第8話 日常終了のお知らせ 【西方世界side】

 ユウキを追放してから既に数ヶ月。

 

 お荷物が消えただけでスレイズはいつも通りの自堕落な生活を続けている。

 毎日信仰する神に祈りを捧げ、モンスターを狩り金を稼ぎ、豪遊しながらリエスやフレイとベットの上で淫乱な行いをする。


 また金がなくなったらモンスターを狩る。  

 そして現在、スレイズ達はAランクが最低条件の高難易度クエストに挑んでいた。


「ゴルド・ディラスト!」


 黄金の斬撃波と共に上空をやかましく舞っていたワイバーンは地に落ちる。

 身体は真っ二つに引き裂か二度と動くことはなかった。

 

「さすがスレイズ様! お見事です!」


「やっぱり最高の冒険者ね貴方は」


 称賛を浴びスレイズは気分が良くなるもののスレイズは表情を変えない。


 もうこのように褒められることは日常茶飯事となっているからだ。

 彼にとってこのような賛辞は挨拶と同じくらい当たり前となっている。


 持ち上げてくれるいい女達、そしてユウキの後釜として新たなに加入させた魔術師の女を加えパーティは更に華やかになっている。


「ただの雑魚を倒しただけだ。褒められることでもねぇよ。ユウキじゃあるめぇし」


「まぁスレイズ様! そのような強さを持つのにまだ成長しようとする心、感激いたしますわ!」


 彼に心酔してるリエスはもはやスレイズが何をやっても褒めちぎる。

 フレイもそうだが彼に「抱かせろ」と言われたら喜んで股を開く。

 

 重度の依存状態。

 フレイ以外の女がスレイズに近付けば嬲り殺すほど危険な状態だが、当の本人は優越感に浸れるという理由で放置している。


 周りに対するアピールもリエスやフレイがいるお陰でより強固になるからだ。


「Aランククエストもこの程度か。全くつまらないな」


「でもいいじゃない、報酬をたんまり稼げるんだから。それにあのお荷物も消えたしね」


「それは言えてる。もっと早くに追い出しても良かったよ」


 フレイの言うお荷物というのは紛れもなくの使えないかつての仲間。 

 ユウキ・アスハ、最初の方こそ使えたが今ではもう置物同然。   


 自分への優越感に浸るために彼を残し続けていたが、とうとう面倒になりユウキを追放することにした。


「まぁそんなことはいい、さっさとクエストを終わらせて今晩はヤるぞ」



* * *



「ラッシュ・ブレイク!」


 次から次へと湧き出てくる雑魚敵。

 レアアイテムを落とさない敵に用はない。一掃のスキルで蹴散らしていく。 


「チッ、ドロップが悪いな」


 予定外の出来事。

 折角、高難易度クエストに挑んだというのに落ちるのは価値のないアイテムのみ。


 初心者の冒険者からすれば喉から手が出るほど欲しい代物ばかりだが、スレイズ達にとっては二流の品でしかない。


「リエス、フレイ、そっちは?」


「申し訳ありませんスレイズ様、私の方にも良いドロップアイテムが来なくて……」


「私の方もよスレイズ、すまないわ……」


「今日は厄日か。おい新入り魔術師、そっちはどうだ?」


「えっ? あっは、はい! こっちも特にないですごめんね……じゃなかったごめんなさい!」


 新たに加入した魔術師、レイジュ・S・ストーカーは突然の質問にキョドり敬語とタメ口が混ざり合った言葉を放つ。


「ちょっと貴方、スレイズ様に何ですかその態度は! もっと淑女さを覚えなさい」


「全く落ち着きがほしいわね」 


「ご、ごめんなさい」

  

 リエスとフレイは無礼を働いたレイジュを強い口調で貶していく。


「おいおいレイジュよ、立場ってもん分かってるか? 俺が引き入れてやったんだからもっと敬意を払えよゴミ女」  


「えっ……い、いやあれは私が拒んだのをスレイズさん達が仲間に加入させただけで」


「なんか言ったか? ん?」


「な、何でもないです……」    


「聞こえないな〜? はっきり言えよ」


「何でもないです!」


「うるさっ、大声出すなよ下品なやつ」


 追撃のようにスレイズもレイジュに罵声を浴びせ反論仕掛けた彼女を強引に潰す。


 橙の髪を目にかかるくらいまで伸ばし、フードを深く被っている彼女。


 顔が可愛くAランクという実力。

 そしてモンスターの知識が豊富ということでスレイズが強引に加入させた人材。


 レイジュ自体はパワハラのような言動のスレイズ達に嫌悪感を示していたが力で脅迫され嫌々仲間となっている。


「言葉気をつけろよクズが、あと少しで日も沈む。そろそろ帰投するぞ」


「畏まりましたわ!」 


 夜になると危険度が上がり別に夜のためレアアイテムが手に入るとかでもない。  

 これ以上ここにいても無駄ということ。  


「今回は無駄な時間だったな」


 アイテムの整理を終えリエス達と共に帰投しようとしたその時だった。


「あ、あの!」


「あっ?」


 キョドり魔術師のレイジュがいきなり無駄に大きい声を上げる。

 

「すみません! でも、え、えっと何か来てます……」


「来てる?」


「これは……熊?」


 探知魔術を使っているレイジュは斜めの方向を指差す。

 耳を傾けるとズシン……ズシン……と地を踏む音が徐々に大きくなっていた。


「この感覚……まさかッ!」


 スレイズの脳裏に過ぎったある予感は直ぐにも的中する。

 その正体はよだれを垂らした白い巨大な熊であった。


「ブレイク・ベアーか……!」


 これはラッキーと心の中で狂喜する。


 ブレイク・ベアー、Aクラスの冒険者でも敗北に追い詰められる上級モンスター。

 しかしそれ故に討伐して身体の部位を売ればとてつもない高値になる。


「リエス、フレイ、レイジュ、隊列を組め」


「はい!」


「任せなさい」


「あっ、えっちょ、わ、分かりました!」


 スレイズからしても強敵だが恐れはない。ただいつも通りの戦いで潰せばいいこと。  


「グオァァァァァ!」

 

 心臓にまで響く鳴き声と共にただ目の前の相手を倒そうと突進してくる。

 迎え撃つように黄金に輝く剣を取り出したその時だった。


「えっ……?」


 何が起きたのか、スレイズ達は直ぐに理解できなかった。


 突進していたブレイク・ベアーは突然ブレーキをかけると地面に白い穴のような物が形成されていく。


 引きずりこまれるようにブレイク・ベアーは穴に吸い込まれ跡形もなく姿を消した。

 

「な、何だ!?」


「スレイズ様これは……!」


 なにかの幻覚魔術で夢を見てるのではないかと咄嗟にスレイズは頬を叩く。

 だが頬からは痛みを感じこれが現実であることを裏付ける結果を作ってしまう。


「ブレイク・ベアーが消えた……?」


 今起きた出来事を説明も出来ずスレイズ達はただ唖然とし、白い穴があった地面を見つめるしかなかった。






 




 

 

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