第32話 嫌な奴+嫌な奴=皆殺し

 緊迫した状況に場違い過ぎるハイテンションな声が響き渡る。


「はぁ……?」


 翔蘭を知る者にとっては平常運転。

 だが彼女を知らない者からすれば頭のネジが外れたヤバい奴としか写らない。


 故に憂炎を含む男達は異様なオーラを放つ翔蘭に困惑していた。


「ほぅほぅ……なるほどなるほど」


 傷つく紫衣楽に満身創痍になりながら死闘を繰り広げていたユウキ。

 翔蘭は辺りを見回すと、これまでの経緯の大まかに察し「なるほど」と手を打つ。


「やはり私の天才的な第六感は的中していましたか」


「おい、さっきから何言ってんだ?」


 支離滅裂とも取れる発言の数々に憂炎は耐えきれず翔蘭に問いかける。


「いやぁそれにしても、ずいぶんと頑張ってましたねせ〜んぱい?」


「見てたんなら……早く助けろよ」 

 

 翔蘭は今から少し前に現場に到着しておりユウキの死闘を敢えて観察していた。


「だって直ぐに助けたら先輩の苦しむ顔が見れないじゃないっすか。ん?」


(相変わらずのクズが……でもそこが好きだ)


 憂炎に見向きもせず、翔蘭は玩具とユウキは愛しの主人と談笑を楽しんでいく。


「おいッ! 無視してんじゃね「シー」」


「お静かに。玩具とのお楽しみの時間を邪魔しないでもらえますか?」


 人差し指を唇に立てる動きで憂炎を一蹴する。

 翔蘭は大げさな動きで更に舐めきった態度で憂炎の怒りを煽る。


「このガキ……ぶち殺せ! 追加報酬で金貨十枚だ!」

 

 金貨の枚数に狂喜した男達は翔蘭に目掛けて次々と攻撃を仕掛けた。


「死にやがれェ!」


「お返ししまぁす!」


 翔蘭は最も近くにいた男の顔面に上段蹴りを食らわせる。


 鋭い蹴撃はありとあらゆる顔の骨を砕きながら地面へと叩き殺す。

 ただの蹴りだというのに辺りには凄まじい衝撃波が広がった。


「えっ……?」


 その場にいたユウキを除く全員が今の蹴り殺しに呆然とする。


 目をギョロっとさせると隙かさず翔蘭は牙をむき出しにして殺戮が始まる。


「さ〜さ〜行こうか野郎ども、アッハ、アッハハハハハハハハァ!!!」


 手当り次第、近くにいる者を双剣で攻撃を仕掛け切り刻む。   

 鳥のように舞い、鮮やかで無駄のない動きで敵を殺していく。


 動脈、静脈関係なくあらゆる血管を切ったことで鮮血がこれでもかと散らばる。

 その光景は刃傷沙汰という言葉では実に弱く片付けられない。


「この女っ!」


「キンタマキィィィック!!!」


 グシャ。


「はぅぐぅぁぁぁぁぁ!?」


 襲いかかる男の金玉を尖った靴で精子が作れないほどに蹴り潰す。


「あらら竿だけになっちゃった。まぁいいよね? もう死ぬんだからさァ!」


 暴虐を極めた翔蘭。

 至るところから悲鳴が上がり、次々と死体を作り上げていく。


「お、おい何だよあいつ!?」


「イカれてんのか!?」


 容赦のない無慈悲な攻撃に金に飢えていた男達もあまりの恐怖に冷静さを失っていく。


 笑顔のまま切り裂いていく翔蘭の姿は人間の皮を被った悪魔そのものだった。

 

「クソッ小娘が!」


 殺戮を繰り返す彼女を仕留めようと長身の男はてつはうを翔蘭へと投げつけようと構え始める。


「フォゥ!」


 翔蘭が奇声と共に指を鳴らすと男の持っていたてつはうに突如ナイフが突き刺さった。

 

「えっ?」


 ナイフが刺さったことにより摩擦熱が発生し、てつはうは男の手の中で発火する。

 断末魔を上げる暇もなく、凄まじい爆炎と共に身体の肉片を飛び散らせ自爆した。


「ナイフ!? 何処から」


 憂炎が辺りを見回すと、そこには少し遅れてやってきた二人の少女が立っていた。


 悪魔のような顔を浮かべて。


「なっ……お前らは姫恋と美月歌!?」


 美月歌達の存在を憂炎は知っている。


 三人は元々、同時期に仲間として同じ集団に所属していた。

 だが仲間といえど、関係は紫衣楽を巡って当時から険悪。


 傷ついてる紫衣楽を視認した途端、二人は凄まじく燃えさかる殺意を宿す。


 ドス黒い空気が辺りに充満していき、心を抉る殺意に男達は更なる恐怖に染まっていく。


「憂炎……クソ男共……よくも私達の紫衣楽を傷つけてくれましたね」


「処刑・か・く・て・い」


 その言葉に抑揚はなく、機械のように無機質かつ冷徹な声をしていた。 


「……姫恋、どうしたいですか?」


「美月歌と同じ気持ちだよ」


「そう……ならば」


「「ブッ殺すッ!」」


 美月歌と姫恋は男達を嬲り殺していく。


「ヒッ!? や、止め」


「慈悲なんて……ないッ!」


「堕ちろ地獄にッ!」


 翔蘭に勝る殺意に戦意が喪失した男達。

 だがそんな命乞いを聞くはずもなく二人は次々と惨殺を繰り返す。


 翔蘭とは違い、できる限りの痛みと絶望を与え殺害していく。

 酒池肉林には聞くに堪えない断末魔の数々と血しぶきが広がる。  

  

