大事な友達
自分でも単純な性格だと思う。あれだけ落ち込んでいた癖に、気合の入れたサンドイッチを作っているんだから。
……でも一番大事な事を忘れていました。
(あのリア充の壁を突破するのは、僕には無理だって)
秋吉さんがいるのは、リア充グループの中央。そこに行くには何人もの陽キャを掻き分けていかなきゃいけない。
そして秋吉さんの隣にはラスボスの後藤君……織田君とお昼を食べられる権利と僕のサンドイッチを比べたら、百人中九十九人の女子が織田君とのお昼を選ぶと思う。
でかめのバスケットを見て溜息を漏らす。この中には計五人分のサンドイッチが入っているのだ。
(徹は自分の弁当がある。僕と竜也だけじゃ無理だぞ)
「信吾、そのでかいバスケットは何なんだ?」
徹が食いついて来た。竜也もバスケットが気になる様だ。こうなったら、巻き込んでやる。
「実は……」
僕は、ここ数日のあらましを二人に伝えた。そして同時に漏れる盛大な溜息。ごめんね、無計画かつ身の程知らずな人間で。
「あのな、信吾。俺達はゲームで言うN《ノーマル》クラスのキャラなんだぞ。でも織田や秋吉さんは、SSRかL《レジェンド》クラスだ。佐藤や田中の二の舞になっちまうぞ」
徹が僕の肩を叩きながら、慰める様に話してくる。
うん、ぐうの音もでない正論です。スキルは料理(半人前)のみ。どんなプロゲーマーでも、クリアは無理だと思う。
「と、友達としてはSSRだよ。でも、なんでライソしなかったの?」
竜也、慰めが心に染みる。でも、としてはなんだよね。
「まだトータル一時間位しか話してないのに、ライソなんて出来る訳ないじゃん」
そんなに話す内容もないんだぞ。なにより絶対にひかれる。
「社交辞令を真に受けて、サンドイッチを作ってきた人間が言う事か?……夢じゃなく、現実を見ようぜ」
うん、分かっている。
「おはよー。相変わらず三人一緒だな……秋吉、それもしかして実用のサンドイッチ?」
ドストレートな言葉を投げかけてくれたのは、夏空さん。断罪イベントが始まるの?
「うん……良く分かったね」
話の流れによってはバイトが気まずくなってしまう。
「耳にタコが出来る位聞かされているからね……もしかしてあたいの分もある?」
まじ……そんなに嫌だったのか?
「うん……五人分ある」
徹と竜也が同情の眼差し僕を見てくる。穴があったら入りたいです。
「そっか……んじゃ、今日も裏庭集合ね」
夏空さんは、それだけ言うと自分の席へ戻って行った。怖い先輩が待っているパターンでしょうか?
◇
バスケットを持って三人で裏庭へと向かう。徹と竜也がサンドイッチ消費に付き合ってくれるのだ。
「流石に目立つな」
徹は気まずいのか、下を向いて歩いている。
バスケットの大きさもあって、かなり注目を集めてしまうのだ。ごめんよ。今度から誰かに相談してから作るから。
僕も普段目立つ事がないので、俯き加減で歩いてしまう。
「そうかな?これ位なら気にならないけど」
そんな中、竜也だけは堂々と歩いている。竜也は歩く姿勢が良い。それに身長もあり、余計な肉がついていないので、様になっている。
「とにかく二人共、サンドイッチをお願い」
頑張れば、食べ切れる筈。
「いや、五人みたいだぞ。良かったな、信吾」
裏庭に着くと、秋吉さんと夏空さんがいたのだ。
「良里君、ごめんね。私がサンドイッチ食べたいって言ったから、わざわざ作ってきてくれたんだよね」
良かった。秋吉さんは迷惑に思っていない様だ。
「僕が勝手に作ったんだから。ライソで聞けばよかったんだけど、アルバイト初日で疲れているかと思って……用事があるなら、無理に食べなくても大丈夫だよ」
(織田君とご飯食べる予定があったかも知れないんだよな……こんなでかいバスケットを持って来たら断り辛いだろうし)
自分でも顔が赤くなっているのが、分かる。分かっているから、徹と竜也は笑いを堪え震えるのを止めてね。
