第40話 継ぎ接ぎだらけなカッコつけ

「ユ、ユウキ……ユウキってまさかあの!」


 三人とは違い話でしか聞いたことなかったレイジュは彼の姿を初めて目撃する。


 弱い、情けない、お荷物、そんな罵倒の言葉で添えられていたユウキ。

 だが目先にいる彼はそんな言葉とはまるで違う雰囲気を纏っていた。


「ど、どうなっているんですの!? こ、ここ、ここに落ちこぼれのお荷物が何故!」


「何でここにいるのよ!? それに隣の女は誰なの!」


 理解が追いつかず落ち着かない言葉の乱打を投げつけるリエスとフレイ。


「……うるさっ耳腐る」


 まさか因縁の相手と再開したことに驚いたユウキだが直ぐに嫌悪の表情に変わる。


 彼女達のうるさい言葉は耳障りでしかないユウキは耳に指を入れる大げさな動作で強引に遮断する。


 このようなわざとらしく相手を煽るような動きも心酔する翔蘭から影響されたものだ。 


「あのワンワン吠えてる人達って先輩が言ってた友達さん?」


「友達じゃねぇよあんなの」


「じゃあ奴隷さん?」


「残念、俺の方が奴隷だ」

 

 過去の知り合いよりも翔蘭を愛してるユウキは彼女との軽快な会話に花を咲かせる。

 

「お、おいユウキ! 一体何があっ「シー」」


「静かに、翔蘭との話を邪魔しないでもらえるか?」


 舐め腐った態度と人差し指を唇に立てる動きでスレイズを一蹴する。


 このようなわざとらしく相手を煽るような動きも心酔する翔蘭から影響されたもの。

 かつての姿とはまるで違う口調にスレイズは萎縮した。


「少しいい子で、そこにいて欲しい」


 諭すような声でスレイズ達を留めさせる。


 呆気にとられ続ける尻目にユウキは彼らを完膚なきまで叩きのめした朱雀へと近づく。


 その足に一切の迷いはなく、恐怖心などは全く感じさせない。


「あら、私を見て一切迷いがないなんて珍しい」


 これまでとは違う雰囲気と何処か色気があるユウキに朱雀は興味を示し始める。


 足先から脳天まで舐め回すように凝視する彼女を見つめユウキは平然と口を開いた。


「そのお美し姿、お目にかかれて光栄です。貴女を連れ戻しに参りましたよ朱雀様」


「連れ戻しに?」


 相手を四聖獣ではなく女性として見た少しキザな言動を繰り出す。


 本来ユウキはこんなカッコつけた事は恥ずかしくて言えないし言いたくもない。

 だが話術で惚れさせろと言われた以上、羞恥心を消してユウキは彼女を褒め称える。


(これもキスのためだ) 


 その先に翔蘭の甘いキスが待っていると考えると全く苦でなかった。


「私を連れ帰ってくれるの?」


「もちろん、そのためにここに来ました」


「何者? 貴方は。いい男だけど」  


「ただの東方世界と西方世界、両方を生きた妖獣師ですよ俺は」


「二つの世界を……? へぇそそられる話じゃない」


 圧倒的な強さを誇る四聖獣とユウキは対等な立場で言葉を交わす。

 彼女を持ち上げつつも、舐められないよう自分自身も強く見せる。


 それがユウキのやり方だった。

 場には先程まで殺し合っていたとは思えない和やかで大人な雰囲気が流れ込む。


「気になるなら俺の手を取ってくれれば全てお話しましょう。そして東方世界に帰れる話も。悪くはないでしょう? 朱雀様」


「貴方……面白いわね。名前は?」


「ユウキでごさいます」


「ユウキ……色気ある名前、是非私の婿にでもしたいわ」


「……それは光栄ですね」


(はっ? いや絶対無理なんだけど、翔蘭以外に支配されるの)


 表面では気のいい男を演じつつも、ユウキは内心でドン引きする。

 全く興味の沸かない、しかも人外の夫になるとか想像するだけで反吐が出た。


 大本命は翔蘭、妥協して紫衣楽、それ以外の物になるなど死んだほうがマシだった。


「私は気前の良くてお話が好きな男は好きよ。閉じ込めたいくらい」


「四聖獣となるお方に言われるのはとても恐縮します」


(無理無理無理ッ! 何で鳥に閉じ込められなきゃいけねぇんだよ生物の階級逆転してんじゃねぇか)


「それに貴方絶世の色男という訳ではないけど……いい色気があるし食べたいわね」


「偏食なので私のお肉は美味しくありませんよ?」


(鳥肌立つ! 食べられるって何だよ、食的でも性的でも死んだ方がマシだい!)


