第14話 馬鹿にされる真実 【西方世界side】
「ブレイクベアーが消えた?」
スレイズの話を聞いた青髪の受付嬢は困惑の表情を浮かべる。
「スレイズさん、冗談は結構ですがもう少しリアリティのある方が」
「冗談じゃない! 本当に消えたんだ!」
「そ、そんな怒られてもこちらとしては証拠のない事には対処しかねます」
「はっ!? ふざけんなよ調査団を手配するとか色々あるだろ!」
「スレイズ様の言うとおりですわ! 私達はこの目で見たんです!」
「私達が嘘をついてるとでも言うの貴女は!」
リエスとフレイも追随するようにスレイズの言葉を持ち上げる。
しかし受付嬢の対応が変わることはなかった。
「確かにスレイズ様一行は王国全体でも上位ランカーの冒険者です。しかし証拠のない話には動けません。噂で人を動かせるほどこのギルドに余裕はありませんから」
「だぁぁもういい! この無能ギルドが!」
消極的な態度に業を煮やしたスレイズは罵倒の末にギルドを出ていく。
周りにいた冒険者が何事かとジロジロと見ていたことも怒れるスレイズの視界には入らなかった。
「クッソ、何で俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだよ! お前達みたいな戦えない無能のためにこちとら汗水流して戦ってるのによ!」
ギルドを出ても怒りは収まりきらず愚痴をこれでもかと喚き散らす。
「気にする必要なんてありませんわスレイズ様、あのような頭の硬い女なんて」
「ここのギルドも末期ね。こんな組織潰れればいいのに」
証拠がなければ動けないの一点張り。
事実としてギルドは経営状態が安定しておらず、その対応は決して怠慢ではない。
しかしそんなことは知ったことではないスレイズ達は怒り心頭であった。
「しかし本当に何故ブレイク・ベアーは消えたのでしょうか……」
「落とし穴みたいなトラップでもない。まるで吸い込まれたようにあいつは姿を消した」
そう、ブレイク・ベアーはあの白い穴に吸い込まれるように消えていった。
あんなトラップは聞いたことがなく、素早く動く奴を罠に引っ掛けるなんて至難の業。
「なら誰かが魔法を発動させた?」
「奴を一撃で倒せるレベルならギルドにも名前が挙がるはずだろ。あんな魔法を使う冒険者は認知してない」
「そ、それもそうね……」
リエスの意見もフレイの意見もスレイズは一蹴していく。
スレイズ自身も理にかなった結論を出そうとしたが結論がまとまらなかった。
「あ、あの!」
その時、それまで影を潜め無言であったレイジュが言葉を発した。
「あっ? んだよレイジュ」
「す、すみません急に……でも私ある噂で聞いたことがあって……」
「噂?」
「実はこの世界には私達とは別のもう1つの世界があるって……だからあの熊は別世界に転移させられたとか。す、凄く面白くて興奮しますよねそういうの!」
「はっ? 何だそのメルヘンな話は。おとぎ話にでもハマってるのか? 妄想癖も大概にしろ」
いきなりの現実味のない妄想話にスレイズどころかリエスはフレイまでも呆れる。
「ご、ごめんなさい。いやでもあの消えた映像見てもそういうのあり得るのかなって」
「レイジュ、そんな戯言でスレイズ様を困らせないでもらえます? 精神病院にでも行ったらどうでしょうか」
「気持ちの悪い妄想をぶち撒けないで。これ以上言うならこの場で斬首よ?」
「あっえっと……そ、そうです……よね。ハハッ……」
「もぅいい、リエス、フレイ、レイジュ、飯にするぞ。食わなきゃムシャクシャが収まらない」
「はい! スレイズ様!」
別の世界だとか、絵本や小説のような話にスレイズの頭は痛くなる。
(これだから娯楽の噂は嫌いなんだ。変な妄想で盛り上がりやがってよ)
そんなものを一切信じないスレイズからすればただの戯言。
(……もしもだ。本当にもしもの話だ。仮にレイジュの話が噂でも妄言でもなく真実であったらどうなる?)
しかし今回ばかりはレイジュの言葉にスレイズは内心揺れ動いていた。
この世界とは別に新たな世界がありブレイク・ベアーはその世界に飛ばされた。
余りにも馬鹿馬鹿しくて下らない。
だがあの現象を他の理由で説明しろと言われても思い付かない。
(まさか……本当に別の世界が)
「いや違う……そんな訳が無い!」
一瞬だけ噂を信じようとした自分に嫌気が指し咄嗟に自分で自分を否定する。
(神だってこの世界が唯一無二と教えてる)
スレイズはペルス王国に存在するリバイア教という宗教に深く信仰している。
リバイア教の教えでは「この世界は唯一無二、この地に生きる人間は尊いもの」という内容。
(何をアホなことを考えたんだ俺は……リバイア教の教えが絶対っていうのによ)
そういう教えだからこほ別の世界なんてものがある訳がないと思っていた。
ブレイク・ベアーが消えたのだって調査すれば何かしらの理由が見つかるはず。
仮に何も分からなかったら、それはきっと疲れから見てしまった幻覚に違いない。
そんな常識を覆されるような事実をスレイズは認めなかった。
(この世界は……唯一無二の世界なんだ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます