第17話 エロくてたまらない

 その言葉を機にユウキは再び空槽へと急いで歩を進める。

 しかし豪雨までの時間はまだ8時間弱とかなりの余裕があった。


(まぁこのペースなら2時間ほどで到着するだろうな)


 そうユウキは楽観視していたが。




* * *




 9時間かかった。


「ぜぇ……ぜぇ……! 着きましたよ先輩!」


「こんなに……時間かかるとは思ってなかったぞ……!?」


 一体何が起きたのか。


 簡単に解説すれば道中で幻獣やら黒霊などとんでもない数に2人は襲われていた。


 少し歩けば敵が現れ、また少し歩けば敵が現れ……そんなことを繰り返してたら時間ギリギリで到着するという有り様。


 無事に到着したとはいえ、2人の衣服は汗と雨水でずぶ濡れになっていた。


(結局豪雨の餌食じゃねぇか!)


「って先輩、早く予約!」


「あぁそうだった……」


 今にも地面に寝そべってゆっくりしたい気分だがそうもいかない。

 瑰麗から渡されたメモを頼りに、愛絆と呼ばれる学者の広大な屋敷へと辿り着く。


「え、えっと……愛絆様との面会をご所望の方、でよろしいのですよね?」


「はい……お願いします。これ瑰麗さんの面会の推薦状です……」


 門前で警備している兵士はドン引きしている。

 その反応は当たり前、夜中にずぶ濡れで息をハァハァした男女がやってきたのだから。


「わ、分かりました。少しお待ちを」


 数分後、少しばかり慌ただしくなった屋敷からあの兵士がもう一度目現れる。


「お待たせしました。明日の10時にお越しください」 


「そう……ですか……良かった……」


 ゼェゼェと息を吐きながらユウキは安堵な表情を浮かべる。


「あの大丈夫ですか?」


「全然大丈夫です、うん大丈夫! これくらい……ヤベッ吐きそう」


「えっちょ!?」


「すんませんここでゲロしていいっすか?」


「駄目ですよお嬢さん! そういう汚物は便所などで!」


「汚物!? 失礼な美少女のゲロは宝石……やばっ吐く」


「ちょっとぉ!?」


 失神寸前のユウキ達は兵士に介抱されてようやく落ち着きを取り戻す。

 脱力感からか今にも吐きそうだったがギリギリ堪えられていた。


「これも……白空の影響か……?」


「その可能性高いっすね……あぁ地獄」


 息を切らしながらユウキ達は屋敷近くのベンチへとゆっくり腰掛ける。

 東方世界の栄えた国を眺めたいがその余力なんて今の2人にはない。


「宿探さねぇと……でも動く気力ねぇ……」


「同感っす……あっ先輩、ちょっと肩使わせて休むから」


「えっ?」


 言葉だけで真意が読めなかったが直ぐにもユウキは理解させられることになる。

 

「なっ!?」


 翔蘭はお構いなしにユウキの肩へと頭を乗せてきた。

 そして数秒もすると、静かな吐息と共に眠りについてしまった。


「ちょ翔蘭おい!?」


 突然の密着に心臓はバクバク鳴り汗と雨水が混じった匂いが鼻孔を刺激する。

 翔蘭の全てがありとあらゆる劣情を掻き立て理性を蝕んでいく。


 引き離そうとするも、ぐっすり眠る彼女を見てるとそうもいかなくなってしまった。


「ったく……何てことしやがる……」


 ゼロ距離で雨に濡れてる翔蘭はユウキを強制的に悶々とさせた。


「……エロっ」


 そんな状況の中、下心の満載の言葉が無自覚に出てしまう。


 普段はバカうるさく、クズな性格をして、常にゲスな笑みをしている翔蘭。


 しかし口を閉じて妖艶に眠る姿を見て、翔蘭は美少女だったということをユウキは再認識させられる。


 こんな綺麗で妖艶な主人に玩具として使われてるなんて至福でしかない。


「いや落ち着け……変な気持ちになるな」


 万が一、理性の紐が解けて少しでも手を出したものなら「先輩キモっ……最低ッ!」と言われて絶縁される未来も考えられる。


 玩具としてポイッと捨てられるのは絶対に避けたい気持ちがユウキを奮い立たせ一線を超えさせなかった。


 優しくもない、母性もない、皆が思う理想的なヒロインとは程遠い。

 しかしユウキはレールから脱線してる彼女に魅力に取り憑かれ恋していた。


「ん……ありゃ……寝ちゃってた」


「っ!」


 数十分後、寝起き特有の舌っ足らずな言葉と共に翔蘭は目を覚ます。


「悪いね先輩、少し休むだけだったのに眠くなっちゃった」


「い、いや大丈夫だよ」


「先輩、何で顔が赤いんすか?」


「えっ? いやいやいや! 何でもないよ! いやホントに何でもないから!」


「声うわづってますよ玩具先輩、あっもしかしてスケベなこと考えて勃起しました?」


「はぁっ!? 考えてないし勃起もしてねぇよ!」


(ちょっと勃ちかけたけども……)


 悶々とした心情に配慮なんかせずズイッとより顔を近付けてくる翔蘭。

 心の底まで見透かすような力強い視線にユウキは動揺を隠せなかった。


「そうやってムキになるのは返って認めてるようなもんすよ〜?」


「だ、だから俺は!」


「まぁいいっすよ。先輩はそんな感情抱いても手を出せないヘタレちゃんって知ってますし。それに……ね」


 ゆっくりと立ち上がると俺に向けて色気に満たされた顔を浮かべ見下ろしてきた。


「先輩にならそんな感情抱かれてもいいっすよ……私は」


「へっ?」


「プッ……ギャハハハハハハハハハッ! 冗談っすよ! まさか本当に抱るとか思っちゃいました〜? 自惚れんなよゴミ!」


「な、なっ、おまっ!」


「そんなキモいこと抱ける余裕あるなら〜今日の宿探した方がいいっすよ。アハハハハハハハハハハハッ!」


「お前……! 待ちやがれ!」

 

 結局、ユウキは翔蘭のませた悪戯に転がされてしまう。


「鬼さんこちらっすよ、先輩!」


 その後もユウキは翔蘭に弄られながら邸店ていてんと呼ばれる宿に泊まることとなった。


 西方世界ではなかった和室と呼ばれる部屋でユウキは悶える性欲と共に一夜を過ごす。

 


 

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