まさかの
ライソってどんな内容を送れば良いんでしょうか?徹や竜也とは良くライソしているけど、秋吉さんになんてライソすれば良いか分かりません。
(交換が社交辞令だった可能性もあるよね。調子に乗って送ったら、ひかれる?)
織田君と電話している可能性もある。そうしたら、佐藤君や田中君の二の舞だ……あんな、いきったライソしなきゃ良かった。
「信吾、ちょっと良いか?」
今日はありがとうって送ろうとしたら、父さんが声を掛けてきた。仕込み失敗していたのかな?
「なに?」
よし、父さんは怒っていない……それなら、何の用だろう?
「明日お前の学校の生徒がバイトの面接に来るんだ。もし、声を掛けられたら、案内してもらえるか?」
うちは学生のアルバイトを結構雇っている。主に雇っているのは、ホール担当……厨房に篭りっ切りな僕は話す機会が殆んどない。
「分かった。ブロッサムの人がアルバイトに来るのは初めてじゃない?」
高校生が面接に来る事自体が珍しいのだ。多いのは近くにある短大や町内の主婦の人達。
「親父が校長先生から頼まれたんだよ。うちなら問題もないし、学校側も安心らしい」
なにしろ経営者同士が知り合いなんだもんね。労働条件も問題なし……未婚の男性スタッフは僕だけだけど、家族や従業員の目がある。特に奥様方は僕をからかって楽しんでいます。
◇
……父さんの嘘つき。誰も話し掛けてこないじゃないか。放課後、僕は一人で帰り支度をしていた。
クラスメイトは話に花を咲かせているけど、僕にはそんな余裕がない。急がないとアルバイトに遅れてしまう。
アルバイトとはいえ、僕は
「良里、ちょっと良い?」
声を掛けてきたのは夏空さんと秋吉さん。なんで、こんなタイミングで……やっぱり僕は運も間も悪い。
「良いけど、そんなに時間ないよ。今日もアルバイトなんだ」
僕の安面は定休日の水曜とアルバイトさんのシフトで決まる……お婆ちゃんは“デートや友達と遊びに行く用事が出来たら、休みをつけてあげるよ”って言うけど、肝心の予定がないんです。竜也も徹も、予定が一杯みたいだし。
「それなら丁度良かった。あたいと実、ヨシザトの店でバイトの面接を受けるんだ」
今、何て言った?秋吉さんがうちの店で働くだと!お願い、爺ちゃん合格させて。
「面接の希望者って、秋吉さんと夏空さんだったんですね。でも、僕自転車通学なんですよ。ライソでうちのホームページのリンクを送っておきますね」
ブロッサムは元お嬢様高校だけあり、お金持ちの子供が多い。だから親御さんに、車で送ってもらっている人も少なくない。うちはそれなりに流行っているけど、時間的に厳しいのだ。
「それなら大丈夫。あたい等も自転車で来ているから」
等?ってことは秋吉さんも自転車通学なんだろうか?場合によっては、一緒に下校出来るのでは?……神様、ありがとうございます。
「分かりました。それじゃ、駐輪場で待っていますね」
秋吉さんも夏空さんも超がつく美少女だ。当然、クラス内の注目度が高い。そんな二人と僕みたいのが話している所為なのか、男子の視線が痛いです。
特に陽キャグループが不機嫌そうな顔で睨んできている……君達いつも、女の子とお話しているじゃん。
「それなら一緒に行こうよ。お仕事の話も聞きたいし」
秋吉さん、凄く嬉しいけど織田君が見ているんですけど……でも秋吉さんは織田君に無関心。付き合っていると思っていたのは、僕の勘違いなんだろうか?
(織田君と付き合っていないからって、僕が仲良くれる訳じゃないんだよな)
なによりこれから雇用関係になる。秋吉さんや夏空さんは当然、僕に気を使ってくれる……それを勘違いしたら、とんでもない目に遭う。
ネットの評判は店に大打撃を与える事がある。『ヨシザトの孫がバイトの子にしつこく迫った』なんて噂が流れたら、とんでもない事になるのだ。
「具体的な事は祖父から話があると思います。ホールは母が担当していますし、しばらくは教育係が付きますので安心して下さい」
素早くお店モードに切り替える。話が出来る様になっただけでもラッキーだと思う。
でも、落ち着け僕。
また一人で浮かれないに様に、二人とは一定の距離を保つんだ。
◇
距離を保つと誓った筈なのに……二人が話し掛けてくれるから、ウキウキで下校しました。絶対顔がにやけていたと思う。
「ここが洋食屋ヨシザトです。自転車は裏に停めて下さいね」
窓からホールの様子を見る。客足は、それなり……これから学校や会社を終えたお客さんが増えてくるので、早めに厨房に入りたい。
「噂には聞いていたけど、立派な店だね」
夏空さんは驚いている様だ。
商店街にあるレトロな洋食屋。それが洋食屋ヨシザトだ。
明治に建てられた店だけど、未だに健在。それなりにリフォームもしているから、お客様からの評判も良い。
「ありがとうございます。祖父を呼んでくるので、お茶を飲んで待っていて下さい」
二人を事務所に通して、爺ちゃんを呼びに行く。
「……あの良里君は、この後どうするの?」
秋吉さんが意を決した様な大声で確認してきた。僕の予定を聞いてどうするんだろ?……帰り送られるのを警戒しているとか?
(秋吉さんは、そんな人じゃない……シフトが気になるんだろうな)
恋路と恵美ちゃんの一件以来、ネガティブな考えが浮かんでしまう。
「シャワーを浴びた後、厨房に入りますよ」
汗はそれ程かいていないけど、厨房に入る時は清潔にしておきたい。
「きちんとシャワー浴びるんだ。そう言えば、良里って身だしなみちゃんとしてるもんね」
着崩した服が似合うのは、イケメンだけなんです。
「鼻毛や無精ひげが伸びた人の料理って食べたくないですよね?イケメンなら魅力になるかも知れませんけど、僕みたいなフツメンは気を使わないと……それじゃ、一緒に働ける事を楽しみにしています」
まあ、一番の理由は家族チェックが厳しくて身に付いたんですけどね。
◇
信吾が出て行った事務室では、実が顔を真っ赤に染めていた。
「それで良里が思い出の彼だって、確証は持てたの?実、耳まで真っ赤じゃん」
祭がからかう様な口調で実に話し掛ける。
実には思い出に残っている少年がいた。出会った時間は本のわずかであったが、実にとっては大切な思い出なのだ。
「多分そうだと思う。隣町の洋食屋ヨシザトって言ってたし。良里君、面影があるし」
実はその少年の名前を知らなかった。分かっているのは、少年の顔と洋食屋ヨシザトという店名。そして少年からもらったサンドイッチの味。
「しっかし、一途だよね。わざわざバイトまでするなんてさ。まあ、お陰であたいは時給の良いバイトが出来そうで、感謝しているけど」
祭もある事情があり、地元以外でのアルバイトを探していた。時給も良く安全な洋食屋ヨシザトは、願ってもないバイト先なのだ。
「そんなのじゃないよ。まだ会って一週間しか経ってないんだし……話せたのも昨日が初めてなんだよ」
二人は小学校からの同級生で、仲も良い。実にとって祭は、信頼出来る唯一の幼馴染みでもある。
「でも本当にバドミントンやめちゃうの?あんなに頑張ってきたのにもったいないじゃん。あの馬鹿、本当に迷惑だよね」
祭が深い溜息をもらした瞬間、ドアがノックされ面接が始まった。
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