第3話 実験体の女

シュヴァルは対峙していた女の攻撃を、躱し、防ぎ、弾きながら、何とか攻撃を凌いでいる状態だった。

 (くそっ……隙がねぇ……)

 伸びた爪が縮み別の爪が伸び、そして、また縮むの繰り返し、ハウンドがいなくなり、攻撃が集中する為、防戦一方のシュヴァルに、女は攻撃をしながら興味なさげに話しかける。

 「よくやるわねー。あの街って危険って聞いてるし、そういうとこで暮らすとこれだけ強くなれるのかな」

 「さあな。ただ、努力も必要だと思うがな」

 「確かに。でも、貴方の動きは努力だけでなれる訳じゃ無さそう」

 「そりゃどうも」

 攻撃の隙間を縫って接近を試みるが、格子の様な形で爪を伸ばし攻撃される。それを後ろに飛び退き難を免れる。再び、先程の状態に戻ってしまう。

 「威勢が良かった割にこんなものなの?」

 「うるせぇ」

 左手の刀を仕舞い拳銃を取り出して撃ち始める。

 左手の指の爪を盾のようにして防がれ、右手の爪で攻撃される。右手の刀で応戦している時に、少しだけ違和感を覚える。

 (なんで攻撃を防ぐ?あの力があれば防ぐ必要はないんじゃねぇか?)

 あの力とは、自称神が自分達を包んでるとか言っていた薄い膜、銃弾や刃物を防いでくれる。ただ、威力が高すぎる物は防げないと言っていたやつだ。

 (さっきも知らなそうな感じだったし。知らないだけなのか、天使とかの特有の物なのか分からんが)

 更に、攻撃を防いでる時にも何かを感じていた。

 (それに、伸ばす爪も近くにいる時と遠くにいる時で本数が違う気がする)

 先程から、一本もしくは二本の指の爪を伸ばしてきて攻撃してきている。

 (一度に伸ばせる本数が決まってるってよりかは、伸ばせる距離が決まってるのか?)

 思考を巡らせて攻め入るチャンスを窺う。

 「いい加減、倒れちゃえば!」

 盾にしていた爪を戻してシュヴァルに向かって走り出す。予想が当たったのか、今までと違って十本の指の爪全部を一斉に伸ばしてきた。それを右に躱す。追いかけるようにして左手首を動かし爪がシュヴァルに迫る。刀を振り下ろし五本の指を斬れないながらも一気に叩きつける。

 攻撃だが躱されたのを見て、いつの間にか元に戻していた右手の指をシュヴァルに向けて一斉に放つ。振り下ろしていた刀の刃を上に向けて振り上げた。伸ばした爪が弾かれる反動で大きくよろめく。その隙を見逃さなかった。

 刀を構え直して全力で走り出し詰め寄る。女がそれに気付いて爪を戻そうとする時にはすでに遅く、間合いに入られていた。

 刀を左に持っていき、柄の頭を女に向けるようにして、横に斬る構えを作る。

 (……くそっ)

 一瞬の戸惑いの後、柄の頭を女の鳩尾の辺りに思いっきり打ち付けた。

 「……っ!?」

 その衝撃に膝をついてその場で苦しみ出す。

 「はぁ……」

 拳銃を仕舞いながら溜息をついて、ハウンドが降りて行った階段へ向かおうとする。

 「まっ……て」

 女は痛みに悶えながら必死に言葉を吐き出す。

 「な……んで」

 「あぁ?殺さないのはなんでかって聞いてんのか?知らねぇよ。そんなの。俺も甘いと思う。ただ、俺達の目的は、あくまでも研究所の破壊と博士を止める事だ。お前を殺しに来たんじゃない」

 「で……も」

 「そんなに殺して欲しければ、それが治ったら追いかけて来い。そしたら殺してやる」

 「……」

 「じゃあな」

 痛みに耐える女を見て、急いでハウンドの後を追いかけた。

 一人残された女は、悶え苦しみながら想いを巡らせているようだった。

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