「あ〜あ地獄が始まっちゃった、ウケる」


 目の前で起きている光景に翔蘭はゲスな笑みを浮かべユウキの元へと向かった。


「立てますか先輩?」


「あぁ……何とかな」


 翔蘭の手を取り、ユウキは立ち上がる。

 満身創痍だった心身は少しばかり回復。


「さてじゃあ私達はリーダー格を「待て」」


「俺だけにやらせろ」


 指をポキポキと鳴らし殺る気に溢れている翔蘭を引き止める。


「先輩一人で?」


「あのクズは……俺だけでぶちのめす」


 自らのミスで憂炎の策略にハマり紫衣楽を傷つけてしまったユウキ。 

 そのケジメは自らでつけないと気が済まなかった。


「フッ、アッハハッ! なら見させてもらおうかな」


 ユウキの怒りを察知した翔蘭は興奮しながら一歩引き下がる。


「さて、残るはお前一人だ」


「ぐっ……!?」


 金で雇われた者達は全員、少女達によって血祭りにされ凄惨な遺体となっている。

 

 残されたのは憂炎ただ一人だった。


「何で邪魔すんだよ……俺は紫衣楽に何もかも奪われた! 未来も人生も! そんな奴殺さなきゃ気が済まないんだよッ!」


「んなもん知るか。どうでもいい」


「っ! このクソガキがァ!」


 自分の人生を賭けた復讐をユウキに軽く一蹴される屈辱。

 怒りが爆発し憂炎はてつはうをユウキに投げつけようとする。


「氷流蒼弾」


 だが全てユウキの矢の餌食となる。

 即座に射られ、てつはうは氷が覆い使い物にならなくなる。


「ッ!?」


「いつまで鉄クズを使ってる気だ?」


「クソが……クソがァァァ!」


 絶叫と共に憂炎はユウキの元へと走り出し炎が纏わりつく拳で殴りかかる。

 

炎上拳えんしょうけん!」


 憂炎もかつては優秀な妖術師の一人。

 小細工が封じられ打つ手がない今、最後の手段として攻撃を仕掛けた。


 ユウキは武器を捨てると拳を躱し、彼の背後に蹴りを叩き込む。


「ぐっ!?」


「行くぞクズ野郎」  


 ユウキと憂炎、怒りと怒りが衝突し激しい肉弾戦が繰り広げられる。


 憂炎の拳を次々と無駄を省いた動きで見切り、雑になっていく隙を見逃さずユウキは空中に飛ぶ。


 そのまま身体を捻れさせ上空から強烈な蹴りを頭部に叩き込んだ。


「ぐあっ!?」


 よろけた憂炎を追撃するようにユウキは蹴りを中心とした連撃を仕掛ける。


 トリッキーで無秩序な動きで相手を翻弄し、反撃をチャンスを与えない。


「このガキァ!」


 苛立ちを高める憂炎は空中蹴りでユウキを仕留めようとする。

 しかし大雑把な攻撃は直ぐに見切られカウンターに回し蹴りを食らう。


 憂炎は激しく木々へと叩きつけられた。

 

「はぁ……はぁ……何故だ……何故攻撃が当たらない、なぜ見切れる!?」


「俺は……優しさの欠片もない鬼主人に調教されてんだよ」


 手加減なんてものを知らない翔蘭の調教を何ヶ月も受け続けたユウキ。

 ゾーンに入ってる彼に落ちぶれたエリートなど敵ではなかった。


「ふざけるな……ふざけるなァ!」


 身体を無理矢理起こし、憂炎は最大出力の炎でユウキに拳を叩き込む。

 だがその炎の拳は無慈悲にもユウキによって簡単に受け止められた。


「なっ!?」


 ユウキにとって翔蘭の炎に比べれば憂炎の炎など生温いに等しい。  

 拳を手で受け止めると逃すまいと凄まじい握力で憂炎を拘束する。


「お前の復讐とかどうでもいい、でも何かめっちゃムカつくからさ」


 拳を受け止める反対の手には氷が纏わりついてき、憂炎を捉える。


「死ねやァ!」


 ドグォッ!


 怒りが込められたユウキの氷拳は憂炎の顔面をぶちのめす。

 鼻の骨を粉々に砕き、顔面が壊れるほどの威力が憂炎を襲った。


「グボァ!!」 


 情けない断末魔と共に、憂炎は木々をなぎ倒し数メートルも吹き飛ばされる。








 


 





 

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