第38話 朱雀
天羅塔の最上階。
最高到達点に相応しく遺跡でありながら幻想的な雰囲気を放っている。
生い茂る草木にたくさんの花。
差し込む綺麗な朝日。
まるで楽園のような場所。
「ここが……最上階」
攻略が初めてであるレイジュはその光景に魅了される。
だがしかしそこは怖いほどに平穏で静寂だった。
「モンスターがいない……?」
スレイズは違和感を口にする。
辺りを見回してもモンスターどころか、生物の気配すらない。
無機質で不穏な空気が辺りを包む。
「どうなってやがる……」
最大限の警戒と共にスレイズは先へと進み始める。
その時、足元にカンッという音ともに鈍い感触が神経を伝う。
「あっ?」
何事かと下を見ると、そこには悍ましいものが転げ落ちていた。
「ッ!?」
彼が蹴ったのはバラバラの白骨死体。
そしてそれは何十、何百もの数が草花に隠れ散らばっていた。
「な、なんですのこれは!?」
「人間の骨……?」
少し遅れてリエスやフレイも足元に広がる地獄のような光景に驚愕する。
「スレイズ……これって貴方が言ってた行方不明になった冒険者の」
フレイは彼から聞かされた噂を思い出す。
白骨した死体の大半が金属で出来た防具と思われる物を着用している。
それは周りに転がっている骨が冒険者であり噂が本当だということを示していた。
場慣れしているスレイズ達でさえこの状況は許容できず混乱が広がっていく。
「どうなってやがる……一体……!」
「あらっ、また人間かしら」
「ッ!?」
それを嘲笑うかの如く、突然声が空間に響き渡る。
その声はとても艷やかな女性の雰囲気を醸し出していた。
「何処から!? リエス!」
「わ、私にも分かりません!」
声の主をスレイズ達は必死に探そうとするも一切見つからない。
そして同時に最上階は目も開けなくなるほどの炎風が吹き荒れ始める。
やがて風が吹き止むと目の前に現れた存在にスレイズ達は驚愕したように目を見開いた。
「鳥……?」
そこにいたのはスレイズ達が見たこともない未知の純赤の鳥。
赤を基調とした身体に太陽を体現したような鮮やかな色の翼。
辺りには幻想的に炎が舞い、空中を浮遊している。
鳥とは思えないほどに神秘的な姿だった。
「いい男ね。ごきげんよう」
「なっ、喋った……!?」
スレイズは驚愕する。
目の前にいる鳥はまるで人間のように流暢に話しているからだ。
知性のないモンスターが話すなど聞いたことも見たこともない話。
それはつまり未知のモンスターと遭遇したことを裏付けていた。
「私は朱雀っていうの。ねぇそこの貴方、帰り方を知っている?」
「はっ……?」
「困ってるのよ。優雅に眠っていたらいつの間にか西方世界に……貴方いい男だし帰れる方法を教えてくれない?」
人間並みの知識を有している朱雀は東方世界と西方世界の双方を理解している。
しかし気分屋である彼女は白空については余り詮索していない。
色恋を優先する朱雀にとってそんな小難しいことはどうでもいいことだった。
(西方世界……? 何を言ってんだよさっきからこいつは!?)
飄々とした態度と許容を超えた用語を話す朱雀にスレイズは咄嗟に武器を向ける。
それに呼応するようにリエス達も朱雀に向けて臨戦態勢を取り始めた。
「あら、質問しただけなのに武器を向けるなんて野蛮なことね。これまでに来た男達も皆そうだだったわ。お喋りしましょうよ?」
「黙れッ! お前は……何者なんだ、西方世界って何なんだよ!」
「ス、スレイズさん」
警戒するスレイズに突如、レイジュが恐る恐る話し掛ける。
「私はモンスターの知識だけは自信を持っています。ですがこんなモンスター見たことも聞いたことも、書物にもいません」
「はっ?」
レイジュの強みは知識の豊富さ。
特にモンスターの知識は多くスレイズもそこに一目置いて彼女をスカウトした。
そんな彼女がお手上げたことにスレイズは理解が追いつかない。
「つまりこの世界の生物ではありません……要は違う世界から来た生き物……そう考えるしか」
朱雀を見ながら弱気ながらも冷静なレイジュは分かりきっている事実を伝える。
目の前にいる存在はこの世界には存在しない未知の存在だということを。
だがそれを聞いてもスレイズは一向に話を聞こうとはせず更に拒絶した。
「ふざけんな……ふざけんなよッ! お前が見落としたんじゃねぇのか!」
「見落としなんてしていません! していないという上で……こんなモンスターはいかなる情報にも載ってないのです」
「黙れッ!」
珍しく反論したレイジュを乱暴に蹴り、強引に黙らせる。
「ぐっ……!?」
「クソ女がうるせぇんだよッ! ねぇんだよ未知も違う世界もただのまやかしに決まってる、教えとは違うんだからさァ!」
(そうだ……リバイア教だって言ってる。この世界、全てはこの世界だけなんだ)
自らが信じる教えとの矛盾が加速する度にスレイズは暴走していく。
幼少期から信じていたことを今起きてる現実に壊され遂にはタガが外れた。
「あらぁ酷い男、女の子を蹴り飛ばすなんて同じ女として最低ね。顔は悪くないのに」
そんな彼を見て朱雀は呆れたような声でスレイズを軽蔑する。
朱雀は面食いだが内面が気に入らなければ色男でも靡かなかった。
「黙れ口を開くな……お前みたいなのはいない。存在しない! 教えと違う!」
剣を持ち直すと混乱する思考を遮断し朱雀に殺意を向ける。
「いないんだよ……いちゃいけないんだよ。だから俺の視界にも入ってはいけない! だからお前みたいな奴はぶっ殺す、殺さないといけないんだよォォォォォ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます