第19話 幽霊屋敷ノ鬼哭啾啾

 ユウキ達は愛絆から手配された道具を手に幽霊屋敷へ向かった。


 空槽から数時間、賑やかだった人だかりは無くなり、人は愚か生物すらいないであろう荒廃的な場所とへたどり着く。


「これが……幽霊屋敷か」


「おぉ雰囲気ありますねありますね!」


(なんか嫌だなここ)


 霊感があるわけではないが得体の知れない不気味さにユウキは身震いする。

 周りには枯れた木がズラリと並び何もかも死んでいるような場所。


 屋敷自体も壊れかけており、少しでも衝撃を与えれば崩壊するのではないかというほどボロボロだった。


 日も暮れ始め、夜になり始めてるのもありホラーな雰囲気は倍増していく。 


「じゃあ行きましょ!」


「何で迷いなく踏み込めるんだ……」


 翔蘭の後をついていく形でユウキは幽霊屋敷へと飛び込んでいく。

 

「鬼さんこちら手のなる方へ、さぁさぁおいで鬼さん鬼さん、来ないと首をへし折っちゃうぞ♪」


「怖っ」


 不穏な空気が流れる空虚な場所に翔蘭の過激極まりない歌が響き渡る。


 警戒を続けるユウキとは対称的に彼女はこれから起きる出来事を今か今かと待ち受けていた。


「先輩いつ起きるんすかね心霊現象! いや〜楽しみだなぁ。幽霊絞め殺そうかな〜」


「楽に成仏させてやれ」


 場違いテンションな翔蘭のおかげでどうにか平常心でいるユウキ。

 まだ暗いというだけで何かが起きたという訳でもない。 


「ワッ!」


「いっ!? 何だよ!?」


「アッハハハ! 先輩面っ白い! ちょっと大声出しただけでウケる〜アッハ!」


「お前ふッざけんなよ!」


 もはや翔蘭にもからかわれ始め2人の間にはいつもの緩い空気が戻っていた。


(ただの都市伝説だったのか?)


 そんな状況にユウキもそう楽観視を始めたその時だった。


「ん……?」


 ユウキの左半身に何か重さがのしかかる。

 まるで手のような物がヌルリと背中からよじ登っていく不快な感覚。

 

(な、何だこれは……まさか幽霊!? いや違うこれは翔蘭だ。翔蘭が俺を脅かして「アッハハ! またビビった!」ってからかう流れだ絶対に)

 

「フッ……もう騙されないぞ翔蘭。どうせまた俺を驚かせようとしてんだろ!」

 

「えっ何が?」


「ん?」


 翔蘭はユウキの目の前で不思議そうに上目遣いで覗いていた。


(翔蘭が目の前に? じゃこの感覚は……)


 恐る恐るユウキは後ろへと振り返る。


 そこにいたのは全身甲冑の兵士がユウキを掴んでいた。


「ダァァァ出たァァァ!?」


 パニックになるユウキ。 

 頭が真っ白になり叫ぶことしか出来ない。


「あっ本当に出た! アハハハハハッ!」


「何を喜んでんだこの鬼畜バカ!?」


 そんな彼とは裏腹に翔蘭は心霊現象に狂喜し悪魔のように手を叩いて興奮していた。


「いいっすね、もっと幽霊と戯れてくださいよ先輩!」


「無理に決まってんだろ! ひっ!? ちょマジで助けて、助けろ本当にィ!」


「全く……手の焼けるバァカ!」


 ため息と共に翔蘭は華奢な足で兵士の頭を勢いよく蹴りを入れる。

 

 鮮やかな上段の回し蹴りは見事に命中し頭部の甲冑を何メートルも吹き飛ばした。

 ユウキを掴んでいた甲冑は脱力したように地面へと崩れ落ちる。


「大丈夫っすか先輩?」


「あ、あぁ何とか」 


「そんなビビると逆にドン引きっすね……なんか可哀相な、お虫さんに見えてきました」


「俺は虫扱いかよ」


「あぁすみません! それだとですね!」


(こいつマジで性格悪いクズ女。でも好き)


 清々しくクズ。

 それが翔蘭という唯一無二の存在だった。

 

 余りの情けなさに失笑しながら翔蘭は吹き飛ばされた甲冑へと目をやる。


「あれ? 先輩見て見て」


 翔蘭が指を指した方向。

 そこにはが地面へと転がっていた。


「中身がない? まさか本当に幽霊!?」


「いや違うと思いますよ。先輩これ見て」


 その中には頭部に1枚の不気味な御札のようなものが貼られていた。


「それは……札?」


「ただの札じゃないっすね。なんか妖術を感じますよこれ」


「えっ、てことは妖術で動かされていたってことなのか?」


「そうっすね、つまりは誰かがこれを仕組んでいたってことになります!」


「故意で誰かがやっていた……?」


「これは裏がある匂いがプンプンクンクン、よしっもっと先に行きましょう!」


 返答する隙も与えず翔蘭はユウキの手を握るとそのまま奥へと突っ走っていく。


 もちろん何も起きなかったなんてそんな上手い話があるはずもなく。


「矢が飛んできたァ!?」


 無数の矢が襲いかかれば。


「いっ!? なんの声だよ!?」


 不気味な声が響き渡り。


「だぁぁぁ目だァァァ!」


 気色悪い目の形の彫刻が降り注いだ。

 

「あぁもう無理……トラウマになる」


 度重なる罠の連続。

 心霊的な怖さには耐性のないユウキの心は既に限界を迎えていた。


「先輩いちいちそんな驚いてたら体力持ちませんよ? 死にますよ?」


「なぁ翔蘭……もう帰らないか? 誰かがやっててもキツイよ」


「はい? ここまで来て何言ってるんすか。もっと奥に進みますよ!」


「何でそんな平気でいられるんだよ……もう無理だってこの場所!」

 

 そう言って駄々をごねるユウキを見て翔蘭は煩わしい目で衝撃的なことを口に出した。


「はぁ先輩ったら……最後まで頑張って行けたらご褒美にしてあげても良かったのにな〜」

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