 嫌悪感をどうにか押さえつけてユウキは朗らかな笑顔を向け続ける。


「プッ……先輩必死じゃんクソワロタ」


 キザの中に隠れている必死さを察してる翔蘭はその滑稽さに心の中で爆笑する。

 継ぎ接ぎのカッコつけた言葉で食らいつく玩具の姿は見ものだった。


 そんな彼の内情を知らない朱雀はキザを演じる彼に強く惹かれる。


「ユウキ、貴方は私にとって興味をそそられいい男よ。謎めいてるし貴方の手を取ってもいい」


 朱雀は上機嫌な声でユウキとの楽しい楽しい会話を続け、遂には彼の手を取ろうとする言葉を投げかけた。


(良かった……これでキザともおさらば)


「そうですか、なら俺の手を「でもね」」


「例え色っぽくてもいい男でも、弱くて脆い男だったら幻滅する。私はそんな単純な女ではない」


「そうで……ん?」


「だからね、貴方を虐めて見るわ」


 不敵な声と共に朱雀は上空へと飛翔し、ユウキ達を見下す。


「貴方の力を見せてみなさい。私を惚れされたら貴方を受け入れてあげる」


 朱雀は羽を大きく広げ業火を撒き散らす熱風を吹かせる。 

 それはまさしく私に挑めということをこれでもかと表していた。


(……愛絆の大嘘つきがァァァァァァ!!! 求められてるの力じゃねぇか何のための媚び売りタイムだったよ今のォ!)


 百点を与えてもいいキザ演技をしたのに結果は力で戦えという有り様。

 愛絆の助言とはまるで違う状況にユウキは内心で激怒する。


「貴方は特別だから、素晴らしい舞台を用意してあげる」


 そして彼女を丁重に扱い、上機嫌にさせたことが状況は更に悪化する。

 突如スレイズ達の付近から地面を破壊し、轟音が鳴り響く。

 

「なっ!?」


 振り返った瞬間、スレイズ達はこの世の悪夢を目撃し驚愕する。

 そこには一匹でも強大であるブレイク・ベアーが数十匹も出現していたのだ。


「ガァァァァァァァッ!」


 幾つもの白い巨体が耳を切り裂く咆哮を響き渡らせる。


「私が少しばかり躾けたオス達よ。醜い見た目だけど利用価値はあると思ってね」


(まさか……モンスターがいなかったのはあの鳥が……!)


 点と点が繋がりレイジュは驚愕する。


 モンスターがいなかったのは誰かが倒したではなく、別世界の強者に躾けられるという理由であった。


「い、いや……無理よ」


「こんな数……私達なんかじゃ」


 リエスとフレイ、そしてスレイズは高すぎる障壁に萎縮する。


 複数で挑みようやく一匹、よくて二匹倒せるほどの実力差。

 それを心身を擦り切らせ万全ではない状態で数十匹に挑むなど無謀でしかない。


 挑めばブレイク・ベアーに嫐られ食い殺される未来は目に見えていた。

 足がすくみ、絶望の光景にスレイズ達はその場から全く動けなかった。


「チッ余計なサプライズを……翔蘭、あいつら全部、一人で殺れるか?」


「誰にその質問してるんすか? 私のこと舐めてるなら去勢するよ?」


「……悪い、愚問だったな」


 翔蘭はその光景を目にしても笑顔は変わらず強気な言葉を並べる。

 そんないつも通りの姿を見て、ユウキは小さく浮かべる。


「朱雀は俺が満足させる。お前はあいつらと好きに戯れてくれ」


「オッケー、じゃやりますかァ!」


「行くぞ翔蘭ッ!」


「言われずともォ!」


 理性をぶっ壊し、本能に塗れた二人の希望溢れる絶叫が木霊する。

 

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