたし」
夏空さん、ありがとうございます。でも、断られたらどうしよう。
「それで良いの?私、邪魔にならないかな?」
邪魔になる訳がないじゃないですか!二人で買い物なんてある意味デートである。感謝を込めて、夏空さんの店でいっぱい買い物をしよう。
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