「心配しなくても大丈夫だって。この子『良里がサンドイッチを作ってきてくれたぞ』って言ったら、ずっと楽しみにしていたんだから」
良かった。嫌じゃなかったみたいだ。
「ま、祭っ!それじゃまるで私が食い意地張っているみたいじゃない」
顔を真っ赤にして怒る秋吉さん……もの凄く可愛いです。
「ふーん、食い意地ね……しっっかし、良く作ったね」
バスケットを開けると、夏空さんが感心した様に呟く。うん、テンションが上がった結果なのです。
「今回はカツサンド・ツナマヨ・卵サンド・レンコンサラダ・BLTサンド・マーガリンシュガーの六種類だ」
各四枚、計二十四枚のサンドイッチを作りました。
「信吾、気合入り過ぎだろ……でも二人共、織田達とご飯食べるんじゃなかったのか?」
徹、直球過ぎ……でも失恋の傷は浅いうちが良いって言う。このまま勘違い路線を突っ走るより良いのかもしれない。
「冗談!あんなギスギスドロドロした空気の中で飯なんて食いたくないっての……庄仁、なにしれっとカツサンドの二つ目に取ろうとしているんだ」
夏空さんが徹を敬遠している。人数分作ったら絶対余ると思って、数を減らしたのが失敗だったんだろうか。
「夏空だってBLTを、二個確保しているじゃねえか」
徹が突っ込み返す。この二人案外相性が良いのかもしれない。
「あたいん家は肉屋だから、後学の為なんだよ……てか、このトマトうまっ。どこのトマト?」
今度は肉系のサンドイッチは、多めに作っておこう。
「愛知県田原市のアイコってトマト。前にうちでバイトしていた人が田原市の出身で教えてくれたんだ」
色んな県からアルバイトの人が来てくれるので、本当に美味しい物を知る事が出来るのです。
「レンコンってサンドイッチに合うんだね。シャキシャキで美味しいよ」
竜也は野菜系のサンドイッチを中心に食べている。茹でたレンコンを店オリジナルの胡麻ドレッシングで和えています。
「うん……やっぱり、この味だ。卵サンドは粗目に切った卵の方が良いよね」
秋吉さんは卵サンドが気にいったらしく、夢中で頬ぼっている。次回も気合を入れて作ろう。
「皆が喜んでくれたら作った甲斐があるよ。食べたいサンドイッチあったら教えてね」
ブロッサムに来てから、少しだけ自分に自信が持てる様になった。
「本当に良いの?それじゃ、この五人でグループのライソ作ろうよ……祭、ダイエット中だよね。シュガーマーガリン二つはまずいんじゃないの?」
そんな秋吉さんもシュガーマーガリンをしっかり確保している。
「バイトで動いているから、良いんだって……良里、このシュガーマーガリンってジャリジャリしていて美味いな。早速、リクエストしておくよ」
やっぱり、女の子は甘い物が好きなんだな。恵美ちゃんは手も付けてくれなかったけど。
「良かった、それ、僕の思い出の味なんだよ」
◇
秋吉さんと別れて、教室に向かっていると、徹が千円を渡してきた。
「ご馳走さん。美味かったよ。これ、材料費な」
秋吉さん達が一緒の時だと、気を遣わせるから離れてから渡して来たんだと思う。
「良いよ。僕が勝手に作ったんだし」
本当は喉から手が出る程、欲しいけど断っておく。
「毎回、
どうやら二人でお金を払うって決めたらしい。利用するだけだった恋路とは大違いだ。
「うん、僕も収入があるから気にしないで。それにそれだけの価値のある楽しい時間だったし。購買であんな美味しいサンドイッチ食べられないよ」
竜也も千円出してくれた。中学の時は全額自己負担だったんだよな。
「なによりお前といると女子と飯が食べられるんだぞ。金がなくて中止なんて嫌だからな」
徹はそう言うと豪快に笑った。彼女は出来ないかもしれない。でも、ブロッサムで大事な友達が出来たって胸を張って言える。
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