第37話 背けたい真実は奇々怪々
同時刻、スレイズ達は天羅塔へと向かっていた。
「準備は出来てるよなお前ら」
「もちろんですわ!」
「万端よ」
「は、はい!」
三者三様の答え方でリエス、フレイ、ジェシカはスレイズの質問に応じる。
「しかしスレイズ様、何故今頃この天羅塔にまた挑むのですか? 私達のランクならこんな場所容易いのに」
当然のリエスの質問にスレイズはぶっきらぼうに答える。
「どうやらここにはしょうもない噂が立っているらしくてな。それが噂でしかないってことを証明するためだ」
未知のモンスター。
行方不明が続出している冒険者。
文面だけで不安を煽られる天羅塔の噂をリエス達に伝える。
「えっ……そういう噂話なら調査団に頼んだ方が良いのでは」
「黙れジェシカ! 俺は俺自身の目で耳で感覚で冗談ってことを証明すんだよ!」
「す、すみません!」
ジェシカの言うことはもっともであった。
冒険者は案内所に貼られたクエストを受け金銭を得るのが普通。
噂などの確証のない話は国やギルドの調査団に任せておけばいい話。
だが疑念と不安が高まるスレイズにとって自ら確かめないと気が済まなかった。
「お前らは言うこと聞いときゃいいんだよ」
ブレイクベアーの消滅もただの目の錯覚、別の世界も未知のモンスターも存在しない。
それを証明するためにスレイズは彼女達を引き連れ天羅塔へと駆けていく。
天羅塔は強力なモンスターが蔓延る上位ランカー
初心者、中級者は命を落とす可能性が極めて高い危険な場所である。
「ゴルド・ディラスト!」
だがスレイズ達からすれば経験値稼ぎの穴場としか見てない。
いつも通り現れた強モンスター達を黄金の斬撃で切り倒していく。
「スレイズ様、ブレイク・ベアーの反応です!」
しばらく天羅塔を上がっていくと彼らの前には白い巨体を揺らしたブレイク・ベアーが出現した。
(っ! こいつ……)
スレイズはあの時の記憶を思い出す。
自らの前で白い光に包まれ消えてしまったブレイク・ベアー。
あの光景を目にしてからスレイズは毎日苦悩に苛まれた。
「嘘だ……あんなのは嘘だッ!」
今一度、自分を奮い立せ強敵である存在に武器を向ける。
「リエス、フレイ、レイジュ隊列を組め」
慣れた動きでブレイク・ベアーを囲むと一斉に攻撃を仕掛ける。
「迅速を与えよ、ラピッドスラッシュ!」
先陣としてフレイがいち早く動き出し素早い動きから放たれる高速の斬撃を放つ。
赤い衝撃波を纏った剣先で強固な装甲のブレイク・ベアーを怯ませていく。
「大地の恵みよ私に力を……フ、フイップ・プラント!」
一瞬だけよろけた隙を狙いレイジュは植物の魔術でブレイク・ベアーを拘束していく。
「グァァァァ!」
手足に木々が絡みつき動きを制止。
しかしブレイク・ベアーはそれ以上の怪力で植物をメキメキと折り脱出しようとする。
「自由にさせるかよ……!」
完全に拘束が外される前に透かさずスレイズは加速し斬りかかる。
「ゴルド・ラッシュ!」
黄金の衝撃波を纏いながら関節部分に向けて連撃を仕掛ける。
硬い装甲に邪魔をされるが強引に押し切り左腕の血肉を切断した。
「グァァァァァ!」
痛みと怒りが混じった咆哮が鳴り響く。
切られた左腕をもろともせずブレイク・ベアーは機敏な動きで翻弄し背後からスレイズへと殴りかかる。
「ッ!」
咄嗟に剣で防ぐが規格外のパワーに徐々に押され遂には吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
スレイズは激しく地面へと叩きつけられる。
「スレイズ様! 聖なる癒やしを……アルタイア・セーブ・ロルセフ!」
ダメージを負ったスレイズをリエスは卓越した回復魔術で即座に復活させる。
致命傷にも等しい傷はエメラルドの光と共に修復されていく。
「この……クソ熊野郎がッ!」
意識を保ち、スレイズは回復した身体で再度攻撃を仕掛ける。
ブレイク・ベアーの高速移動を許すまいと足に目掛けて剣を切り込む。
低姿勢からの攻撃はブレイク・ベアーの視界から外れ切られた箇所からは血しぶきが上がる。
「ガッ!?」
「貰ったァ!」
身体を急旋回させ、スレイズはトドメとばかりに最後の一撃を叩き込む。
「ゴルド・ディノブレイク!」
力を限界まで引き出し残像のように姿を眩ませ、右腕、左足と次々と切断していく。
終いにブレイク・ベアーの首へと剣を向け勢い任せに強引に切り上げる。
断末魔を与える暇もなくブレイク・ベアーはバラバラになった身体と共に絶命した。
「はぁ……はぁ……手こずらせやがって」
額から出る汗を拭き取り、剣を杖にして荒れる息を整える。
「お見事ですスレイズ様!」
「大丈夫スレイズ!」
リエスとフレイはスレイズに駆け寄り彼の身体を支える。
「ホント……クソみたいに面倒な相手だ。リエス早く回復魔術」
「はい!」
討伐できるとはいえ、スレイズにとってブレイク・ベアーは難敵。
高速移動と圧倒的パワーと強固な装甲、攻守を併せ持つ存在は脅威でしかない。
長年の連携があってようやく安定して倒せるほどだった。
「こんな奴はどうでもいいんだよ」
スレイズの目的は天羅塔に何も異常がないことを確認すること。
見覚えのあるモンスターなど今はどうでもいい。
一刻も早く最上階まで登り何もないということを証明したかった。
「行くぞお前ら、狙いは最上階だ」
再びスレイズ達は駆け始め、天羅塔の最上階へと登っていく。
ブレイク・ベアーとの戦い以降、特に難敵は現れずスムーズに階を上がっていった。
(……何故だ)
順調に事が進んでいるがスレイズはある疑問を抱いていた。
(モンスターが少ない……前はもっと大勢いたはず)
天羅塔に潜むモンスターの数が前回よりも減少している。
些細な変化なのだが疑心暗鬼になってるスレイズはそんなことにも気を
(いや俺達が来る前にどっかの上位ランカーが討伐したんだ、そうに決まってる)
それっぽい言い訳を心で唱え、スレイズは心を保ち続ける。
そんなことを続け、やがてスレイズ一行は遂に最上階手前まで辿り着いた。
「着きましたねスレイズ様!」
「何だ、案外苦戦はしなかったわね」
スムーズな展開にリエスとフレイは余裕に満ちた笑みを浮かべる。
対してレイジュは慎重的な態度を取った。
「み、皆さんまだ終わってないですし気を引き締めた方が……」
「「あっ?」」
「ヒッ!? あっいやえっと、何でもありません!」
だが二人から放たれる殺気に屈指すぐさま萎縮する。
「……余計な心配してんじゃねぇよ。その下らない心配症すぐに直せこのバカがッ!」
「は、はい!」
スレイズも強い口調でレイジュを責める。
何もないと信じてる彼にとってそんな心配を掻き立てる言葉は耳に入れたくなかった。
「行くぞお前ら、ついてこい」
(何もない……そうだ何もないんだ)
深呼吸を行い、スレイズは今一度意思を固め最上階へと乗り込んでいく。
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