幸せな時間
自分でも現金な性格だと思う。入学前は憂鬱だったブロッサムでの学園生活が楽しくて仕方ないのだ。
誰かのおまけじゃなく、僕個人を友達として必要としてくれる徹と竜也。
フツメンな僕にでもフレンドリーに話し掛けてくれる夏空さん。
なにより秋吉さんと話せる様になったのが嬉しい……バイトの休憩時間と送りの時限定なんだけなんだけどね。
特に夏空さんと別れてからの数分は、秋吉さんと二人っきりになれる至福の時間だ。
「信吾君って、庄仁君達と本当に仲が良いよね。いっつも一緒にいるし」
秋吉さんの言う通り、学校では三人で行動する事が多い。知り合って日は浅いけど、昔からの友達みたいに話せている。
「最初はクラスで浮いている三人が集まったんだけど、妙に話が合うんだよね」
でも二人の事は詳しく知っている訳じゃない。多分、適度な距離感が心地いいんだと思う、僕は受験動機や昔の言を話したくないし。
「でも、三人共あまり女子とは話さないよね」
それは織田君グループが独占しているから、なんだけど……そんな事言えないか。
陽キャグループに属していない女子もいるけど、壁を感じるから話し辛いし……会話が盛り上がらなくて、気まずくなるだけだと思う。
「挨拶はしているよ。でも無理に話す用事もないし……女子も僕に話し掛けられても嬉しくないでしょ」
ネガティブ発言だと思われない様に、おちゃらけた感じで話す。織田君みたいにイケメンでもないし、陽キャグループの様なトークスキルがある訳でもない。
女子とも良い意味で距離を取った方が、お互いの為なのだ。
「そんな事ないよっ!……良里君、優しくて話しやすいし。他の男子と違って、紳士だし……それに料理が上手だもん。今日の春キャベツのペペロンチーノ、凄く美味しかったよ。それに……」
他に思いつかないのか、秋吉さんは押し黙ってしまった
気を使わせちゃったかな……要約すると無害で料理が美味いって事だと思う。
……前に、恋路や恵美ちゃんからも言われた気がするぞ。
「フォローありがとう。女子全員と仲良くなるなんて、どうやっても無理でしょ。僕は、こうして秋吉さんと話せるだけで充分だよ」
出来たらもっと仲良くなってデートとかしたいけど、流石にそれは高望みし過ぎだと思う。
「良里君って、案外口が上手いんだね。勘違いしちゃうよ」
良い意味の勘違いだと嬉しいんだけど……僕、勘違いでやらかしているからな。
(あの陽キャグループの中にいたら、甘い言葉囁かれまくりだよね)
やんわりと断れたと考えておくのが安全だと思う。
よし、話題を変えて逃げよう。
「秋吉さんは、この後なにするの?」
自然だ。凄く自然な話題変更だと思う……でも織田君と遊ぶとか電話するとか言われたら、絶対にへこんでしまう。
「お風呂入ってから、勉強するよ。今日はスリーハーツのラジがオ入るから、それを聞きながら復習する。今日の数学、難しかったよね」
情けない話だけど、秋吉さんがアイドルのファンだと分かって地味にショックを受けている。うん、スリーハーツ人気だし、格好良いもんね。
「秋吉さん、スリーハーツのファンなんだ。人気凄いよね」
前に竜也がスリーハーツのジュンとのツーショットを載せたら、物凄い騒ぎになった。他の学年の女子からも写メ欲しいってリクエストがあったらしい。
「歌も好きだけど、聞いていおくと皆の話に付いて行けるから。面白いから良里君も聞いてみれば良いよ」
良く話題についていけるなって、思ったらそんな努力をしていたんだ……つまりスリーハーツのラジオを聞けば、秋吉さんと共通の話題が出来ると。
「うん。聞いてみるよ」
感想をライソで送るのはアウトでしょうか?
「うん。それじゃ、また明日ね」
秋吉さんが笑顔で手を振ってくれた。
陽キャグループから見たら、小さな幸せかも知れない。でも、僕の胸は幸せでいっぱいだった。
……その幸せが一瞬で消え去る。
織田君がまた違う女の子と歩いていたのだ。確か隣のクラスの子で、彼氏持ちだった筈。
二人は話に夢中らしく、僕に気付かない……それ以前に眼中に入っていないのかも知れない。
◇
僕が好きな人には、またイケメンの幼馴染みがいた。でもその幼馴染みはモテモテで、秋吉さんが泣く姿しか想像出来ない。
だからと言って僕には何も出来ない。彼女が何を望んでいるか分からないんだし……何より僕は秋吉さんの恋愛物語に登場する資格もないNキャラなのだから。
(悲劇のヒーローぶっても意味ないか。身分不相応な恋をした僕が悪いんだけど……時間だ)
スマホのラジオアプリを起動させる。
スリーハーツ、タカ・ジュン・ユウの三人からなる男性アイドルユニット。中高生を中心に爆発的な人気を誇っている。
当たり前だけど、三人共僕と同じ十代男子の筈……でも顔やスタイルは、天と地程の差がある。
(話も上手いんだよね。僕だと緊張して噛むだろうな)
絶対にグタグタで終わってしまう。
「ユウ、高校生活に慣れた?」
三人の中で一番年上のタカが尋ねる。タカはワイルドな見た目で兄貴肌。ラジオでも、進行役を担っている。メインボーカルを担当していて、男性ファンも多いそうだ。
「うん、仲の良い友達も出来たし、楽しくやっているよ」
ユウは正統派の美少年で、優等生キャラ。三人の中で一番人気らしい。
男の僕から見ても恰好良く、近くにいたら絶対に気後れすると思う。
ドラマにも多数出演しており、演技力にも定評がある。
「そうなんだ。リスナーから質問が来ているよ。スリーハーツの三人はサンドイッチの具は何が好きですか?……僕はフルーツサンドかな」
ジュンはいわゆる可愛い系スイーツ男子で、ボケ担当。人懐っこい性格でバラエティ番組にも多く出ている。
「俺はお約束だけど、カツサンドかな。ユウは?」
二人共、自分のキャラにあったサンドイッチを答えている気がする。
「今良く一緒にいる友達……もちろん男なんだけど、料理が上手いんだ。そいつが作ったレンコンサンドが美味しかったよ」
……なんか身に覚えのある話なんですが……竜也のやつ、ハガキでも送ったんだろうか?
◇
ラジオを聞きながら勉強していたら、スマホが鳴った。
「
「お前がブロッサムに入ったって聞いて心配になったんだよ。どうだ?好きな子は出来たか?」
心配か……多分、恋路や恵美ちゃんの事を聞いているんだろうな?そうでなきゃ、わざわざ電話してこないと思うし。
「うん、楽しくやっているよ。友達も出来たし」
秋吉さんも、友達って言っても大丈夫だと思う。
「そうか。なら、良かった。お前が研ぎに出していたナイフもう少し待ってくれ」
義斗兄ちゃんの腕は確かで研ぎも予約でいっぱいだ。それを無理言ってお願いしたんだ。
「店の包丁もあるから、大丈夫だよ」
義斗兄ちゃんは結婚をしている。秋吉さんの事を相談……諦めろって言われるのはオチだよね。
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