第24話 嘘で嘘でこれは嘘 【西方世界Side】

「クッソ……肉がまじぃな」


 スレイズはペルス王国の飲食店で悪態をついていた。

 肉自体は美味しい。だがその美味を堪能できるほどに上機嫌でもなかった。


「調査の結果、特に何もなし……でしたからね。全く無能な調査兵どもですわ」


「せっかくギルド変えたってのに、これじゃ骨折り損じゃない!」


 リエスとフレイも同じく苛立ちを顕にし声を荒げる。


 ブレイク・ベアー消失事件から数ヶ月。

 一向に動こうとしないギルドを止めスレイズ達は新たなギルドに加入していた。


 しかし前とは違い、動いてはくれたのだが結果はスレイズ達が望むものとは程遠いものだった。


「あ、あのあまり声を大きくするのは……他のお客さん見てますし……」


「あっ? なんか言ったか?」


「い、いえ何でもないです」


 周りの目が気になったレイジュは咎めようとするがスレイズの威圧に屈し萎縮する。


「チッ……本当にあれは何だったんだ?」


 悪い夢でも見ていたのではないかとスレイズは錯覚に陥る。

 いやここまでくれば錯覚ということで終わって欲しかった。


(クソがッ! 何でこんなことに悩まさてるんだ)


 レイジュから聞かされた異世界の話をスレイズはまだ引きずっていた。

 

 ブレイク・ベアー消失の理由を異世界が存在する以外に説明ができない。

 だからこそ、信仰するリバイア教の教えとの矛盾に苛まれ苦悩する羽目に陥っていた。


「そ、そういえばあいつはどうなったのかしらね」


「あいつだと?」


 苦に塗れるスレイズを心配したフレイは咄嗟に別の話題を持ち出す。


「あのお荷物男よ」


「あ、あぁユウキのことか」


 誰だか分かった途端、スレイズは舐めきった顔で嘲笑を浮かべる。


「最近めっきり姿を見ないが、まぁどっかのクエストで野垂れ死んだんだろ。逃げまくって無惨に殺されたりしてな」


「アッハハッ! 滑稽な最期ですわね」


「想像するだけで吹きそうだわ」


 脳内で逃げ惑い、そして怯え、無惨に殺されるユウキを想像して3人は爆笑する。

 癪に障る男の無惨な最期ほど、爽快感に溢れているものはなかった。


「まっ、どうでもいいさあんな奴。生きていてもなんら価値はない」


 ユウキの死に様をダシに、スレイズは再び豪快に飯を食い始めたその時だった。


「なぁ知ってるか? この数ヶ月、天羅塔てんらとうで冒険者が何百人も行方不明になってる噂」


「はっ? んだよそれ」


 騒がしい店の中、向かいの席に座っていた男達が意味深なことを話し始めている。  


「いや最近見なくなった冒険者が増えてんだろ? 噂によれば見たこともないモンスターが天羅塔にいて冒険者を次々と殺しまくってるとか」


 耳が優れているスレイズはその内容を見逃さなかった。


(見たこともないモンスター……?)


「上位ランカーもその犠牲になったって話もある」


「おぞましい話だな……冒険者も苦労してんな」


「まぁでも噂でしかないからな。面白がってまた想像豊かな奴が作ったんだろ」


 意味深な内容に引っ掛かりスレイズは男達の元へと向かう。


「おい、今の話は何だ」


「あっ? ってスレイズさん!?」


 ペルス王国では有名なランカーのスレイズの登場に男達は恐れおののく。

 

「教えろ、今の話は何だ?」


「あっえっと……だから今の通り天羅塔で身元不明のモンスターが現れたとの噂が広まっていて」


 天羅塔。


 ペルス王国から数十キロほど離れた場所に存在する古代遺跡の廃墟となった巨大な塔。

 強力なモンスターが生息しており、天羅塔に挑むのは上位ランカー程度。

 

「身元不明って何だよ……もっと詳細はないのか!」


「あぁいや俺達も噂で聞いただけで詳しくは……嘘の可能性もありますし」


「チッ、使えねぇなァ!」


 まともな情報を持ってなかった男達にスレイズは舌打ちと共に暴言を吐く。


「す、すみません!」


「俺達はこれで!」


 スレイズの苛つきに怯えた男達は足早にその場から去っていく。

  

「スレイズ様〜? どうかなさいました?」


「……いねぇよ」


「はい?」

 

「いねぇよ未知のモンスターだなんて……違う世界もないッ! リバイア教の教えと違う!」


 不安にかられ机を叩きつけるとリエスに八つ当たりをする。


「ス、スレイズ様!?」


(絶対に認めない……未知だとか新たな世界とか……戯れ言に決まってる。この世界が真理のはずだ)


「……リエス、準備を始めろ」


「はっ、えっ、準備?」

 

「2日後、天羅塔に挑む。フレイとレイジュにもこのことを伝えろ」


「天羅塔ですか? いやしかし僭越ながらあそこは既に私達で攻略していますが」


「うるせぇな俺の話が聞けねぇのか!」


 反論しかけるリエスを一蹴し周りの目を気にせずに暴言をぶち撒ける。


「お前は俺の言うこと聞いときゃいいんだよ……お荷物ユウキのように捨てられてぇのか!」


「も、申し訳ありませんスレイズ様! 直ぐに準備を!」


 スレイズに心酔するリエスは即座に謝罪し慌ただしくフレイ達の元へと戻っていく。


(周りが使えないなら俺自身で証明してやる……未知も違う世界もただの噂話だってことを……!)


 何を聞こうとも何を言われようとスレイズはこの世界しか認めない。

 教えに感化された思考がスレイズの心を掻き立てた。




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